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プロが選んだ はじめてのミュージカル映画 萩尾瞳ベストセレクション50
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エンタメ
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まえがき

『プロが選んだ はじめてのミュージカル映画 萩尾瞳ベストセレクション50』
[監修]萩尾瞳 [発行]近代映画社


読了目安時間:5分
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ミュージカル映画の誘惑



 ミュージカル映画ほど魅力きらめくジャンルはない。だって、そうでしょう? ドラマの魅力に音楽の魅力、ダンスの魅力が加わって、魅力が三倍どころか、三乗になるのだもの。もちろん、魅力が三乗になるのはとりわけ優れた作品だけだろうけれど。とはいえ、ドラマに音楽とダンスがプラスされているぶん、魅力のポイントは多い。つまり、つまんない話だけど、あの歌が美しいから、あのダンスがかっこいいから、大好きになるということがあるのも、ミュージカル映画ならでは。

 しかも、魅了された音楽やダンスがあると、映画を繰り返し見たくなり、繰り返し見れば見るほどさらにその映画が好きになってしまう、という魔力も持っている。一度はまると限りなく深みにはまっていく、という魔性のジャンル。中毒性はあるかもしれないけれど、危険は皆無の魔性。危険どころか、『シンデレラ』の優しい3人の魔女のように、歌とダンスという呪文で一気に夢の世界に誘ってくれるし、『メリー・ポピンズ』のジュリー・アンドリュースのように心を和ませてくれるし、『雨に唄えば』のジーン・ケリーのダンスのように元気もくれる。ミュージカル映画は、そんな素敵な魔法に満ちたジャンルなのだ。


ミュージカルという枠組み



 歌とダンスとせりふで物語を紡ぐ。それがミュージカル映画だ。ミュージカルというジャンルが生まれたのは、19世紀後半のブロードウェイの舞台。最初はミュージカル・コメディ、またミュージカル・ドラマとも呼ばれていたのが、単にミュージカルと呼ばれるようになったという経緯がある。元の呼び名から分かるように、音楽入りコメディあるいは音楽入りドラマでもある。ということで、広義ではプレスリーなどの歌入り映画もミュージカル映画に含まれる。実は、オペラや、バレエやダンス主体の映画との境界線も、けっこう曖昧。なぜなら、こうしたジャンルが重なる部分に位置するのがミュージカル映画だから。言ってみれば、いい所取り、ってこと。

 厳密には、歌やダンス・シーンを抜いてもドラマが成立するならミュージカル映画ではない、とも言える。でも、そんな窮屈な枠にこだわってしまうとそん。歌やダンスが加わって、より情感豊かに楽しく魅力を増したなら、それで十分なのだから。もちろん、ドラマと音楽とダンスが分かち難く縒り合わされ紡がれたミュージカル映画の輝かしさはとびきりだ。でも、少々縒りが甘くても、織りが粗くても、やっぱり魅力的で愛すべきミュージカル映画もいっぱいあるのだ。

 時に「突然歌ったり踊ったりするのは不自然」なんて言も聞くけれど、全く同意できない。だって、それって単に想像力が不足しているんじゃ……と思えちゃうから。フラッシュ・バックやイリュージョンの挿入に違和感を覚えないなら、ミュージカル・シーンにも違和感を覚えるはずがない。そも、ミュージカル・シーンはいきなり乱入するわけじゃない。気持ちが高揚し、ついにはそれが歌になり、さらにダンスへと発展していくのである。また、登場人物の心の奥や隠された状況をミュージカル・シーンに織り込む場合もある。

 だから、1シーンが伝える情報量が多く、ドラマの奥行きも深まる。それが、ミュージカル映画の醍醐味なのだ。第一、日常でも、気分が弾んだ時や逆に沈んだ気分をかき立てたい時に、人は何気なく歌ったり軽くステップ踏んだりするもの。そんな人間の感情、人間のドラマが、アーティスティックな手段で拡大表現されたものが、ミュージカル映画なのだ。もっとも、こんな理屈なんてどうでもいいこと。楽しめれば、こんなに素敵で人生を豊かにしてくれるものはない。これだけは、断言してしまう。


どんな素材も飲み込むミュージカル



 ミュージカル化できない物語はなんだろう、という話をしたことがある。「『ゴドーを待ちながら』なんて、どう?」と言ったのは、小田島恒志さん。早稲田大学教授で、ミュージカル好きの翻訳家だ。これ、なかなか来ないゴドー(ゴッドにかけたネーミング)を事情も分からず待ち続ける二人の話。事件らしい事件も起こらない不条理劇だから、普通の手法で映画にするのは難しそう。でも、逆にセンスのいいミュージカル映画にはなるかも、というのが、そのときの結論だ。だって、主人公たちの気持ちを歌やダンスで表現することこそ、ミュージカル映画の得意技なのだから。

 そう、ミュージカルにならない素材なんて、ない。『スウィーニー・トッド』のような殺人鬼の話も、『ターザン』のような活劇も、『81/2』のような映画監督の妄想話も『ナイン』というタイトルになって、もちろんコメディもラブ・ストーリーもヒューマン・ドラマも悲劇も政治的テーマもすべて飲み込んで、ミュージカル映画は豊かな実りを見せていく。

 ここで選んだ50本にも、ロマンティック・コメディから悲劇、心優しいヒューマン・ドラマから社会派ドラマまで、あらゆる色彩のミュージカル映画が並んでいる。どんなテーマもどんなメッセージも、声高に言い立てるのではなく、音楽やダンスに密やかに潜り込ませてじんわり心に浸み込ませていく。それこそがミュージカル映画の特質である。もちろん、お気に入りの、ひとつのナンバー、ひとつのダンスがあるだけで楽しめるのも、またミュージカル映画である。

 最後になってしまったけれど、作品解説をしてくださった小藤田千栄子さん、中島薫さん、村岡裕司さん、山内佳寿子さんに、たくさんの感謝を。ミュージカル映画に造詣が深く、なによりもミュージカルを愛している方々の執筆を得て、まさに♪素敵じゃない?♪(『マイ・フェア・レディ』より)を歌い出しそう。読者のみなさんも、そんな気分になってくださることを、切に願ってやみません。


 2008年5月

    萩尾 瞳

〈註〉本文中のスター、スタッフの表記は執筆者の原稿のままです。
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