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植草甚一WORKS4この映画を僕はこう見る
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エンタメ
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キャロル・リードの傑作「第三の男」

『植草甚一WORKS4この映画を僕はこう見る』
[著]植草甚一 [発行]近代映画社


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 キャロル・リード監督の「第三の男」が日本でもいよいよ公開されようとしている。この作品がイギリスとアメリカでほとんど同時に公開されたのは一九四九年の九月であった。そして、この九月に第二回カンヌ国際映画祭が開催されたが、これに出品され、グラン・プリをとっている。当時の評判は実に素晴しく、チターの伴奏音楽はレコードはもちろん、ラジオでもさかんに放送され、世界各国の人々に親しまれた。

 この映画を見た人々は、一人残らず、このチターの音楽に引きつけられてしまい、二度も三度も繰返して見ている人が少なくないのである。現にヒュー・ロス・ウィリアムスンというイギリスの批評家も四回見たあとで批評を書いている。

 チターは古代楽器の一つでギターに似た音を出すのが特色である。キャロル・リードは、アントン・カラスというウィーン人がこれを弾いているのを聴いて感心してしまい、さっそく映画の伴奏に使ったのであるが、この映画ではチターのほかの楽器は何一つ使っていない。そしてチターがただ一つのメロディを、あるときは感傷的に、あるときは荒々しく繰返してゆくのであるが、それが登場人物の心理と結びついて驚くべき効果をあげる。ある批評家は、この映画の主人公はチターだと言ったが、それほど印象に深く残ってしまうものがある。

 しかしながら「第三の男」は音楽だけでなく、あらゆる点で傑出している。たとえばロバート・クラスカーが撮影した夜のウィーンの街などほかに比較するものがないであろう。このクラスカーはキャロル・リードの「邪魔者は殺せ」の撮影者であるが、夜の街の雰囲気や影の効果など、今度はさらに素晴しく冴えたところを見せているのである。

 そして四人の主演者、ジョゼフ・コットン、オーソン・ウェルズ、アリダ・ヴァリ、トレヴァー・ハワードが、それぞれ最高の演技を発揮している。

 ジョゼフ・コットンが扮するのはホリー・マーチンスという西部小説を書いているアメリカ作家であるが、彼は友達に会いに戦後のウィーンにやってくる。ウィーンは「ジープの四人」で見たように英米仏ソの四ヶ国によって占領されている。彼が着いてみると、友達は自動車に轢かれて死んでいる。しかし、ある夜ふけのこと、彼はウィーンの街で死んだはずの友達の姿を発見する。彼は大声で呼んでみたが、次の瞬間、相手の姿はどこかに消えてしまっている。こうしたスリラー的な雰囲気のなかに事件が展開されてゆく。

 オーソン・ウェルズが扮するのはハリー・ライムというアメリカ人で慈善事業のためウィーンに来たが、ペニシリンの横流しをしたかどで警察のお尋ね者になっている。彼は死んだと噂されていて、彼の恋人も死んだものと諦めているが、実は生きている。ジョゼフ・コットンが会いに来た友達はすなわちオーソン・ウェルズである。彼は最後に追跡され下水のなかを逃げながらコットンの放った弾丸に倒れる。

 アリダ・ヴァリが扮するのはアンナという女優でハリー・ライムの恋人である。ホリー・マーチンスは友達の死に疑念を抱いて彼女を訪れ事情を聞くが、そのときから彼女の美しさに引きつけられてしまう。しかしアンナにはハリーが永久に忘れられない。そして彼が生きていると知ったとき、追跡者から彼を救おうとするが失敗する。

 トレヴァー・ハワードが扮するのはイギリス地区の管理にあたっているキャロウェイ少佐である。彼はホリー・マーチンスがウィーンに到着したときから、いろいろな場所で顔を合わせ感情的に衝突する。そして彼はペニシリン横流し事件の調査にあたりながら、ハリー・ライムがどんな罪悪をしでかしたかをマーチンスに説明し、ついに相手を納得させる。

 これらの四人を主要人物にして、グレアム・グリーンはキャロル・リードのために素晴しい物語ふうシナリオを書いたのである。この原作は邦訳されているが、本誌の物語によってもよく分かるであろう。グリーンとキャロル・リードは「第三の男」の前に「落ちた偶像」で協力しているが、最近わが国でもさかんに研究されているように現在活躍している世界的作家であり、いままでの小説の大部分が映画化されている。

 キャロル・リードの演出は最も洗練されたスリラーとして完璧な出来ばえである。実はこの映画をスリラーというのは少し誤りであって、もっと深い人間的洞察がなされている。この点をある批評家は次のように言っている――「第三の男」の欠点をもし指摘するなら、最も演出的に弱い個所でも、驚くほど興奮させるスリラーになっていることである――と。この逆説的な言い方には、映画の特色がいかんなく出ている。

 なお、この作品はロンドン・フィルムとセルズニックの提携になるもので、ジョゼフ・コットン、アリダ・ヴァリが出演しているのも、セルズニックの息がかかってるためである。
(1952年7月号掲載)
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