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植草甚一WORKS1映画と原作について考えてみよう
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「ケイン号の叛乱」あとがき

『植草甚一WORKS1映画と原作について考えてみよう』
[著]植草甚一 [発行]近代映画社


読了目安時間:18分
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作者について
「ケイン号の叛乱」の原作者であるハーマン・ウォークは当年とって三十九歳であり、この小説によって一九五一年度のピューリッツァー賞をあたえられているが、作家としての特色は、その旺盛な風刺精神にあると言っていい。もともと比較文学研究家であるウォークは十八世紀文学に通じ、なかんずくイギリスの風刺作家ヘンリー・フィールディングをよく読んだことから、それが処女作「オーロラ・ドーン」に影響した。オーロラ・ドーンというのは新しく発売された石鹸の名前であり、これをいかにして売込むかというラジオ放送戦術と放送界の内幕を描きながら、主人公のロマンスを織込んでいくが、その文章スタイルがすっかりフィールディング式になっていて一種のんびりとした味が面白く、新人作家として期待されることになった。

 この小説をウォークは海軍士官として海上勤務している間に書いた。「ケイン号の叛乱」でフレッド・マクマレーが扮したキーファ大尉は、ジェームズ・ジョイスの小説のなかでも一番厄介な「フィネガンズ・ウェイク」を愛読している小説家であり、あとで叛乱の張本人であることが明るみに出される。つまりウォークという作家は、戦後輩出した心理派の新しい作家群に対立する存在であることが、こうした点からも分かるのであるが、一方その裏に隠された風刺精神を見逃すわけにはいかない。書くべき対象をはっきりと見極めること、そして鋭い観察眼を通してそこに風刺は生れるが、もしこの風刺精神が、ある一つの大きな問題にたいして真面目に働きかけた場合はどうなるであろうか。それがウォークにあっては「ケイン号の叛乱」となったのである。

 この小説が一九五一年四月のはじめに出版されて以来、長い間海軍生活をした人たちのなかで、クィーグ艦長のような人間にぶつかった経験はないといって、この小説を非難する者が大勢出てきた。しかしまたクィーグ艦長ほどではないが、似たような指揮官のもとで働かされた者もいたのである。作者自身も、これをフィクションだとは言わないまでも、これと同じ事件はなかったと前置きしながら、肩すかしを試みている。しかし、小説家である以上は、いくらいろいろな材料をあつめて取捨選択したとはいえ、これだけのものを出鱈目で書けるわけはないのであって、これに似た事件がどこかで起こったと考えないわけにはいかない。
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