読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1023355
0
性格分析が面白いほどわかる本
2
0
6
0
0
0
0
生き方・教養
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
人にはそれぞれ決まった「性格」があるのか?――パーソナリティー信仰

『性格分析が面白いほどわかる本』
[編]心の謎を探る会 [発行] 河出書房新社


読了目安時間:4分
この記事が役に立った
6
| |
文字サイズ


 人間には誰しも、それぞれ生まれもった性格がある――ほとんどの人が、このことを信じて疑わない。
「あいつはズボラだから、宴会の幹事はまかせられない」
「あの人はケチだから、金を貸してくれないだろう」
「彼女は優しい人だから、きっと許してくれる」
「彼は消極的な人間だから、この試験にはトライしないだろう」

 こうした先入観は、すべて”パーソナリティー(性格)信仰”のたまものといえるだろう。

 社会生活の基本は、他人とのかかわりである。社会生活をスムーズに送るには、他人の行動を事前に予測することが必要になる。ほとんどの人が、その予測によって、他人から受ける利を大きくし、害を少なくしようとする。「優しくない」と思われる他人には子供をあずけないし、「こすっからい」と思われる人からは金を借りない。

 人それぞれのパーソナリティーは、人が、社会生活という旅をするためのロード・マップのようなものだ。パーソナリティー信仰が生まれたのは、そういう社会生活上の知恵と大いに関係があるのだろう。また、そこには、人間全体から個人(個性)を切り離すことによる人間理解への欲求も強く働いているに違いない。

 性格心理学の分野においても、長らく、パーソナリティー信仰が強い影響をあたえつづけていた。一口にいうと、人間の行動は、ほとんどがパーソナリティーによって決定されるものと信じられていたのだ。

 ところが、その定説に敢然と異を唱えたのが、心理学者・ウォルター・ミッシェルだった。それまでの性格心理学では、パーソナリティーこそが「行動の一貫性」をもたらす内的要因と考えられていた。しかしミッシェルは、その「行動の一貫性」じたいに疑いをむけることによって、大胆なアンチテーゼへの第一歩を踏みだしたのだ。

 ミッシェルによれば、パーソナリティーと行動とのあいだには、一般に信じられているほどの強い相関関係はない。人間の行動は、パーソナリティー以外に、外的状況によって大きく左右されるというのが、ミッシェルの説の根幹である。

 この説にしたがえば、「日ごろ優しい人」も、状況によっては鬼となり、「日ごろの悪人」も、状況によっては善人となる。

 たとえば、『火垂(ほた)るの墓』(野坂昭如著)にはこんな夫人が登場する。彼女は、空襲で母親と家を失ったふたりの子(兄と妹)を引き取って、優しくめんどうを見る。だが、日本の敗戦が濃厚となり、食糧事情が悪化するにつれて、その兄と妹を迫害する鬼になっていく。つまり、あわれな兄と妹にたいする夫人の行動は、「優しく親切な」パーソナリティーよりも、「戦時下の食糧難」という外的状況に強く支配される結果になったわけだ。

 芥川龍之介の『蜘蛛(くも)の糸』に登場するカンダタは、殺人と強盗の常習者なのだが、あるとき、道ばたの蜘蛛を踏み殺そうとして思いとどまる。お釈迦(しゃか)様は、その一点の優しさにめんじて、死んで地獄に落ちたカンダタに蜘蛛の糸を垂れてやる。ところが、蜘蛛の糸をつたって極楽に上りかけたカンダタは、あとから地獄の亡者たちが上ってくると、たちまち極悪人の顔をむきだしにする。「ついてくるんじゃねえ、俺さまの糸が切れてしまうじゃねえか」と醜い罵声(ばせい)を浴びせるのだ。そこで蜘蛛の糸が切れて、カンダタは、ふたたび地獄に落ちる……。

 カンダタが蜘蛛の命を助けたのは、そのことによる自分への不都合がなかったからだ。これは、殺人と強盗の常習者といえども、さしあたって損も得もない状況下においては、とくに攻撃的なパーソナリティーの支配を受けないことを物語っている。

 さて、こうしたミッシェルの説は、レヴィンの有名な公式を敷衍(ふえん)したものともいえる。

 B=f(P,E)

 この公式は、人間のBehavior(行動)は、Personality(性格)とEnvironment(環境)のふたつのfactor(要素)によって決定されることを表わしている。

 ミッシェルは、そのPとEのうち、Eの影響を重視することによって性格心理学における発想の転換を行なったわけだ。

 とはいえ、ミッシェル説が、Pの要素を無視しているわけではない。人間個人の行動は、EとPの複雑な相互作用によってもたらされる――。それが、ミッシェル説の要点である。

 たとえば、ミッシェルによれば、自己認識の強い人は、状況に応じて行動を変える傾向にある。「私は、ズボラだから」と口にする人が、案外、ここぞというときに几帳面(きちょうめん)だったりするのは、あなたにもおぼえがあるだろう。そうなってくると、はたして、その人がズボラなのか几帳面なのかがわからなくなってくる。人間の性格とは、一般に信じられているほど確かな存在ではないのかもしれないのだ。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
6
残り:0文字/本文:1949文字
      この記事を収録している本
      レビューを書くレビューを書く
      この本の目次