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深層説得術
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生き方・教養
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はじめに――深層説得術とは何か

『深層説得術』
[著]多湖輝 [発行]ゴマブックス


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私を唖然とさせた名説得術



 昨年、私は、『深層心理術』『深層言語術』と、深層心理学の知恵を身近な生活の中に生かす方法を述べた本を出版した。その直後、たまたま、若い警察官による不祥事や、原因不明の子どもの自殺など、人間の不可解な心理を背景にした事件が相つぎ、はからずも、“深層心理”という言葉が流行語にまでなってしまった。それだけでなく、読者の方々からも多大な反響をいただいたが、そのなかには、人の心の奥底が読みとれたなら、それらを踏まえて、実際に人をどう動かすかを知りたいというものがかなりあった。


 世に、いわゆる説得術の本は数多くある。しかし、私はつねづね、他人とコミュニケートし、その態度を変容させ、こちらの思いどおり相手を動かしていくには、深層心理のレベルでの説得が行なわれなければならないと考えていた。その具体的な方法がここでいう「深層説得術」ということになるのだが、本題に入るまえにまず、あるビル解体にまつわるエピソードを聞いていただこう。


 東京駅()()()口の近くに、数十年前に建てられた小さなビルがある。地下一階、地上五階建て、敷地面積七十五坪というこのビルは、建てられた当時、この界隈では、鉄筋ビルの草分けとして、話題をさらったものだった。先代社長が、ロシヤからわざわざ技師を呼んで造ったビルだけあって、外装には、こった装飾もほどこしてあり、美術建築の趣きを漂わせている。この由緒あるビルが、解体されることになった。私は、このビルの持ち主である二代目社長を存じあげていたし、ビル解体を業とする社長のほうも知り合いだったので、私が仲に入って、このお二人を引き合わせることになった。いわば、ビル解体の契約が成立するかどうかの「商談」であった。


 私が、ド肝を抜かれたのは、この会談の冒頭における、解体屋社長の発言である。社長室に通され、相手の社長さんと引き合わされたとたん、この解体屋さんは、こう口を切った。

「いやぁ、すばらしいビルですね。多湖先生から、このビルをこわされるという話を承ったんですが、社長さん、このビルはおこわしになってはいけません。これだけの美術建築は、八重洲の名所として、お残しになる義務がおありになるんじゃないですか。亡くなられた先代の御意向はどうだったんですか、先代の御夫人は、ご健在だそうですが、お許しは得ていらっしゃるんですか。これだけ由緒あるビルともなりますと、こわせとおっしゃられても、おいそれとお受けするわけには参りません」


 私は正直いって、びっくりした。ビルをこわさせてほしいという商談に、この社長は、こわしてはいけないと言い出したからだ。ビルの持ち主の社長さんも、いかにも驚いたという表情だったが、やがて、よくぞ言ってくれたという感慨の面持ちに変わっていった。


 先代が精魂こめてつくり上げた宝物のようなビル。こわすという決断を下すまでには、さまざまな曲折があったろう。親族会議で解体に反対した人もいたかもしれない。なによりも、何十年来馴れ親しんだ持ちビルをこわすことには、感慨もひとしおのものがあるだろう。こわすことは決まっていても、あっさり、こわしましょうと言われては、立つ瀬もない心境かもしれない。そうした相手の心理の機微を、この老練な解体屋の社長さんは、いち早く読み取り、あえて解体反対を言い出したのだ。


表面的な態度だけで、人は動かせない



 こうして、一〇分か二〇分ほどの話し合いの結果、すっかり相手を信用したビルの持ち主の社長は、「すべてをおまかせします」ということになったわけだが、このあとのやりとりもなかなか見事なものだった。

「こわさせていただくとしましても、けっしておろそかにはやりません。最新の水圧式の機械を使って、音一つ立てず、ほこり一つ立てずにみごとにこわしてごらんにいれます。それにしても、ビルのどこかに、ここだけはどうしても記念に残しておきたいとお考えのところはございませんか。どんなご要望にも、添えるように、たいせつにやらせていただきます」


 傍で聞いている私でさえ、もし、自分のビルなら、この人にこわして欲しいと思うだろうと、ひそかに考えたほどだ。それほど、この社長の言葉は誠意にあふれ、説得力に満ちていたのだ。


 それは、この解体屋の社長さんの商談の進め方が、まさに、私の言う「深層説得術」を地でいくものだったからである。本来、説得というものは、「深層説得術」と改めて銘打つまでもなく、深層説得でなければ効果がない、と言ったほうがいいのかも知れないのだ。


