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墓石の祟(たた)り

『怪奇現象』
[著]新倉イワオ [発行] 河出書房新社


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・温厚な父が突然別人に……


 サラリーマンの高野伸吉さんは四十二歳。一見して温厚な性格と見てとれる中年紳士である。

 多少アルコールのイケる口で、毎日晩酌は二、三合の日本酒を欠かさない。すこぶる「よい酒」で、半時もたつと陽気になり、気前もよくなって、いつにも増して口数が多くなる。

 そんな父親の酒の酔いも手伝って、高野さん一家の夕食はいつでも和気藹々(わきあいあい)、笑い声のたえない楽しいものであった。

 そろそろ自分の持ち家をと考えていたため、一家の話題は多くそのことに集中した。そして、いよいよ頭金もできて、上野不忍(しのばず)池付近に住むことに決まったのである。

 土地は借地なのだが、前から建っていた家を取り壊し、新築の許可を家主からもらった。

 新居は約半年の期間をかけて完成、高野さん一家の新生活のスタートである。

 入居して二か月くらいは、別にこれといって変わったこともなく、木の香りのする建具の真新しさは生活をいやが上にも楽しいものにしていた。高野さん一家にちょっとした事件が起きたのは、引っ越してから三か月目の一月十八日の晩である。

 いつものように晩酌を楽しんでいた高野さんが、これまでにない酔い方をしたのだった。

 何が気に入らないのか、テーブルを倒し、茶碗を放り投げ、あげくのはてにサイドボードの上の酒ビンやグラスを粉々にたたき壊す。酒好きではあったが、酔って暴れるなどということはまったくなかった彼である。それが、馬鹿力ともいえる腕力を発揮して、軽傷ではあるが家族にケガ人も出るしまつ、家族だけではどうにも取り押さえようもなく、隣家の主人を呼び、やっと落ち着かせたのであった。

 翌朝、昨夜の自分の乱行についてはまるで覚えがない高野さんは、むしろ自分がしたという惨状に驚いてしまった。

 夕食どき、また昨夜と同じ振る舞いをされてはと、妻は晩酌を控えるようにいったのだが、夫の懇願(こんがん)に負けて、これまでと同じように銚子を二本、食卓に出した。

 しかしその夜は、以前と同様、陽気になり、会社の同僚の話などして、家族全員をホッとさせたのだった。

 それからしばらくの間は、まったくいつもと変わらぬ様子であった。

 またしても前回と同じような悪酔いが突如顔を出し、それはもうひっちゃかめっちゃかの事態になったのは、それから一か月後のことである。あまりの豹変ぶりに、妻も泣き出すほどであった。

 そんなことが四、五回くり返されたあと、娘の美也子さんがふとカレンダーを見て、父の変貌(へんぼう)する日の記憶を呼び起こしてみると、それはいずれも月の十八日であった。
「偶然だろうか?」

 五月も四月、三月、二月も、最初に事件が起きたあの日も一月十八日ではないか!!
日記で確認した美也子さんは、父親にたずねてみた。
「お父さん、毎月十八日って、何かあるの? 気になることでも?……」
「十八日? 誰かの誕生日でもなし、ご先祖の命日でもなし……、別に思い当たらないが……」
「お父さんが悪酔いするのは、偶然かもしれないけど、全部十八日なの」

 高野さんは娘に指摘されてもピンとこない。第一、自分が大荒れする日が毎月十八日だなんて考えてもみなかったのだ。
「そうか……酒を飲んで暴れるのは十八日か……。しかし、それは偶然だろう」

 しかし、美也子さんは父に哀願した。
「ねえ、お父さん、今日は十八日だけれど、一晩だけ晩酌をやめてちょうだい」
「晩酌ぬきの夕飯か、まいったな……」

 いささか落胆した様子だったが、これまでの家族への迷惑を考えれば、それでも酒を飲みたいといいはるわけにもいかず、高野さんは、しぶしぶ晩酌抜きの夕飯を約束した。
その晩の夕食は、静かなものだった。

・息子の見た見知らぬ女性の霊は誰?!


 美也子さんには延明君という弟がいる。

 その夜、午前一時を少し回って、家族が寝静まったころ、二階の自室から延明君が転がるように階段を降りてきた。その騒々しい音で家族全員が目をさまし、青ざめて興奮している延明君を取り囲んだ。
「延明、延明どうしたの?! 何かあったの?」

 という母親の声に、しばらくは口もきけなかった延明君だったが、ようやく事のなりゆきを説明しはじめた。
「僕は完全に熟睡してたと思うんだけど、脚を氷みたいに冷たいものが引っぱるんで目がさめた。僕の足をぐいぐい引っぱるんだ。足が布団(ふとん)から出てたせいで冷えたのかと思ったけれど、なんともいえない嫌な寒気がして、そのうちに胸が苦しくなった」

