この十年間に見た映画から、男女優で型やぶりスターを十名あげてみたまえと言われれば、誰だって思わずニコニコっとした顔をするだろう。僕自身も、こう言われたときには、ちょっといい気持になった。その瞬間、オーソン・ウェルズの顔がパッと浮んで『オレが一番だろう?』と言ってるかのようにニヤッと笑ったからだ。
ところが、これはすこぶる難問であることが、時間がたつにつれて、だんだんと分ってきた。型やぶりだと思った俳優が、型やぶりではなくなってしまうのである。たとえばジャン・マレーがそうで、ジャン・コクトーに使われている間は、あの棒ダラみたいな顔に涙が流れるクローズ・アップが出る度に型やぶりだと思ったものだが、最近ではすっかりナマクラになってしまい、どう見ても中途半端な存在としか思えなくなった。
次のような場合もある。それはノエル・ノエルで、僕としてはオーソン・ウェルズについでこの俳優をあげたかったが、考えてみると彼の傑作「うるさがた」が公開されそうになったのに機会を逸してしまった。理由は、あんまり洒落すぎているからダメだというのであった。