 だれもが経験するように、説得というのは、なかなか難しい。成功してしまえば、手の裏を返したように態度が変わる相手でも、説得の過程ではなかなか応じようとしない場合もあるし、反対に、表面はいかにも説得に応じたかのように見えながら、いざというときになって、ガラリと態度を変えてしまう相手もいる。要するに、説得しようとする相手の表面的な態度だけを問題にしていたのでは、まるで理解に苦しむようなことが、説得には、つきものだといえるのである。


 考えてみると、これは、むしろ当然のことで、そもそも説得とは、相手の態度変容を起こさせることが目的であって、口先だけの対応など、まるでアテにならないことになるし、いくら言質をとったからといって、行動を起こさせるまでに到らないのではあまり意味もない。そのあたりのメカニズムをよく承知しておかないと、とんだ煮え湯を飲まされることにもなりかねない。

説得を妨げる心の壁の多層構造



 そこで、深層説得術の心理的メカニズムについてすこし掘り下げて考えてみることにしよう。深層説得術について考えるとき、私たちが、まず知っておかなければならないことは、人間の心理は、形層的構造を持っているということである。


 ここで、「層」といっている内容には、じつは、二通り意味がある。一つは、以前に書いた『深層心理術』で、詳しくお話ししたが、人間の心は、「表層」と「深層」、つまり「意識」されている部分と「無意識」の部分があるという意味で、フロイトらの考え方である。そのメカニズムを、私は、氷山にたとえたり、舞台にたとえて説明してきた。こうした意識、無意識の問題とまったく無関係ではないとしても、もう一つ別な心の「層」という意味がある。


 これは、文字どおり「表層」と「深層」、つまり、心の上っ面の部分と、心の奥底の部分とに分ける考え方で、ドイツの心理学者でナチに追われてアメリカに渡り、アメリカで死んだクルト・レヴィンの唱えた説である。レヴィンは、人の心の構造を、前ページの図で表わした。言われてみれば、あたりまえのことだが、私たちの心は幾重にもヴェールにつつまれている。中心部には、だれにも知られたくない心の秘密(自我の中核)があるし、外側には、日常のつき合いで、平気で人前にさらすことのできる心の周辺部がある。


 もちろん、その「心」自体は、眼で見えるものではなく、表情や身ぶり、言葉など、広い意味での行動を通じて表面化されてくる。私たちは、この表に表われた言動を見て、相手の心の状態を推しはかっているのである。話をもうすこしわかりやすくするために、同じレヴィンの、国民性の違いについての考え方を紹介してみよう。


 彼は、アメリカ人とドイツ人を取り上げて、その精神構造の違いについて論じているが、確かに、一般的に見ても、アメリカ人とドイツ人ではその国民性には明らかな違いが見られる。アメリカ人は、性来、開放的、ざっくばらんで、人なつっこく、気軽に打ちとけるタイプの人が多いのに対して、ドイツ人は、威厳をつくろい、形式ばり、閉鎖的で、とっつきが悪い。


 こうした両国民の国民性を、レヴィンは、U型(アメリカ人型)とG型(ドイツ人型)とに分け、その精神構造を次ページの図のように表現している。こんなふうに表現されてみると、人の心の構造というのが、じつによくわかるような気がする。ドイツ人は、比較的固い層が表層に近い部分にあるから、はじめはちょっとつき合いにくいが、この表層の殻をつき破って、すこし深く交際するようになると、たちまち、肝胆相照らす仲になる。というのも、心の中心層でのふれあいが起こり、心の秘密である私的領域にまで、容易に相手を招き入れてくれるからである。


 これに対して、アメリカ人は、はじめからうちとけやすく、かなり深いプライベートな部分まで、平気でさらけ出しながら交際する。すべてを許し合った深い友情というような関係でなくとも、アメリカ人とつき合ってみると、個人的にずいぶん、突っ込んだ人間関係ができるような気がするのは、アメリカ人がU型の精神構造を持っているためであろう。


 説明がやや難しくなったかも知れないが、人間の心が表層と深層を持つという、レヴィン的意味が、これで、十分ご理解いただけたかと思う。

相手の自我の核心部に変化を起こさせる



 さて、こうした形層的な考え方をふまえて、説得の構造を考えると、説得が深層説得でなければ意味を持たないことが、おのずから理解されてくるであろう。というのも、説得場面では、しばしば、相手の自我の核心部において、重大な変化を起こさせる必要が起こってくるからである。


