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(2021/11/26 追記)

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恐怖の怨霊絵巻
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エンタメ
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四の巻 もうやめてッ 祟り続ける怨霊たち

『恐怖の怨霊絵巻』
[著]山口敏太郎 [発行] 河出書房新社


読了目安時間:26分
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死に神〈栃木の怪談〉


 栃木県に住むHさんは、奇妙な体験をしたことがある。

 それは二〇年ほど前のこと。白装束(しろしょうぞく)に身を包んだ、死に神のような霊体に襲われ、危うく命を落としかけたというのだ。

 彼はかつて心霊スポットと噂される関東地方のある廃墟(はいきょ)物件を訪問したことがある。そこで、友人たちと悪ふざけをしてしまった。火災で大勢の人が亡くなったというその廃墟物件で、キャンプファイヤーごっこをやってしまったのだ。
「燃えろよ、燃えろよ〜」

 酒が入っていたこともあり、大声で歌を歌う、小便をするなどやりたい放題。

 仲間たちは歓声をあげたが、そのとき奇妙なことが起こった。

 彼らの周囲を、白装束に身を包んだ人間が、取り囲みはじめたのである。ぽつり、ぽつりと周囲の木立(こだち)のなかに姿をあらわす白い人影。
「なんだ、あいつら。あいつらも肝試(きもだめ)しか?」

 廃墟の周囲一〇〇メートルほどを、ぐるりと取り巻く白装束の人間たち。だが、その姿はなぜかはっきりと見えない。
「どうも変だ、よく見えないな。なんか、形もおかしい」

 木立に隠れるように立つ人影に目を()らすと、手足が異常に細かったり、頭部がないように見えた。しかも、衣装を着ているはずなのに、向こうが透けて見える者もいた。

 しかも、十数人いるのに話し声も聞こえず、人の気配をまったく感じない。薄気味悪くなったHさんたちは、三々五々車に乗って廃墟を後にした。

 だが、怪異は終わらない。彼らは異界に足を踏み入れてしまったのだ。

 しばらく、山道を車で走っていると、後ろから白くてふわふわした物体が、車の背後にぴったりとついてくる。
「おい、何だ、あれ」

 運転していたHさんは、同乗していた仲間の声で、背後の異常に気がついた。明らかにバイクや自動車ではない。しかし、この車と同じスピードで走れる物体など、ほかにあるのか。

 奴らの正体を確認したいという衝動にかられ、車のスピードをゆるめた。
「おい、やめろよ、追いつかれたらどうなる。減速なんかやめろ」

 必死に止める友人を尻目に、Hさんは車を減速した。すると、白い物体は白装束に身を包んだ人間たちであり、木桶のようなものを担いで追ってくる。バックミラーでその姿を確認し、彼は絶句した。その木桶が棺桶に見えたのだ。
(あの木桶に俺たちを入れたいのか)

 手に汗をかいた彼は、ふたたびアクセルを踏んだ。そして、そのまま自宅のあるアパートに車を飛ばすと、友人と二人で逃げ込み、ガタガタと震えていた。


 そして、翌朝外にでてみると、車には無数のつめのひっかき傷や、かぶりついた歯形がついていた。そして車の前にはばらばらになった木片が落ちていたという。
「あの日以来、人に取り()く白装束の霊を見るようになったんです」

 Hさんは、あれからたびたび白装束の霊を目撃している。しかも、目撃した数か月後には、その白装束の霊に取り憑かれていた人が亡くなるのだという。
「白装束の霊は木桶を担いで待っているんですよ」

 Hさんは苦笑しながらいった。
「僕は、死に神に取り憑かれているんです」……。

軍人の(つぐな)い〈滋賀の怪談〉


 Tさんは、重い病気で入院している祖父を看病するため、母とともに病院に泊まり込んでいた。
「おじいさんは、もう何日ももちませんね」

 と主治医にいわれ、Tさん親子は悲しくて、精神的にもすっかりつかれきっていた。
「せめて、残された時間をいっしょに過ごしてあげたいわ」

 親子は祖父のベッドの横に小さな簡易ベッドを設置し、共に最後の時間を過ごしていた。

 ある夜のこと、奇妙な音がする。
「カリカリカリ、カリカリカリ」

 目を覚ましたTさんは、周囲を見渡した。なにかをかじる音である。しかし、個室を借りていたので、Tさん親子と病気の祖父以外、だれもいない。
「カリカリカリ、カリカリカリ」

 だが、音はまだ聞こえている。
(何なの? この音は)

 恐怖に耐え切れなくなったTさんは、母親を起こそうとした。

 すると、危篤(きとく)状態で目を覚ますはずのない祖父の目が、かっと見開いているのに気がついた。
「おじいちゃん、どうしたの?」

 Tさんが聞くと、さっきまでの危篤(きとく)状態が嘘のように、しっかりとした口調で話しはじめた。
「わしがまだ兵隊だったころの話じゃ。当時学歴も高くエリート軍人であったわしは、部下にずいぶんとひどいことをした」
「おじいちゃん、なんで急に戦争中のことなんか話すの?」

 Tさんは、祖父が寝ぼけているのだと思ったが、祖父はしっかりした口調でそれを制した。
「まあ聞きなさい。まちがったエリート意識に支配されていたわしは、部下を人としてあつかわず、戦争末期には食料も与えず、大勢の部下を栄養失調や病気で見殺しにしてしまった」
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