読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1038097
0
死なないための智恵
2
0
7
0
0
0
0
雑学
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
お酒と上手に付き合う アルコールが引き起こす恐怖

『死なないための智恵』
[著]上野正彦 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:13分
この記事が役に立った
7
| |
文字サイズ

急性アルコール中毒死事件


 アルコールが引き起こす事件は大きく分けて三つある。

 毎年春の新入生歓迎コンパで引き起こされる「一気飲み、あるいは強制による急性アルコール中毒死」。年末だけに限らず、最近では一年を通して頻発(ひんぱつ)している「飲酒運転による死亡事故」。そして、ニュースにはならないが個々の家庭で起きている「アルコール依存症による家庭崩壊」。

 かつて「一気飲みによる急性アルコール中毒死」は、悪しき伝統として大学のサークルなどで頻繁に行われていた。しかし、一時期死亡事故が相次ぎ、一気飲みの強要が社会問題化されたことで自粛(じしゅく)がなされてきたのか、昨今はあまり大きな事件として表沙汰にならなくなってきた。しかし、未だに体育会系の飲み会や職場における上司の強要は起きている。

 飲酒運転による事故は、自分が死ぬよりも相手を殺してしまう率のほうがはるかに高い。それにもかかわらず、これまで事故を起こしても業務上過失致死傷罪で懲役五年以下の軽い罰ですんでいた。

 しかし、一九九九年十一月二十八日に起きた東名高速飲酒運転事故から、より罰の重い危険運転致死傷罪が適用されるようになった。この事故は、飲酒運転の常習者だったトラック運転手が、東名高速道路東京インターチェンジ付近で普通乗用車に追突。乗用車は炎上し、乗っていた三歳と一歳の幼い子どもが焼死したという痛ましい事故であった。

 また、忘れられない事故としては、二〇〇六年八月二十五日に起きた福岡海の中道大橋飲酒運転事故もある。このときも飲酒運転をしていた市の職員が海の中道大橋でRV車に追突。RV車は橋の欄干を突き破って博多湾に転落し水没。車内に残された四歳、三歳、一歳の幼い三児が水死している。これを機に飲酒運転の撲滅が全国的に広まっていった。


アルコールから命を守る


 アルコールは飲み方を誤ると死を招く。自分が殺される側になるかもしれない。自分が殺す側になるかもしれない。あるいは自分で自分を殺すことにもなりかねない。

 飲めない人にアルコールを強要し急性アルコール中毒で死亡させた場合は、傷害致死として刑事責任を追及される。飲酒運転で相手を死亡させた場合は危険運転致死傷罪が適用され最長二十年の懲役に処されることがある。

 被害者になるのも加害者になるのも御免被りたい。アルコールで命を落とす現場に遭遇しないためにも、正しい飲み方を知り遵守(じゅんしゅ)したいものである。

 とくに弱いとされる人は自分の体質をよく熟知しておく必要がある。


お酒に殺されるとき


 お酒が原因となり起こる事件で多いのが、飲酒運転による事故だ。被害者の立場になる人はどうにも防ぎようがない。いつどこから車がぶつかってくるか分からないからだ。しかし、加害者にならない方法はある。交通ルールを守るという以前に、お酒が体に及ぼす怖さを理解すればいい。

 また、車でぶつけられるよりも身近にある恐怖として、酒の席での無理強いというのがある。しかし、これは無理に飲まされる者が、自覚と強い意志によって死の危険から命を守ることができる。

 生まれつきお酒の強い人は、弱い人の体質というものをなかなか理解できない。「なぜ、こんな美味いものが飲めないのだろう」と不思議に思う人もいるほどだ。しかし、飲めない人が無理に飲むと、それは毒薬にもなりかねない。また、飲める人でも適量を超すほど飲んだり、一気飲みしたりすると命に危険を及ぼしかねない。

