監督……ロバート・ワイズ
ジェローム・ロビンス
脚本……アーネスト・リーマン
撮影……ダニエル・L・ファップ
出演……ナタリー・ウッド
リチャード・ベイマー
ジョージ・チャキリス
ラス・タンブリン
ミュージカル映画の金字塔といえば『ウェスト・サイド物語』。ジェローム・ロビンスの演出・振付でブロードウェイで上演された舞台が、即映画化された作品。音楽も振付もストーリーも文句なし。「神が宿ったミュージカル」という賞賛も納得の、名作中の名作だ。
物語は、60年代初頭ニューヨークのウェスト・サイドが舞台。移民たちが流れ込んでくるこの町では、人種の異なる二つの不良グループが対立している。ポーランド系移民のジェット団と、プエルトリコ移民のシャーク団だ。ジェット団のリーダーはリフ(ラス・タンブリン)。シャーク団のリーダーはベルナルド(ジョージ・チャキリス)。リフの兄貴格でいまはグループを抜けたトニー(リチャード・ベイマー)と、ベルナルドの妹マリア(ナタリー・ウッド)がダンス・パーティで出逢い、恋に落ちる。敵対するグループに所属する者同士の恋。ただでも困難な二人の恋路は、グループのけんかを仲裁しようとしたトニーが誤ってベルナルドを殺してしまったことから、一気に悲劇へと突き進んでいく。
というストーリーを聞いて、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を連想する人もいるはず。それも当然、あの名作のアダプテーションなのだから。ヴェローナをニューヨークに、対立する名家を人種に置き換えた発想も抜群なら、主人公たちの舞踏会での出逢いやバルコニーでの愛の囁きなど、原作にあるシーンをちゃんと盛り込んだ手腕も見事。
ただし、ラストは大きく原作と異なる。ロミオとジュリエットは二人とも死んでしまうけれど、ここではマリアだけが生き残る。トニーを死に追いやった偏見と対立を彼女が非難し、二つのグループが力を合わせてトニーの死骸を運んでいく。残ったマリアは、偏見も争いもない未来への希望の象徴なのだ。かつて追い詰められた恋人たちが、美しい未来を夢見て歌った優しい歌「サムホェア」のメロディが被さるラスト・シーンは感動的だ。
音楽はレナード・バーンスタイン。名指揮者としても知られる彼が、クラシックの作法にジャズの技法を織り込んで生み出したミュージカル・ナンバーは、永遠の輝きを持っている。「トゥナイト」「マリア」など、ほとんどの曲がスタンダード・ナンバーとして愛され続けているのだ。さらに、ロビンスの振付の鮮烈さ。チャキリスらが脚を高く揚げて踊るダイナミックなダンス・シーンをはじめ、どのダンスもドラマティックで、時間に洗われた今現在でもドキドキするほど新鮮だ。
監督ロバート・ワイズは、原作舞台の魅力を生かしながら、映像ならではの躍動感を作品に加えている。オープニング、マンハッタンの街を俯瞰するカメラがぐんぐんと寄っていき、やがてウェスト・サイドの町角にたむろするジェット団に着地する。この導入の、高揚感ったら。ついでながら、ワイズ監督は『サウンド・オブ・ミュージック』(65)の冒頭でも同じ手法を使っている。 (萩尾)