これは冒険サスペンスやスパイ小説の世界でよく言われていることだが、ナチス・ドイツの登場は20世紀の大きな悲劇だが、少なくとも優れたスパイ小説だけは生み出した、というのがある。ナチス・ドイツの存在が作家たちの想像力と創作意欲を刺激し、傑作小説がいくつも書かれたということ。
映画にもそれが言える。
なるほどヒッチコックの「バルカン超特急」(英・1938年)で主人公たちが巻き込まれる陰謀はナチス・ドイツが仕掛けたものだし、第2次大戦前夜のオランダが舞台の「海外特派員」(英・1940年)もそうである。ヒッチコックは、ダフネ・デュ・モーリア原作の「レベッカ」(米・1940年)からアメリカで映画を撮り出すのだが、イギリス時代には国や組織の陰謀やスパイものを何本も撮っている。