 それが四月になると必ず起こる、大学での新入生歓迎コンパによる一気飲みの悲劇だ。また、宴会のシーズンとなる年末にも同様な事故が多発する。

 新入生や後輩は、どうしても強引な先輩や上司の命令を断りづらい。そのため無謀な飲み方をして死を招きかねないのだが、自分のアルコールにおける体質を知り、強い意志で断る勇気を持てば命を守ることができるのである。


自分の体質を自覚する


 今は中学などの保健体育の授業で、自らのアルコール反応を調べるテストを行うところもあるそうだ。たしかに、飲酒の低年齢化を考えると、早いうちから教えておくに越したことはない。タバコと違い、お酒に関しては親も寛大(かんだい)なところがあり、家庭でもついつい飲んでしまいがちだからだ。弱い人は早めに体質を知り、大学に進学しても新社会人になっても酒の勧めを断固断るようにするといい。

 そういうテストをやらずに初めてアルコールを口にした人で、最初に甘口などを飲んでしまうと、その舌触りのよさなどから美味しいと思ってしまう。そして、ついついガバガバと飲んでしまいがちだ。「お酒は美味い!」そう思うだけでなく、すぐに酔いがこないものだから「お酒なんてこんなものか!」と()めてかかり、ジュースのような感覚で飲んでしまうのである。そして、酔いが回ってきたときに地獄のような苦しみを味わうことになる。調子に乗りすぎると救急車で運ばれてしまい、最悪なときは心不全で死んでしまう。

 しかし、自分がアルコールに弱い体質だということを知っていれば、それは大きな予防となる。そして、何回か宴会をやりつつ少しずつ社会経験を重ねてお酒との付き合い方を学んでいけばいい。


アルコールが及ぼす体質の変化


 アルコールを受け付けない体質というのは、生まれつき親からの「遺伝」で決まる。それゆえ訓練次第で飲めば飲むほど強くなるということはあり得ない。強い人は訓練で多少は強くなっていくだろうが、弱い人はそうはいかない。慣れるということもない。

 細胞のなかのミトコンドリアがアセトアルデヒド脱水酵素(こうそ)というアルコール分解酵素を作り出すのだが、その分解酵素の強いタイプと弱いタイプというのは遺伝で決まっている。お酒が弱いという人はアルコールを分解できないのである。

 アルコールは肝臓で分解されてアルデヒドという物質になるのだが、それ以上の分解ができないと体中の血液のなかをアルデヒドが回ってしまう。それが酒酔いの症状となり、顔が赤くなったり、心臓がドキドキしたりするのである。悪化すると、体が拒否反応を起こし嘔吐(おうと)とするようになる。

 このようにミトコンドリアの活性が弱い人が無理をしてお酒を飲むのは危険だ。

 ところが強いタイプは、肝臓でアルコールをアルデヒドに分解した後、さらに酢酸(さくさん)と水に分解してしまう。そのためアルデヒドが血中を回ることはなく、いくら飲んでも分解してしまうので酔わないのだ。

 先ほど「飲む訓練」をしても変化は起こらないと述べたが、強い人が「飲みすぎる」と変化を起こす。

 強い人は酔わないために酒の舌触りの美味さを知ってしまい、毎日のように酒を飲んでしまう。飲んでしまうというよりは、細胞が訓練されてしまい飲みたくなってしまう……むしろ飲まざるを得なくなってしまう。これが「慢性アルコール中毒症」だ。

 細胞自身が酒を欲してしまい、飲まないと逆に具合が悪くなってしまうので、毎日飲むはめになる。このように自分の意志でコントロールができなくなると、細胞に支配されてしまい完全な「慢性アルコール中毒症(依存症)」になるのである。治療するには入院して酒を断ち、一定期間をアルコール抜きにするしか方法はない。

 また、弱い人が飲みすぎると「急性アルコール中毒」になるのは知られているが、強い人でも無茶な飲み方をすれば同じことだ。最後には分解できなくなってしまい、アルコールそのものが体に直接影響を及ぼしてしまう。その結果心臓が弱まってしまい、血液が体中に回らなくなり、脳も麻痺(まひ)状態になってしまう。