 改めて言うまでもなく、説得には、さまざまな場面がある。職場での管理職と従業員、家庭における親と子、学校における先生と生徒などのほか、商談、恋愛から、政治、宗教場面での説得など、およそ、人と人との関係のあるところ、あらゆる場面で、説得の必要が起こってくる。こうしたさまざまな説得の場面のなかには、それこそ、口先だけの表層説得で十分な場合もあるが、いささかなりとも、相手の自我にふれるような問題になってくると、どうしても、そこに、深層心理的問題がからんでくる。この心の壁を突き破って、相手を説得しようとすれば、必然的に、深層説得の領域に足を踏み入れざるを得なくなるのである。


 その一つのよい例として、冒頭にあげた、ビルの解体にまつわる話を思い起こしてみていただきたい。ビルをこわすという、表面的には単純に見える事柄のなかに、じつは、重大な深層心理とのかかわり合いがあった。それを無視しての説得は、おそらくは、成り立ち得なかったのではあるまいか。あのとき、解体業の社長さんが、いきなり値段の交渉のような、ビジネスの話にはいったとしたら、どうであったろうか。疑いもなく、相手社長の反発を買って、商談はたちどころに失敗してしまったであろう。


 ところが、老練な解体屋さんは、そんな愚かなことはしなかった。彼は相手の深層心理を読み取り、解体反対という意外な発言で、相手の心の壁をさりげなく取り払ってしまった。わずか、二〇分足らずの話し合いのうちに、悠々と相手の心の内部に入り込み、結果的に、商談を成立させたのだ。もちろん、この社長に、深層心理学の素養があったわけではない。彼は、長年の経験を通じて、深層説得の心理テクニックを身につけてしまっていたのである。


深層心理を読み取りそれに訴えかける



 こう考えてくると、深層説得術の出発点は、まず相手の深層心理の構造を把握することである。先のU型・G型の説明では、理解をたやすくするために、表層と深層の境界線を極端な形で表わした。が、現実の人間は、かならずしも、こんな明確な心の構造を持っているわけではない。表層と深層の境い目が第三層くらいのところにある場合もあるだろうし、第四層という場合もあるだろう。


 また、各層のあいだを仕切る心の壁の厚みも人によってさまざまである。ある人は、表面の第一層の壁が厚く、最初は取りつくシマがないかもしれないし、逆に、表面は、柔軟に見えながら、二層、三層と進むにつれて、しだいに壁を厚くして、絶対に中心部に足を踏み入れさせない人もいるかもしれない。さらに、問題なのは、相手の自我の核心部の構造と内容である。相手がたいせつにしている心の秘密はいったい何であるか、そこに迫まる道は、どこに求めればよいのかなど、相手の深層の状況を、はっきり見極める必要が出てくる。こうした深層心理の状態を読み取る手がかりが、相手の表面的な表情、身ぶり、言葉にあることは、前二作の『深層心理術』『深層言語術』と同じである。


 ただ、一口に心の壁と言っても、いろいろな拒否の壁がある。そこで、説得にあたって妨げとなる心の壁を八つに分類してみた。警戒心、先入観、心的圧力、欲求不満、反感、自尊心、不安感、不信感の八つの拒否の原因で、これらが、そのまま本文の章になっている。各章では、まず、相手の表面的な言動から、説得に応じない原因がこの八つのどれに当たるのか、そのおもな着眼点についてふれてある。いわば、「拒否」の心理を読み取る深層心理術といってもいいだろう。


 さて、こうして、相手の拒否の深層心理的原因がわかったならば、つぎにたいせつなのは、いかにして、相手の深層部に食い込み、心の壁を取り去ってしまうかという点である。これが、この本で述べる、深層説得術の奥義ということになる。なぜなら、私たちが、ひとたび、相手の深層心理にパイプをつなぐことさえできれば、相手の心は意のままになる、つまり、説得など、朝飯まえということになるからである。極端なことを言えば、相手の深層にわだかまっている感情のしこりを取り除くことさえできれば、説得の内容にかかわりなく、相手を“その気”にさせることも可能になってくるのである。


 以上述べた深層心理の構造をふまえて、以下本論でお話しする具体的なテクニックを駆使していただければ、あなたのこれまでの人間関係は、より一層スムーズになり、人を動かすことの感動を、身をもって味わっていただけるものと確信している。

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