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日本の恐怖怪談
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死を準備する姉妹

『日本の恐怖怪談』
[著]冬野次郎 [発行] 河出書房新社


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〈不気味な生まれ方をした二人の姉妹。彼女たちは成長するにつれて、妙な言動をしはじめた……。〉


 長女は不気味な生まれ方をした。生まれた瞬間にも、長女はほとんど産声らしきものをあげずに押し黙ったまま、母親である兵藤英子さん(当時二五歳)の顔をジーッとみつめていた。

 英子さんがいくらあやしても、その子はほとんど笑うことがなかった。こうしたおかしな状態が、その後もずっとつづいたのである。

 真紀ちゃんと名づけられた長女は、二歳になっても三歳になっても、ほとんどニコリともしないで、母親の顔を恨めしそうにジーッとみつめるのである。

 そして満四歳の誕生日の朝、驚くべきことが起こった。朝食前に英子さんが、隣室で誰かがブツブツいっている声に気づいた。いってみると、真紀ちゃんが仏壇にむかってお経をあげているではないか。それも、けっしてマネごとではない。まじめな顔で、真剣にお経をあげていたのだ。もちろん、誰も彼女にお経など教えていない。

 ギョッとした英子さんは「あなたッ」と夫をよんだ。もちろん、夫とて仰天である。なんということだろうと、二人は思わず息をのんで、顔をみあわせてしまった。
「真紀ちゃん、どうしたの?」と英子さんが聞くと、真紀ちゃんは「だって、あたしはここから生まれてきたんだもの」といって、仏壇を指さすのだ。

 これには、父親もただ驚くばかりであった。誰からも教えられていないお経を、四歳の女の子が突然唱えはじめるという不可怪な謎は、そのときの両親にはまったく解けなかった。

 その翌年に、次女の由紀ちゃんが生まれた。ところが、彼女も真紀ちゃんとまったく同じで、ニコリともしない赤ん坊だった。

 やがて、真紀ちゃんは小学校へ入学した。それからも、朝食前にかならずお経を読むという奇妙な習慣がつづいた。食事のときは、お茶碗に箸を立てる。「縁起が悪いことするもんじゃありませんッ」と英子さんが叱った。すると真紀ちゃんは、平然とこう答えたのだ。
「だって、あたしは陰膳(かげぜん)を食べたいんだもの」

 そういって、母親の顔を憎悪に満ちた表情でみつめるのだ。両親、とりわけ母親にはまったくなつこうとしなかった。

 不気味なことに、こうした真紀ちゃんの性格や生活は、次女の由紀ちゃんもそっくり受け継いだ。家の中は毎朝、線香のにおいが立ちこめて、まるで墓場かお寺のようであった。

 真紀ちゃんが小学校六年生になったころから、その容貌にひとつの特徴があらわれてきた。目が三角につりあがってきたのである。次女の由紀ちゃんにも、同じような特徴が出てきた。うりふたつである。

 英子さんは「どこかでみた顔だ」と思ったが、思い出せなかった。

 真紀ちゃんが中学に入ったとき、彼女は決定的なことを口にした。
「お母さん、あたし、キツネに似てるでしょ。キツネはトカゲを食べるのかしら?」

 といったのである。

 そのひとことを聞いて、英子さんは「アッ」と叫んで、思わず身震いした。そして「道子ちゃん……」といって絶句してしまった。

 それは、英子さんの中学時代の同窓生の名だった。その女の子は、目が三角につりあがってキツネのようだった。それで、英子さんが中心になって、道子さんをさんざんいじめたのである。
「キツネ、キツネ」とののしるばかりではなく、男の子に命じて、くさった野菜をカバンに入れたり、トカゲを背中から押しこんで「キツネはトカゲでも食べてな」などとあざ笑ったというから、かなりひどいことをくり返していたようだ。

 そんないじめに耐えかねて、道子さんは気の毒にも、中学二年生のときに電車に飛びこんで自殺してしまったのだ。英子さんが中心になって、いじめ殺したも同然だった。

 さすがにこの事件は、英子さんにとって耐えがたいものとなった。一刻も早く忘れ去らねば、自分の神経がやられてしまう。そういう努力もあって、道子さんのことは長いあいだ、記憶の闇に沈められていたのだ。

 しかし、ついに最悪の事態が起こった。その道子さん同様、真紀ちゃんが近所の高崎線の電車に飛びこんで自殺したのである。

 それはちょうど、道子さんの命日だった。

 真紀ちゃんは、英子さんがいじめ殺した道子さんの生まれかわりだったのだ。生まれたときから、中学に入ったら自殺する運命にあり、それを霊感で知っていたのである。それで、恐ろしいことに、生まれたときから死ぬ準備をしていたのだ。

 それ以来、英子さんは強度のノイローゼになり、二度も自殺未遂をくり返している。次女の由紀ちゃんも同じ宿命を背負っていることは、ほぼ見当がつくからだ。
「この子もやがて自殺する」という恐怖が、ノイローゼを悪化させているのである。

 英子さんはときどき「あたしを許して」と、虚ろな目をしてひとりごとをいっているそうだ。


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