 昔から日本酒はお猪口(ちょこ)で飲むものだったが、あれはいい智恵だと思う。いっぺんに大量に飲まないからだ。小さな器に注ぎながら少しずつゆっくり飲むのが体に優しい飲み方といえる。

 それをコップに入れ冷酒にして一気に飲み続けていたら「急性心不全」の人が多発しかねない。お猪口で飲むというのは、先人がお酒と上手に付き合う上で、生活のなかで思いついた智恵なのである。それを面倒臭いからとぐい飲みするのはいただけない。


飲みすぎが招く家庭の崩壊


 一時期、主婦の間で「キッチンドランカー」という言葉が流行った。主婦を中心に多く見られたアルコール依存症だ。

 しかし、これは女性がなりやすいという意味ではない。本来、お酒の強い弱いに男と女の差はないからだ。体質により女性にも強い人がいて当たり前。それでも世間で問題視されたのは社会環境によるところが大きい。

 男性は勤めがあるので、翌日の勤務に差し支えないようにセーブしながら飲んでいる。また、仲間と飲んでいるときは飲みすぎを止めてくれる人もいるだろう。なかには、飲みすぎて二日酔いとなり翌日の勤務に影響を及ぼす人もいるが、そうなると上司に怒られたりして一週間飲まずに我慢したりする。

 それでも我慢できない人は、飲みすぎては我慢してまた飲みすぎるということを繰り返し、こういう状況をダラダラ続けてアルコール依存症になるまで十年かかる。

 一方、女性(とくに主婦)は世間を気にする。だから、男性のように道中を酔ってふらふら歩くようなことはしない。したがってキッチンで飲むことになる。ストレスが溜まっていれば毎日浴びるように飲む。周りに誰も止める人がいないから歯止めも効かない。帰宅した夫がその様子を見て妻を責めようものなら夫婦喧嘩(ふうふげんか)が始まり、さらにストレスが増大される。

 禁酒させようにも昔は電話一本で酒屋が届けてくれたし、今はコンビニへ行けばすぐに買える時代だ。だからストップがかからずに、女性のアルコール依存症は五年で出来上がってしまう。あるいは夫の浮気が原因でやけ酒から依存症になるケースも多い。

 このように男性の倍のスピードでアルコール依存症になってしまうこともあって、キッチンドランカーが社会問題化したのである。


 私が現役時代に検死に出向いたなかで、アルコール依存症が元で自殺した死体を何回も見てきた。その末路には哀愁(あいしゅう)が漂っている。

 ある男性の首吊(くびつ)り現場となったアパートの一室には家財道具が一切なかった。冷蔵庫もなければ寝る布団さえも……。全部質に入れて売り払ってしまい、妻子も実家に帰ってしまい、何もないガラーンとした部屋で一人寂しく首を吊っていたのだ。

 女性も同様だ。同棲相手に捨てられ、あるいは夫に愛想をつかされて出て行かれ一人きりになる。やけになって飲みたくなり、酒屋に電話しても支払ができないので持って来てもらえない。結局は何もない部屋で首を吊るしかない。アルコール依存症の末期というのはもう悲惨で可哀想としかいいようがない。死なざるを得ないほどの状況に追い込まれたのだというのがよく分かる。

 細胞に乗っ取られてしまった体だからどうしようもない。まさに「酒に殺される」というやつだ。


 飲酒運転による事故も悲惨だ。殺された被害者や遺族はもちろんのことだが、加害者とその家族も辛い人生を送ることになる。多額の賠償金(ばいしょうきん)と罪の重責を背負いながら刑務所暮らしを送らなければならない。なかには自殺に追い込まれる者もいる……。

 運転中にもかかわらず酒を飲まずにはいられないほどアルコール依存症がひどかったのか、「自分は酒が強い」という(おご)り高ぶりから飲んでいたのか……。どちらにしても悲惨な話だ。


 少量を飲むぶんには体にいいから百薬の長となる。お酒は一合以内くらいだと動脈硬化を予防したり、ストレスを発散してくれたりもする。血行もよくなり、精神的にも肉体的にもいい。しかし、間違えた飲み方をすれば悲劇になってしまう。そうなると毒物と変わらない。

