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世界の怪奇夜話
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王女エミリーの復讐

『世界の怪奇夜話』
[著]青木日出夫 [発行] 河出書房新社


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〈兵士たちが変死し始めた。ついに王女エミリーの呪いが、闇の中から甦った!憎しみの炎をたぎらせて…!〉


 スコットランド郊外にあるダンスタフニッツ城は、この地方の人はだれも近寄ろうとしない幽霊城である。ごくたまに、ここにさまよいこんだヒッチハイカーは翌日、反狂乱になって村に逃げ帰ってくる。幼い子どもの泣き叫ぶ声、女性の悲鳴などがハイカーを襲うのだ。この呪いの声は、この城の(あるじ)、ダグラス一族の悲劇を人々によび起こさせる声なのである。

 今から五〇〇年以上前、ダグラス伯爵一族は幸せの絶頂にいた。一八歳になったエミリーと、スコットランド王ジェームズ一世との結婚が、正式に決まったからであった。すでにエミリーは王との間に三人の女の子を産んでいた。

 しかし、エジンバラ城に移って子どもとともに楽しい生活をすることを夢みていたエミリーとダグラス一族の知らないところで、恐ろしい陰謀が練られていたのだ。

 首謀者はジェームズ一世の側近のクリットン公爵であった。自分の娘を何とかスコットランド王妃にしたいと考えていた公爵は、エミリーが産んだ子どもが不吉な子で、あれは王の子どもではないとくり返し吹き込んだ。

 再三の進言を信じたジェームズ王はエミリーとの結婚を破棄し、クリットン公の娘と結婚してしまった。しかし美貌のエミリーをそばに置きたかった王は、クリットンの反対を押し切って養女としてエミリーを迎えると宣言した。王妃ではなく、王女エミリーとしてエジンバラに住まわせようということである。

 自分の娘を王に嫁がせることにより、権力の拡大をはかろうとしていたクリットン公にとって、王のこの希望はとうてい許せることではない。

 そこで再び悪謀をめぐらし、ダグラス伯爵をはじめとする一族をひそかにエジンバラ城によび、兵をつかってこれを皆殺しにしてしまった。しかしこのなかにエミリーと、その三人の子どもはいなかった。あわてたクリットン公は、一族の若い貴族と兵をダンスタフニッツ城に送り、エミリーを襲わせた。

 兵士や貴族たちは泣き叫ぶ子どもの前でエミリーを凌辱し、子どもたちを燃えさかる暖炉の中に放り込んだ。そのうえでエミリーを殺すという考えられないような(ひど)いことをしたのである。

 このときのエミリーの恨みがいかに凄いものであったか、この後、クリットン家の者はいやというほど知らされることになる。

 エミリーの復讐は、まず父や母を殺した兵士たちからはじまった。エジンバラ城に詰める兵士たちがつぎつぎと変死しはじめたのだ。エミリーに呪い殺されるのではないかとの噂は兵士を恐怖の底に突き落とした。兵士たちはダグラス一族の虐殺に直接手を下した、下さないでけんかし、剣をもって殺しあった。

 殺戮に加わった兵士は発狂し、みずからの体に剣を突きたて、死にきれないまま呻きながら城をさまよった。こうしてまたたくまに一〇〇人の兵士が死んだ。

 不思議なことに、クリットン一族にはだれも犠牲者がでなかった。

 恐怖におののいていた一族がようやくほっとした頃、ジェームズ一世の王妃がするどい叫び声をあげながら城壁から転落死するという事件が起きた。

 出征する王を侍女たちと城壁から見送ろうとしていたときのことであった。まわりにいた侍女もはっきりと血だらけのエミリーの姿を見た。エミリーの復讐はまだ終わっていなかったのだ。

 人々はいよいよクリットン一族に対するエミリーの復讐が開始されたと信じた。

 王妃の死と、物見高い人々の目のなかでクリットン公もげっそりとやつれてはいたが、相変わらずさまざまな陰謀をめぐらし、以前にも増して政敵の抹殺にやっきとなっていた。そのクリットン公が大勢の人が見守るなかで信じられないような死に方をしたのだ。


 一四五三年のその日、クリットン公はギロチンのそばに立ち、罪人に死を与えるべく命令書を読み上げていたが、突然だれかに突き飛ばされるようにギロチン台の階段を上りはじめた。見えない何ものかを振りはらおうとするかのように手足をばたつかせながら台に上がり、ギロチンの刃の下に仰向けに倒れ込み、しきりにわめき声をあげている。やがてだれも手を触れないのにギロチンの刃がうなりをあげて落下し、クリットン公の首を一〇メートルもはね飛ばした。

 エミリーの呪いが、クリットンをギロチンの刃の下においたことを疑う者は一人もいなかった。

 まもなくジョージ一世が、黒焦げの幼児の死体を抱いて城をさまよう姿が、いろいろな人の目にとまるようになった。王は一四五四年暗殺されたが、このときは恐怖にさいなまれつづけて、廃人同様になっていたという。

 エミリーの復讐はまだつづく。残されたクリットン一族のうち、エミリー虐殺に手を下したウォルター・クリットンは、結婚式の当日行方不明になり、死体となってダンスタフニッツ城のあの暖炉の前で見つかった。ウォルターは暖炉に頭を突っ込み、両目を火かき棒でえぐられて死んでいた。

 ウォルターをふくめて三四人いたクリットン一族の男性は、その後つぎつぎと謎の死を遂げていった。不思議なことに彼らは結婚が決まると怪死するということがつづいた。どうやらエミリーはクリットン一族を根絶やしにしようとしているようであった。

 ダンスタフニッツ城の裏手には一五の墓が並んでいるという。いずれもこの城にさまよい込み、無残な死に方をしたクリットン家の若い貴族のものである。

 墓のそばからは今でも王女エミリーの高らかな笑い声がきこえてくるという。

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