読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1031025
0
科学では説明できない奇妙な話 怪奇ミステリー篇
2
0
1
0
0
0
0
エンタメ
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
駅の下の住人

『科学では説明できない奇妙な話 怪奇ミステリー篇』
[編]ミステリーゾーン特報班 [発行] 河出書房新社


読了目安時間:3分
この記事が役に立った
1
| |
文字サイズ


 人身事故現場で新人駅員が見てしまった鮮血や肉片よりも恐ろしいものとは……


 駅員7点セットというものがある。紅白の旗、不透明なビニール袋、軍手、物をつかむはさみ、マスク、三角巾(さんかくきん)、そして時刻表だ。

 この中でビニール袋、軍手、はさみ、マスクは、年に数回かならず起こる、人身事故の後片付けのためのものである。

 戸田慎吾(22歳)は、鉄道会社の新入社員研修で神奈川県のA駅に配属されている最中に、運悪く人身事故を体験するはめになった。
「新人にはめったに当たらないもんだが、まあしょうがない。ウチに入ったからには、こういう現実もあるってことを、身をもって体験してこい」

 戸田は足が震え、いまにも泣きそうになったが、就職難のご時世にやっと入れた働き口である。一時の感情に流されて辞めるわけにはいかない。駅長にいわれて、先輩と3人、事故現場であるホームの端まで走っていった。

 警察はもう到着していて、チョークで何やら書いている。乱れた栗色の髪が見えた。被害者は女性のようだ。
「おぅーい、戸田、こっちにこーい」

 努めて何でもないように先輩が呼ぶ。返事をして人だかりの中心部に分け入った。

 現場を目にした戸田は言葉を失った。

 べったりとついた大量の血、細かく飛び散った肉片、引きちぎられたような大腿部(だいたいぶ)、破れた腹からあふれ出た腸、あたりに漂う血と内臓の臭気……。

 おもわず、口から今朝食べたものがあふれだす。かろうじて身をよじり、線路の端にむかってそれをぶちまけた。もう嫌だ、何なんだこれは。口と目から液体があふれてくる。

 それきり遺体のほうには、顔をむけることができなかった。せめてこの場を動かずに、ここにとどまろう。戸田は逃げだしたい気持ちを精いっぱい、耐えていた。

 すると、作業員が退避するホーム下のスペースに、うずくまるように中年男性が座っていた。何でこんなところにいるんだろう。不思議に思ってその男性の顔を見つめると、彼もこっちを見つめ返した。そして、何かをつぶやいたのである。

 それから気がつくと、戸田は駅の医務室のベッドにいた。
「あれっ? ここは?」
「おまえ、はじめての事故だったんだろ。ずいぶん長く気を失ってたよ」

 記憶がよみがえると、吐き気もまた復活した。

 1週間がたち、目の当たりにした壮絶な光景の印象もすこしずつ薄れてくると、こんどは深くて底のない、空恐ろしい記憶が戸田の頭を支配した。あのとき、ホーム下にいた男はたしかにこうつぶやいたのだ。
「コノ娘ハ、俺ガ呼ンダンダ」
この記事は役に立ちましたか?

役に立った
1
残り:0文字/本文:1051文字
      この記事を収録している本
      レビューを書くレビューを書く

      今レビューすると30ポイントプレゼント! 今レビューすると15ポイントプレゼント! 犬耳書店で初めてのレビューはさらに30ポイント! ポイント詳細はこちら

      この本の目次