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映画で読むアガサ・クリスティー
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エンタメ
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第一章 劇場映画作品

『映画で読むアガサ・クリスティー』
[著]北島明弘 [発行]近代映画社


読了目安時間:1時間25分
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戦前・戦中


 クリスティーの小説が最初に映画化されたのは『クィン氏登場』に基づく"The Passing of Mr.Quinn"で、1928年7月31日にイギリスで公開された。上映時間は100分。なぜか、小説では Quin なのに映画ではnが一つ余計についている。ストーリーは大幅に改められ、アプルビー教授の妻エレノアは夫に邪険に扱われていたので、彼が毒殺されると最初に疑われ、逮捕されてしまう。だが、動機のある者はほかにもいた。エレノアを愛するポータル医師、隣人のケイペル、教授の子を身ごもっていたメイドのヴェラ。裁判で無罪となり、田舎に引きこもった彼女をポータルが慰め、結婚する。だが、彼女が以前にケイペル宛に書いた手紙を発見し、彼女が真犯人と確信する。そこへ現れたクィン氏が真犯人はケイペルであり、しかも自分がそのケイペルのなれの果てであることを明かす。ポータルに扮したスチュアート・ロームはミュージック・ホールの芸人から13年に映画界入りし、200本以上に出演した人気俳優だった。エレノアをオーストラリア出身のトリルビー・クラークが演じている。監督はジュリアス・ヘイゲンとレスリー・ヒスコットの共同で、ヒスコットが脚本も書き、ヘイゲンが製作を担当。ヘイゲンは映画に大いに期待し、新聞広告も大々的に出した。また映画ストーリーをG・ロイ・マクリーが小説化した本を6ペンスで売り出したが、興行成績はそこそこで、続編製作の企画はぽしゃってしまう。

 次いで、ドイツでトミーとタペンス物の第1作『秘密機関』が"Die Abenteuer G.m.b.H."として映画化され、29年2月15日に封切られた。第一次大戦中に連合国の勝敗を決定する重要な書類がある若い女性に託された、終戦後にトーマス・べレスフォード中尉とプルーデンス・カウリー(仲間内ではタペンスと呼ばれている)の2人が、この書類をめぐる騒動に巻き込まれていく。シャーロック・ホームズやエドガー・ウォーレスの小説といったイギリスの探偵小説はドイツで人気があり、この映画化もそれにあやかったのかもしれない。ぜひ見てみたいものだが、いまとなってはフィルムの所在も明らかではない。オルプリッド・フィルムが製作し、「沙漠の掟」(20)のフレッド・サウエルが監督。上映時間は76分。ストーリーはかなり手が入れられ、役名もピエールとルシエンヌに変っている。ピエールを演じたのはイタリア人のカルロ・アルディーニ、ルシエンヌはイギリス生まれ、オーストラリア育ちのイヴ・グレイ。無声映画だから台詞をしゃべる必要もなく、イタリア人でも構わなかったのだろう。

 30年代に入り、トウィッケナム・スタジオで3本のポアロ映画が製作された。ここで、トウィッケナムについて紹介しておくと、ロンドンから電車で25分という近郊にあり、13年に当時イギリス最大の撮影所として設立されたセント・マーガレットズ・スタジオを前身としている。28年にドイツ生まれのジュリアス・ヘイゲンがトウィッケナム映画スタジオ社を設立。同社の役員にヒスコット、俳優のヘンリー・エドワーズが名を連ねている。35年の火災で建物やカメラ機材などが失われ、37年に会社は倒産、40年にヘイゲンは失意のまま死亡した。ヘイゲンはポアロ物、ホームズ物、アノー警部物をはじめ、ほかにも多くの犯罪映画を製作しており、ミステリー映画ファンなら記憶にとどめておきたい映画人だ。撮影所の方は戦時中に独軍の爆弾で大きな損傷を受けたものの、60年代には「HELP!四人はアイドル」(65)、「アルフィー」(66)といった秀作が撮られ、最近では「スルース」(07)、「17歳の肖像」(09)などが製作されている。「クリスタル殺人事件」(80)やテレビ・シリーズ「名探偵ポワロ」の1〜5シーズンが撮られたのもこのスタジオだ。
『アクロイド殺し』がマイクル・モートンによって"Alibi"として戯曲化され、28年5月15日からロンドンのプリンス・オヴ・ウェールズ・シアターで幕を開け、1年近いロングランを続けた。ポアロ役はチャールズ・ロートンだった。トウィッケナムが『アクロイド殺し』の映画化権を買った31年には、すでにこの題材の知名度は高かったわけだ。映画の題名は舞台と同じ"Alibi"で、脚本はH・ファウラー・ミアが執筆している。

 ポアロ役に選ばれたのはアイルランド出身のオースティン・トレヴァーで、フランスで学んだ経験からフランス語訛りは得意だったそうで、前年にはA・E・W・メイソン作の『薔薇荘にて』を映画化した"At the Villa Rose"(監督はヒスコット、製作はヘイゲンとエドワーズ)でフランス人名探偵アノー警部を演じている。とはいえ、当時34歳という若さはポアロらしからず、卵形の頭でもなければ、背も高く、その上ご自慢の髭を生やしていなかった。ロートン、そして3031年に上演された「ブラック・コーヒー」でのフランシス・L・サリヴァンのポアロと比較され、トレヴァーの評判は芳しくなかったが、それも無理はなかろう。