 高野さんが言葉をはさんだ。
「今は五月だぞ。気のせいだッ」
「違う、気のせいじゃないッ。やっとの思いで布団に足を入れたんだ。すると今度は、壁に向かって寝ている僕の背中の方に誰かがいる気配がするんで、思いきって反対側をふり返ってみたら……」

 延明君は恐怖の表情で声をつまらせ、話が先にすすまない。
「で、どうしたのよ? 何かあったの? 何か見えたの?」

 姉がせかせる。
「いたんだよ!! 見たんだよ!! 女の人が……、洋服まで覚えている、若い女の人が、ベッドの横に座って、ジーッと僕を見ていたんだ」

 やれ夢だ、幻覚だと家族の意見は喧喧諤諤(けんけんがくがく)。しかし、延明君は絶対に夢や幻覚ではないといいはった。

 毎月毎月、十八日に決まって起こる父親の悪酔い、そして長男延明君の見た女性の影……。いったい何が起こっているのか、ただならぬものを感じた高野さんは、霊能者M氏の力を借りて、霊視してもらうことにしたのだった。

 そして数日後、霊能者M氏は高野家を訪れた。

 高野家の玄関を入るなり、M氏は小声で囁いた。
「これは大変なお宅ですよ」

 一家の夕食をとる居間を一巡してから、延明君が女性の幽霊を見たという部屋に案内する。物理現象として、姿を現した場所の方が、より霊との交信がしやすくなるためである。

 家族全員が二階の長男の部屋に集合して、いよいよ霊視がはじまった。霊能者の口を通して、次々と霊界からの伝言が伝えられる。

 その内容は、次のようなものであった。

●私は女性、二十一歳で他界した。
●私の眠っている墓地は整地され、今はマンションが建っている。
●私の墓石は新しく建立されたが、以前からあった墓石はどうしたのか? それは、この家の者が調べてほしい。この家に関係がある。


 高野家の人たちには寝耳に水であった。

 とはいえ、新築した家である。材木も、整地のために使った土も、どこから運んだものかもわからない。霊能者が告げたとおりだとすれば、これは徹底的に調べてみなくてはならないと、さっそく建築業者に調査を依頼した。

 また、その女性がどこの誰かはわからないが、まず無縁仏として、家族一同で供養することにした。

 それにしても、墓石がこの新築の家に関係があるとするならば、いったいどこに使われているのか? 家屋の土台かもしれぬ。(くだ)いて壁の中に混ぜられているのかもしれない。ひどく面倒な事になったものである。もう少し時間をかけて探ぐるしかないという結論が出された。

 ひととおりの供養も終わって、M氏が高野家を辞去することになった、その時である。彼は大変なことに気がついた。玄関前に敷かれた砂利が、靴の底に小石を踏みつけた時のように感じられたのだ。

 しゃがみ込んで、その敷石を一つ拾ってみると、
「高野さん、この石は墓石じゃありませんか?」

 一瞬、一家は息を飲んだ。恐る恐る足下にある小石のいくつかを(てのひら)に載せてみると、文字らしいものが刻まれた少し大きめのものも発見された。

 ちょっと見たところではまったく気づかないが、よく見れば、そこの敷石には間違いなく墓石の砕片(さいへん)が混じっていたのである。

 これを手がかりに、家の請負業者から、土を運んだ運送会社へとルートをたどっていき、ついに高野家で起こった怪現象の原因が判明したのだった。

 その石は、(まぎ)れもなく某寺の墓地にあった墓石だったのである。

 寺側の話によれば、墓の移動に際しては業者に細心の注意を払うように頼んだらしいのだが、工事人の中には無頓着(むとんちゃく)な者もおり、こんな結果になったのだということがわかった。

 さらに寺に頼んで調べてもらった結果、その墓は、昭和三十九年三月十八日没・二十一歳という女性のものに間違いないということであった。

 知らぬこととはいえ、その女性の墓石を砕き、玄関前の敷石に使用していたのだ。そして、家族はもとより来訪者に至るまで、毎日踏みつけてきたのであるから、祟りがなかったら不思議である。

 この事実が判明するや、高野さんはさっそく敷石を取り除き、(しか)るべく処分して、心からこの女性の冥福(めいふく)を祈った。

 高野さんは、その後、間もなくサラリーマンを辞め、脱サラして自家営業に転向したが、その墓石が契機(けいき)になったのか、事業は当たりに当たり、従業員にも恵まれて、トントン拍子に発展していったという。
(わざわい)転じて福」となったわけである。

 霊の側にしてみれば、自分の住居を滅茶々々にされ、ないがしろにされたことを訴えていたのである。

 それを知らせる手段として、高野さんを酒に酔って狂わせたり、延明君の寝室に姿を現していたのだ。


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