スティーブ・ジョブズに私たちが惹かれるのは、なぜだろう?
彼と同じように若くして成功した人なら数多くいる。同じように独創的な製品を出し続ける人もいないではない。私たちは、そんな成功者や天才をうらやみ、尊敬する。
だが、どこか別世界の人のように感じてしまうのも確かだ。
しかし、ジョブズだけは不思議と身近な存在である。
それは、ジョブズが解決してきた大小たくさんの「問題」と、私たちが人生で出合う「問題」との間に、多くの共通項があるからだ。
世界を大きく変えたカリスマでさえも、私たちと同じように、組織の中でさまざまな人間関係にぶつかり、もがいてきたのである。
表面だけを見れば、ジョブズの問題解決法は、とてもまねができるようなものではない。
常識外れのハードなやり方や、掟破りの発想が多く含まれている。
だが、よく見ると、そこには「ハーイ、君は何のために働くんだい?」というジョブズの問いと答えが、常に通奏低音のように響いているのがわかる。
ジョブズは、なぜこれほどまでに多くの問題にぶつかり(あるいは自分から問題を引き起こし)、しかも“茨の道”を歩むような解決策を選ぶのか。
それは、心の底からつくりたいものがあり、何が何でもそれを形にして、世界をよりよくしたいからだ。
その思いで働けば、問題は抑圧的な壁ではなく、越えればさらに上に上がれるステップになってしまう。
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「問題」は、乗り越えることで人を成長させ、仕事を大きくし、成果を倍にするものだ。
もし、問題が起きるのは上司や組織のせいであるとか、問題とは人をダメにする苦痛以外の何ものでもないと感じているとしたら、受け身の姿勢になりすぎている。
問題など、起きないほうがいいに決まっている。
だから、事前準備をしっかり行い、悪い芽は摘み取っておく。しかし、それでも次から次へと起きるのが問題なのだ。
避けたり、誰かに押しつけたり、隠したり、見て見ぬふりをしたりしてはいけない。
そんなことをしても、根本的な解決にはならないのだ。
問題を次のステージへのステップととらえ、前向きに対処すると、ひたすら対応に追われるのではなく、迎え撃つことができるようになる。そうなれば、今まで見えなかった新しい景色が見えてくるのだ。
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本書は、ジョブズが出合った数々の問題と、解決のドラマをまとめたものだが、彼の痛快な人生ダイジェストとして読むこともできる。
アップルを創業し、若くして富豪になるが、追放されて「全米で一番有名な失業者」に転落。苦難のあと、ピクサーの成功によって再び巨万の富を得るも、それでも満足せずにアップルに復帰し……という波乱に富んだ生き方は、私たちの心をとらえて放さない(詳細は、次の「スティーブ・ジョブズの軌跡」参照)。
こうした数々のエピソードからは、問題解決のためにジョブズが繰り出す驚異のワザだけでなく、その根本にある志や、仕事への情熱が感じ取れるだろう。
それが、今も問題に直面しているみなさんの勇気となり、力となれば幸いである。
桑原晃弥