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エンタメ
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入籍祝い

『三三七拍子』
[著]爆笑問題 [発行]二見書房


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 田中の入籍祝いに、私と田中が、まだ今のような上下関係ではなく、親友同士だった頃の事を思い出してみた。

 田中と初めて言葉を交わしたのは、大学に入学して、最初の授業の日だった。中庭で、サークルの勧誘をしている先輩の学生達をからかっていた私に、田中が声をかけてきた。
「ねえ、アンタ受かったんだ! 受験の時、目立ってたよね。演技コースでしょ? 俺もなんだ。もうガイダンス始まるよ、一緒に行こうよ」おそらくこんな感じだったと思う。

 最初の印象は、小さくて、気さくで、ずいぶん親しみやすい人だな、という感じだった。

 それから我々は二人で、ガイダンスを受けに大講堂に向かう途中、トイレに入り、並んで小便をした。その時こんな会話をした。

 田中「アンタ現役?」

 太田「うん、現役だけど」

 田中「あそう、俺、一浪してるから」

 太田「…そうなんだ。…それじゃ、先輩ですね…」

 田中「関係ねえよ、そんなの。同じ学年なんだから。敬語なんか使わなくていいから、同じ、同じ」

 と、言いながら、田中はわざと私の前を歩き出した。何がおかしいのか「ははは!」と笑っていた。この時の事はよく覚えている。
「俺、一浪してるから」と言った時の田中の声のトーンは、それまでより一段低いトーンだった。そして一瞬だが、凄むような目で私を見たのだ。だから私は、敬語を使えと言っているのかと思い、そうしたのだ。しかしその直後、田中はやけに大きな声で笑いだし、私の敬語を否定してみせた。
「一浪も現役も同じだよ!」と。

 この時の私は、田中の事を小さい事にこだわらない、器の大きな人なんだ、と思ったものだった。この人は自分よりも人生経験が豊富で、何でも知っていて、大人なんだと。

 実際、当時の田中は、クラスメイトのみんなから、“大人”と言われていた。「やっぱり、ウーチャカは大人だよね」と。“ウーチャカ”というのは、田中が自分で、自分の事をそう呼んでくれ、と発表したあだ名だ。

 ある時、英語の授業中、騒いでいた私が教授に注意された。すると近くの席にいた田中が、「…光、バックレちゃおうぜ」と言い、私達は二人でこっそりと教室を抜けだした。

 高校時代孤独だった私にとって学校の授業をボイコットするというのは初めての経験だった。とても興奮し、楽しかった。

 その後も私は田中と、色んな事をボイコットした。クラス全員でやる事になった芝居のチーフになった私が、なかなかクラスがまとまらなくて、人間関係で悩んでいた時。私は田中と一緒に次の日の芝居の稽古をサボって、江ノ島に行って一泊した。その時は悩みを忘れた。失恋した時も、先輩ともめた時も、教授ともめた時も、何か悩む度に、私は田中とその状況から逃げ出した。しかし、悩んでいるのはいつも、私の方だけだった。田中には当時から何の悩みも無かった。最初からそうだった。英語の授業でも注意されたのは私の方だったのだ。

 当時田中はよく言っていた。「こうやってバックレるのって、ルパンみたいで大好きなんだ」。田中は、ただ単に逃げるという行為が好きなだけだった。やがて私は成長し、物事から逃げなくなった。そうなるにつれ、田中が大人に見えなくなり、何の悩みも持たない田中を批判し、事あるごとに説教するようになった。何年か後のある時。田中は私の前でボロボロ泣きながらこう言った。
「…何で俺達こういう関係になっちゃったんだろう…最初の頃は同じレベルで、もっと仲のいい友達だったじゃん…何で光は成長したのに、俺は全く成長出来ないんだろう…」

 知るか、そんな事。

'00・4月)

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