ビリー・ワイルダーは目下なかなか好調だ。リンドバーグ映画についで「昼下りの情事」を監督し、これがまだ未公開なのに、早くも七月末に「検察側の証人」(註・日本公開題名は「情婦」)をクランク・アップしている。新着スチルを眺めながら、この作品にも期待したくなった。
「検察側の証人」の原作は、アガサ・クリスティが一九三二年に発表した短篇であるが、これを女史がみずから芝居に書き直し、ロンドンでは一九五三年の暮れから、ブロードウェイでは一九五四年の暮れから舞台にかけられて、ともに足かけ三年のロングランを打った。
ワイルダーは舞台劇を映画化するにしても「第十七捕虜収容所」「麗しのサブリナ」「七年目の浮気」で見られたように、舞台の枠を感じさせない。どれにも映画の息が通っている。ところが、今度の「検察側の証人」は法廷劇であり、オールド・ベイリーの法廷で、ほとんど筋が運ばれていく。