フランス作家の持味と魅力
日本では、フランスの推理小説なり犯罪小説が、ごくわずかしか紹介されていない。といってイギリスでもアメリカでも、そう熱はあげていないのであるが、最近はフランスでも面白い作品があいついで出版されるようになってきた。
たとえば「死刑台のエレベーター」の原作者ノエル・カレフは、輸入されなかった映画であるが、セルジュ・レジアーニ主演「運搬人の失敗」の原作者でもあって、このスリラー小説は「その子を殺すな」と改題されて邦訳されており、翻訳もののなかでは最近最も評判がよかったものの一つであった。
だいたいが、フランス作家は、これはいいと考えた何か新しいテーマなり細部的なアイディアを、作品のなかで強く打ち出してみせる特性がある。つまりが狙った対象に食いつきながら、徹底的に追求していく性癖を多くの作家が持っている。これをイギリス作家の場合と比較すると、こっちはいかに物語をうまく面白く語っていこうかという作家的自己訓練が、全般的に見て非情に高度なレヴェルにたっしている。