1922年にイギリスで出版されたイーデン・フィルポッツの本格ミステリーの古典「赤毛のレドメイン家」のアメリカ人探偵のピーター・ガンズは、映画を“創造された幻影”(訳・宇野利康)だという。人々は、フィルム、ライト、スクリーンという映画のメカニズムのことなどまったく忘れて、“創造された幻影”だけに夢中になる、と。何ごとにも裏がある。事件という物語だけに気を取られなさんなよ、ということ。
このミステリーが書かれた当時、映画は当然まだサイレントだった。やがて音がつき、カラーになる。
きっとこの時代の人たちは、トリック映画の元祖であるジョルジュ・メリエス監督「月世界旅行」(仏・1902年)を観て、驚きで眼を丸くしたに違いない。