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心霊体験 あなたの知らない世界
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エンタメ
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1 夜中に男の霊が枕辺に立つ!

『心霊体験 あなたの知らない世界』
[著]新倉イワオ [発行] 河出書房新社


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*  *  *


 ある晩、寝汗をかいて熟睡(じゅくすい)できず、布団(ふとん)で目を覚ますと、猛烈な金縛(かなしば)りにあい、背広姿の男が背中をむけて寝床からすこし離れたところに立っているのが見えました。こんなことが三日もつづいています。これは、いったいなんの霊なのでしょうか?

*  *  *


 海野明信さんは、ミュージカル・スターを夢見て勉強中の三十七歳の役者だが、まだ、まったくといっていいほど無名である。その海野さんのご相談は、幽霊らしいものを三日つづけて見たということだった。
「ここ何日かものすごい寝汗をかいて、夜中に目が覚めるんです。すると、金縛りで体がぜんぜん動かなくなっていて、自分の布団からすこし離れたところに背広姿の男がぼんやりと背をむけて立っているのが見えるんです。

 顔はよく見えなくて、『誰だ?』って叫びたいんですけど、声すら出ない。記憶が妙にリアルではっきり覚えていますし、夢なんかじゃありません。そんなことが三日もつづいていまして、なんだか気味が悪くて……。こういうのが心霊現象っていうんでしょうか?」

 とおっしゃる。

 お話をうかがってみると、海野さんはいままで心霊の世界にはまったく興味がなかったのだが、このときばかりは気味が悪くなって相談に見えたのだ。現在は閉鎖してしまったが、かつて私は心霊相談室を開いていた。そしてその当時、相談室の専任霊能者であった石崎恵宝(いしざきえほう)さんに海野さんを霊視していただくことにした(以下、石崎恵宝さんをI氏とさせていただく)。ところが、I氏は、いくら海野さんを霊視しても、なにも見えなかった。いい霊も悪い霊もまったくないのだ。

 がっかりされた海野さんは、
「三日もつづけて男の霊があらわれたんで、これはなにかあるって思ったんですけど、霊能者になにも見えないとなると、あれは霊現象じゃなかったんでしょうか。まだ怖くてしようがないんですよ」

 とおっしゃる。それにしても、これだけハッキリした現象が起きている人に対しては、ふつう霊能者はなにか反応を示すものである。しかしなにも見えないということで、私も困ってしまったのだが、
「石崎さんが見えないといっているんですから、まあ気になさらないでいいんじゃないでしょうか? どうしても怖いとおっしゃるのなら、電気をつけておやすみになるとか、アイマスクをつかわれてみてはいかがですか?」

 と、苦しまぎれにいうと、
「それもそうですねえ」

 と、それほど深刻ではなさそうである。その後、海野さんの寝床にはパッタリと幽霊も出なくなった。ところが、この不思議な現象は、ほんのプロローグだった。

 海野さんには、豊田さんという同じ事務所に所属する同年代の親しい役者仲間がいた。家も近所だったこともあって、つらいときも苦しいときもお互いに(はげ)まし合ってきた間柄である。

 ちょうど海野さんが幽霊に悩まされていたころ、豊田さんはカゼをひいて家で寝込んで、事務所にも数日間、顔を出していなかった。といってもたいして仕事はなく、休んだところで、どうということもないのだが……。

 海野さんが霊視を受けられて三日後の夜、その豊田さんから、電話が入った。
「豊田か! 久しぶりだなあ、どうだい、カゼの具合は?」
「うん、ちょっとカゼが長引いちゃってね」
「そうか、はやく治してがんばれよな」
「おまえもがんばれよ」

 と、ごく短い会話をかわして二人は電話を切った。受話器を置いたそのとたん、また海野さんの電話のベルが鳴った。受話器を取ると、今度は事務所からである。

 次の芝居(しばい)で、海野さんに役がついたという連絡だった。といっても、それほどたいした役とはいえないのだが、海野さんには、とにかく朗報(ろうほう)だった。
「明日、(くわ)しい話を聞きに事務所にいきます」

 といって電話を切ると、間もなく電話のベルが鳴った。受話器を取ると、ふたたび豊田さんである。
「やあ、どうしたんだい?」

 というと、
「おめでとう」

 と、ひと言だけいう。
「君も出るのかい?」

 と(たず)ねると、なにも答えずにプツリと電話が切れてしまった。海野さんは、ヘンなやつだな、と思いながら受話器を置いた。

 翌日、海野さんが事務所にむかう途中、駅でバッタリ豊田さんに出くわした。
「よかったなあ」

 と、豊田さんは、声をかけてきた。
「どうだい、カゼは治ったの?」
「相変わらず調子が悪くてね、今日も事務所にはいかないよ。海野、がんばれよ」
「うん、ありがとう」

 そういって、二人は別れた。海野さんは、自分が出る芝居のことを思うと、自然と足取りも軽くなり、元気よく「おはよう」といって事務所に入った。すると事務所には暗く(よど)んだ空気が流れている。マネジャーが、海野さんにポツリといった。
「びっくりしたよなあ、豊田が死ぬなんて……」
「えっ、そんなバカな!」
「知らなかったのか? 夕べ()くなったそうだ」
「そんなこと絶対ないよ。おれ、きのう豊田と電話でしゃべったし、今朝も駅で会ってきたばかりなんだ」

 と海野さんはいい張ったが、やはり豊田さんは病気で昨夜、亡くなっていたのだった。しかも死亡時刻を聞いてみると、海野さんが豊田さんと電話で会話していたとき、すでに豊田さんは亡くなっていたのだ。とすると、海野さんが駅前で見た姿はまぎれもなく豊田さんの霊だったことになる。それに、なぜ豊田さんは、海野さんに役がついたことを知ったのか、というのも不思議である。

 海野さんはおっしゃる。
「そういえば、三日つづけてあらわれた背広姿の霊も、いまから考えてみると、あれは豊田の姿だったような気がするんです。いや、そうに違いありません」

 では、豊田さんの霊が、海野さんの前にあらわれたのはなぜだったのだろうか? 海野さんが芝居で役を得ることを予知して嫉妬心(しっとしん)をもってやってきた生霊(いきりょう)のか、あるいは、自分は病気でもうダメかもしれないという別れを告げにきていた幽体離脱現象(ゆうたいりだつげんしょう)〈注〉だったのだろうか? 海野さんは、そこのところを不安がられる。

 私は、海野さんに、自分の考えを次のように申し上げた。

 なぜ海野さんが金縛りに襲われたり、寝汗をかいたのかはわからない。ただ、豊田さんは周囲が考えている以上に病状が深刻であることを自覚して、海野さんといっしょに芝居をしたかったという思いと、「がんばれよ」という思いを伝えるためにあらわれたのだろう。

 もし、嫉妬心があったとするなら、死後、電話や駅で会ったときに「がんばれよ」といった好意的な言葉は出なかったはずだ。ひょっとすると、豊田さんは自分の病状の悪さに、もう芝居ができないということを(さと)って、(さび)しがっていたのかもしれない。

 それにしても、なぜ霊から電話がかかってきたのかは、まったく説明できない。

 それと、これも私の推測だが、I氏の霊視で、海野さんになにも霊が見えなかったのは、霊視中、豊田さんは完全に幽体(姿)を隠していたからなのかもしれない。

〈注〉幽体離脱 生きている人の幽体が、肉体を抜け出て、本人が執着のある人や場所にあらわれる現象をいう。無意識に行われることが多いといわれている。
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