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警察の裏側
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検挙率のカラクリ

『警察の裏側』
[著]小川泰平 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:12分
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検挙は警察の「売り上げ」である

 「警察にノルマがあるのか」という質問が結構多い。いろいろと見解が分かれるかと思うが、私は「ある」と認識している。警察内部では「努力目標」あるいは「目標数値」と言い換えているが、似たようなものである。目標数値があるからには、一般企業の「売り上げ」に相当するものもある。それが「検挙」の数であったり「検挙率」だと思っている。

 「検挙」=「逮捕」と思っている方も多いと思うが、そうではない。「検挙」と一口で言ってもいろいろある。「逮捕」した場合はもちろん検挙であるが、逮捕しない場合、つまり身柄不拘束の場合でも検挙は検挙だ。

 たとえば、スピード違反や、万引き、自転車ドロも検挙である。万引きや自転車ドロの大半が「微罪事件」として処理されており、警察限りで取り調べが行われ、罰金等の処分がないのが実情である。しかし、万引きや自転車ドロであっても余罪があったり逃走したりすると逮捕される場合がある。

 「逮捕」は必要な場合のみであり、何でも逮捕しているわけではない。

 基本的に「令状主義」に基づいて行われており、裁判官からの逮捕状の発付を得て行われている。これが通常逮捕である。例外として、「現行犯逮捕」が認められている。その他に刑事訴訟法で認められている「緊急逮捕」がある。一定の重大な犯罪につき、犯行の疑いが十分にあり、急速を要し、逮捕状を求めることができない場合に、逮捕後ただちに逮捕令状を求めることを条件に令状によらずに逮捕を行うことを「緊急逮捕」と言っている。一定の重大な犯罪とは、長期3年以上の犯罪のことを指しており、具体的には殺人や強盗、傷害、窃盗や詐欺、住居侵入等がこれにあたる。逆に緊急逮捕できない犯罪としては、脅迫事件や暴行事件等がある。

 スピード違反も検挙のひとつと言ったが、警察が発表している「検挙率」にスピード違反や道路交通法違反は含まれていない。また、覚せい剤取締法違反等も含まれていないのだ。警察発表の検挙率は「刑法犯」の検挙率であり、ほかの「特別法犯」は含まれていないのである。また刑法犯のなかでも、交通関係の業務上過失致死傷及び重過失致死傷のうち,道路上の交通事故に係るものは除かれている。

 警察でとくに重要視されるのは「検挙率」。これは「検挙件数/認知件数」の割り算で出される数字だ。たとえば100件認知して30件検挙したとすれば、検挙率30%である。要するにこの「検挙率」が低いと、「事件(被害)があんまり解決してないね」ということである。

 「認知件数」というからには、警察が認知した件数と思われる方も多いとは思うが実は違う。事件の通報を受けて事件を認知し、被害届を受理したものが「認知件数」であり、被害届を受理していないものは「認知件数」にはカウントされないのである。犯罪にあたるものであっても被害届が出されないなどで発覚しないものもあるということになる。

 検挙率は「警察白書」などで毎年発表されていて、警察組織全体や、各警察本部やその下の警察署単位までそれぞれに「数字」が出される。すなわちこれが成績表のようなものである。ちなみに、警察全体の検挙率は近年は30%程度で推移している。

 この「検挙率」に先ほどの「努力目標(ノルマ)」が課せられるのである。たとえば「検挙率○%以上」とか「検挙率を前年比○%アップ」などである。

 警察署の署長は1年や2年で異動になるが、定年間近の署長のところの検挙率は上がらない、といわれている。なぜなら、次にくる若い署長のために、前年の数字が高くなりすぎないようにという配慮が働いているからだ。逆に若い新署長だと「検挙率」に非常に敏感で署員も大変なのである。

 検挙率を上げるためには、もちろん検挙数をどんどん増やせばいい。私も上司から「検挙、検挙」と事あるごとに言われた。

 ところが最近では、たくさん検挙したからといって事件そのものが増えていたらこれもまずいということで、「犯罪抑止率」ということも評価の対象となった。これは「認知件数」すなわち「分母」の数字を下げろということだ。「前年比犯罪抑止率10%」というような目標(ノルマ)だとして、仮に前年100件の発生だったら、今年は90件にしなければいけない。