 静かな田舎町で、富裕な未亡人が死亡した。アルコール依存症の夫を毒殺したと噂されていたので、悔悟の念による自殺と思われたが、彼女とひそかに愛し合っていた富豪ロジャー・アクロイドはそう思わなかった。アクロイドは主治医のシェパードに「彼女は脅迫されていたらしい」と相談する。その夜、アクロイドが刺殺体で発見される。シェパードの妹カリルは、最近隣に越してきた外国人が名探偵のポアロと知り、彼に事件のことを話す。ポアロはデイヴィス警部の捜査に協力し、意外な犯人を見つけることに成功する。

 シェパードは舞台と同じJ・H・ロバーツが演じ、アクロイド役のフランクリン・ダイヤルともども好評を博した。4月28日に公開され、ヴァラエティは「昔懐かしい"殺人者を狩りだせテーマ"を昔懐かしいやり方で撮っている」と評している。上映時間75分。

 31年には"Black Coffee"も製作された。クリスティーが書いた同名戯曲に基づくものだが、これまた舞台での人気を当て込んでの企画で、ポアロの友人ヘイスティングズ大尉、ジャップ警部が映画初登場を果たし、それぞれリチャード・クーパー、メルヴィル・クーパーが演じている(本作でもポアロは髭を生やしてなく、その代わりヘイスティングズが髭を生やしている!)。爆薬の新公式を発見したエイモリー卿が毒殺され、公式が奪われた事件をポアロが解くという内容で、H・ファウラー・ミアとブロック・ウィリアムズが脚本を執筆。上映時間は78分で、8月19日に公開され、ヴァラエティは「そこそこの興味をかき立てる類の映画で、6万ポンドしかかけてない割には結構な稼ぎになるだろう。偉大な映画では決してないが、当地では稼げる類の作品だ。この会社は現在ニューヨークで公開しているシャーロック・ホームズ映画も撮っている」と評している。ここで言及されているホームズ映画はアーサー・ウォントナーがホームズを演じた"The Sleeping Cardinal"(31)のことで、監督は本作と同じヒスコットだった。『ブラック・コーヒー』はフランスでも、"Le Coffret de laque"として映画化され、32年7月15日に公開された。ジャン・ケムが監督し、脚本はミアとウィリアムズのイギリス版に基づき、ピエール・モードルーが台詞を書いたもの。トーキー初期、言葉の壁のために外国でのビジネスができなくなり、同じ題材をベースに別の言語台詞による映画が製作されることがままあったが、本作もその一つ。重要な新公式を発見した化学者が数人のゲストを招いた夜、公式が盗まれ、漆の箱に入っていた毒で殺害される。16歳のダニエル・ダリュー、ルネ・アレキサンデルが出演。上映時間は85分で、英語題名は"The Lackered Box"。

 2年の間隔を置いて、34年8月に『エッジウェア卿の死』に基づく"Lord Edgeware Dies"が公開された。監督はヘンリー・エドワーズで、脚本は3度H・ファウラー・ミアが執筆している。上映時間は81分。富裕だが、エキセントリックな夫と別れたいと、エッジウェア夫人がポアロに相談する。彼女は元女優で、マートン公爵と恋仲になっているらしい。ポアロがエッジウェア卿を訪ねると、すでに離婚に同意しているという。翌日、卿の他殺体が発見され、夫人が殺害犯として逮捕され、ポアロが事件の捜査を始める。ヘイスティングズは前作と同じリチャード・クーパーだが、ジャップ警部役はジョン・ターンブルに変更。エッジウェア夫人を30年代の人気女優ジェーン・カーが演じている。本作でトレヴァーのポアロ映画は終わり、その後ポアロがスクリーンに登場するのは32年もたった66年のことだった。この間の60年にホセ・フェラー、62年にマーティ・ゲイブルのポアロで、テレビ・シリーズのパイロット版が製作されているが、いずれもネットワークに取り上げられなかった。なお、トウィッケナムのポアロ3部作が製作されている時期に、別の会社が『チムニーズ館の秘密』の映画化を企画し、クリスティーにアプローチしてきたが、結局は立ち消えになっている。

 37年、トラファルガー・スタジオが短編『ナイチンゲール荘』に基づいた87分のサスペンス映画を製作した。それが「血に笑ふ男」("Love from a Stranger")で、アメリカ及び日本ではユナイテッド・アーティスツ(UA)が配給した。戦前の日本で唯一公開されたクリスティー映画なので、長めになるが、詳しく紹介しよう。

 ロンドン。しがないタイピストのキャロルは叔母、友人ケイトと一緒にアパートに暮らしている。彼女に(くじ)で大金が当たったという手紙が届く。憧れのパリに旅することもできると興奮気味の彼女のもとへ、ジェラルド・ラヴェルと名乗る洒脱な紳士が訪ねてきた。アパート貸出しの広告を見てきたという。
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