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シネマでごちそうさま 恋と仕事と、女たち
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エンタメ
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愛する人に心を込めた料理を食べてもらう喜び! 『初恋のきた道』

『シネマでごちそうさま 恋と仕事と、女たち』
[著]まつかわゆま [発行]近代映画社


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 世界の名だたる映画祭でアジア映画が注目されるようになったのは1989年の『悲情城市』('89年)のベネチア国際映画祭金獅子賞受賞と『紅いコーリャン』('87年)の'88年度ベルリン国際映画祭金熊賞受賞から。以来、20世紀最後の10年間は、中東も含めたアジア映画の時代、となりました。

 その最後の年をベルリン映画祭銀熊賞で飾ったのが『紅いコーリャン』の監督チャン・イーモウ(張芸謀)のシンプルなラブ・ストーリー『初恋のきた道』('99年)でした。

 イーモウは、文革時代に下放政策のために進学できず、文革後に映画学校に入った“第5世代”の監督の一人で、最初はカメラマンとして頭角を現わしました。監督となってからも、彼の映像感覚、特に色彩の使い方は彼独自のもの。鮮やかな紅、それが彼の色です。
“第5世代”の監督たちは中国の開放政策のもとで世界の映画祭に進出し注目を浴びていきましたが、作品が“反体制的”とみなされた場合は出品の見合わせだけでなく、製作禁止、国外活動禁止などということになり、せっかくの受賞作も国内上映禁止になることもたびたびありました。

 その中で監督たちは方向性を様々に模索してゆきます。『菊豆(チュイトウ)』('90年)『紅夢』('91年)と外国の映画賞にからむ作品を作りながらも、国内上映を禁止されたイーモウが選んだ方法は、農山村の生活をモチーフにした人間喜劇でした。
『初恋のきた道』も農村に住む少女ディと、教師の恋物語。文盲の少女は教師に恋心を伝えようと、せっせと食事を作り彼に届けます。18歳のおさげの似合う少女は紅い服を着て紅い布を織ります。白一色の雪の中、紅い服の彼女が、町から帰るはずの教師を待ち続ける。その紅が、白一色に鮮やかに映えるシーンは、やはりチャン・イーモウ、という映像です。

 ディは盲目の祖母と暮らす村一番の美少女。40年前のこと、村に小学校が建つことになり、町から20歳の青年チャンユーが教師として赴任してきます。ディは彼に恋をしました。学校を建設する男たちに女たちが食事を運びます。ディはチャンユーが手にするよう、自分の料理が入った青花模様の椀の場所を変えてみたりします。椀には炒め物でしょうか、おかずが入り、ディは焼きあげた葱油餅(ツォンヨービン)を4枚その上に乗せ、一回り小さい椀をかぶせて大切に布で包みます。

 決して豊かな村ではありません。ディの家も女二人のつましい暮しです。戸棚には青花椀を含めて椀が四つ重ねてあるだけ。それが普通の暮し、という村。採れる作物はしれたもの。肉などたまに庭の鶏をつぶすくらい。米よりも小麦、雑穀を主食とするような華北の村。それでもディが作る料理はチャンユーの心をとらえます。

 ディの恋心が伝わり、チャンユーはディの家に食事に来ます。チャンユーがパリッパリッと音を立てて食べるのを聞き、祖母が言います。
「若い男の食べる音はいい。かみしめる力が違う」

 この一言に夫を亡くした祖母の寂しさと、そしてディの喜びもうかがえます。愛する人に心込めて作った料理を美味しそうにたくさん食べてもらう。それが喜びでなくて何? シンプルな愛、です。

 チャンユーはディの餃子を食べに行くと約束します。北の地方で餃子は祝いの食べ物。正月も餃子で祝います。この餃子はディのとっておきの一品。けれどチャンユーは町に連れていかれます。彼を追ったディは転び、餃子を入れた椀も割れます。祖母は椀を修理屋に出します。銅の(かすがい)でつがれた椀は、つぶれそうなディの心。祖母は修理屋に語ります。
「椀を使った人が孫娘の心を持って行ってしまった」

 ディは待ち続けます。町へと続く一本の道で、彼が帰ってくる時を。この道はディに初恋を連れて来た道だから。

 ガール・ミーツ・ボーイ。それだけの話ですが、こんなにも雄弁に、“恋”を語り“愛”や“絆”、“縁”や“恩”を語る映画が過去にあったでしょうか。

 純情でまっすぐで、料理の上手なディを演ずる新人女優チャン・ツィイーの手柄であり、彼女を見つけ、映画を撮ったチャン・イーモウの手柄、です。
(2000年12月号掲載)
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