 私は以前、飲酒と変死の統計的観察をしたことがある。患者は自分から好んで飲んでいるわけではないと。体の細胞が飲まざるを得ないようになってしまっているのだと。

 そうなる前に自分で症状を自覚し、自分でコントロールしていかないといけない。


もしものときの対処法

 アルコールから命を守るために


 飲めない人もお酒の席へと足を運ばなければならないのが、今も昔も変わらない日本の慣習だ。だったらせめて、自分の体質に合う飲み方を心得て参加しよう。

 また、アルコールに強い人も調子に乗りすぎて倒れてしまわないように上手な飲み方をしたいものである。また、倒れてしまったときの対処法を知っておくと、自分自身の命が助かり、倒れてしまった人の命を救うこともできる。

1 体質を知る

 まだお酒を飲んだことのない人、あるいはこれから飲もうとする人は自分の体質を知っておいた方がいい。知らないまま好奇心につられてがぶ飲みしたり、コンパで一気飲みしたりすると、後で倒れて大変なことになってしまう。

 急性アルコール中毒で急死しないためにも、事前に、そして早めに自分のアルコールにおける体質を知っておくべきである。

2 強い意志を持つ

 先輩や上司が「飲め飲め」と言って無理やり飲ますのはある意味、殺人行為になる。だから、無理強いされても断る勇気を持つことが大事だ。死んでしまっては意味がないし、急性アルコール中毒で運ばれても周りに心配や迷惑をかけるだけである。

 アルコールを受け付けない体質は恥ではない。アレルギー体質の人を誰も責めたりはしないのと同じだ。自分が先輩や上司に殺されないためにも、彼らが罪の意識を背負わなくてもいいように、断る意志を強く持って欲しい。

3 アルコール依存症を意識する

 飲まずにいられないという異常な欲求は自分の意思ではなく、細胞が欲しているのである。自分の意思でコントロールできなくなったらアルコール依存症と思っていい。手遅れになる前に治療を受けるべきである。「酒が好き」と「酒を飲まずにはいられない」の意味の違いを理解することが大事である。

4 倒れてしまったら…

 飲み会の席で倒れそうになったら我慢をしない。放っておけばそのうちアルコールが抜けて回復するだろうなどと勝手に決めつけないことだ。すぐに救急車を呼んでもらうことが先決。

 嘔吐も危険だ。出せば楽になると勘違いしている人もいるが、酔いつぶれて嘔吐すると、吐瀉物(としゃぶつ)を喉に詰まらせて窒息死する危険性がある。この場合、頭と体を横向きにして寝るといい。

 体温の低下にも気をつけなければならない。救急車が来るまで毛布を掛けるなどして体温を維持しておくことが大切だ。

5 医療行為の前に医師に申告する

 アルコールが弱い体質の人は、病院で消毒する際もアルコールで()いただけで皮膚(ひふ)が真っ赤になってしまう。それで死ぬということはないのだが、念のため事前に医師や看護師に申告しておくといいだろう。

 実はアルコールに強い人も申告をしておいたほうがいい。というのも、お酒に強い人は麻酔が効きにくい体質になっている人もいるからだ。全身麻酔はそうでもないが、局所麻酔は効かない場合がある。

 だからといって、麻酔は多く打てばいいというものでもない。打ちすぎると逆に腫れあがってしまい治療が困難になるからだ。ましてや歯科治療だと大量に打つことはできない。もしも、効かないからといって歯茎(はぐき)に麻酔剤を多量に注射しようものなら、最悪の場合、心不全を招きかねない。

 このような不幸に遭わないためにも、アルコールに強い人も気をつけておいたほうがいい。医療ミスの被害者にならないよう、麻酔に対する知識を持っておく必要がある。
この記事は役に立ちましたか?

役に立った
7
残り:0文字/本文:6299文字
      この記事を収録している本
      レビューを書くレビューを書く
      この本の目次