 たとえ、前年の検挙件数が30件(すなわち検挙率30%)が、今年、検挙数50件、となっても認知件数が増えていると表彰状どころか、犯罪の抑止率が下がっているので逆に評価は下がってしまう。

 警察の世界はとかく「数字」に縛られているのである。


刑法犯のほとんどが実は「泥棒」

 「警察白書」は毎年出ていて、ウェブサイトでも気軽に見られるが、一般の方で毎年チェックしているような人はまずいないと思う。前項では警察全体の「検挙率」は3割程度であると書いたが、どう感じられただろうか。

 「事件のたった3割しか検挙されていないのか」

 「日本はすごく治安が悪いのではないか」

 あるいは、「外国に比べれば治安はいい」「検挙率が高いのか低いのかわからない」など、いろんな意見があるだろう。これが数字のよくないところで、わかりやすくなるいっぽうで、真実を見えにくくしてしまう面がある。

 まずは区分別の刑法犯罪の統計数字だけでも、様々なことがわかるのでざっと見ていこうと思う。

 まず、日本における刑法犯の「認知件数」(発生)は平成19年で約190万件、平成24年では138万2121件。見事に1年ごとに約10万件ずつ減っている。これは前述した「犯罪抑止」が効果を上げているということになるが、できすぎという感が否めない。これについては後ほど述べるが、被害届を「にぎる」とか「つぶす」という行為が関わっていると思われる。

 さて、区分を見ると、「窃盗犯」がズバ抜けて多く、平成24年は全体の75・3%にあたる104万447件である。殺人事件などを含む「凶悪犯」は年間でだいたい7000件だからいかに窃盗犯が多いかわかるだろう。もちろん、殺人なんかがそうたくさんあっては困るのだが、窃盗犯はほとんどがプロの犯罪者(常習者)であり、ひとりの泥棒が何百件もの盗みを働いているためである。

 次に「検挙率」を見てみよう。全体の検挙率は平成24年で31・7%である。犯罪の数に比べて1/3程度しか検挙されていないと考えるとかなり治安が悪いように思われるが、「凶悪犯」の検挙率は77・1%であり、そのうち殺人で見れば93・5%である。

 実は全体の検挙率を著しく下げているのが、「窃盗犯」なのである。認知件数(発生)は全体の75%以上もあるのにもかかわらず、検挙率はわずか27・5%でしかない。




 これを見ると、

 「ドロ刑(捜査3課)はなにをやっているんだ」

 と思われるかもしれない。

 ところが、ここからが数字だけでは伝わらない部分である。

 「窃盗犯」の内訳を見てみよう。「侵入盗」は、空き巣、忍び込み、事務所荒らしなどで、重要犯罪に位置づけられている。この検挙率は54%だ。ところが残り二つ「非侵入盗」「乗り物盗」は極めて検挙率が悪い。

 「非侵入盗」は、万引き、置き引きなどである。これらは捜査がしづらく、たとえば万引きなどは、防犯カメラに映っておらず、そのまま店を出てしまうと、盗品から足がつくようなこともなければ、捜査すらできず、せいぜい防犯強化につとめるくらいだ。また、店のほうでも棚卸しをしてはじめて気がつくような場合もあり、盗まれた日すらわからないようなこともある。そんな場合でも被害届が提出されるので、認知件数ばかりが増えてしまう。

 さて、さらに問題なのは「乗り物盗」である。これは全刑法犯のなかでも8%という最低レベルの検挙率だ。認知数も窃盗犯のなかで最多の約40万件であり、しかも、大半が「自転車泥棒」である。

 つまり、日本の刑法犯で最も多いのは「自転車泥棒」ということになる。この検挙率が著しく低いのだから、これをもって検挙率が低い、日本は治安が悪い、といえるだろうか。数字をいっしょくたに発表してしまうと、こうした事情が見えてこないのである。

 また、検挙率が100%以上になっているところがあるのに気づいた方もいるだろう。これは、事件が発生した件数よりも検挙した数のほうが多いということだからおかしなことだと思われるかもしれないが、数字上はありえてしまう。たとえば、「去年発生した事件の被疑者を今年になって検挙した」場合、今年は発生がないのに検挙だけがあったことになるからだ。

 私はこうした「数字」だけの評価に常々疑問を感じながらも、組織にいる間はやはり気にせずにはいられなかった。犯罪は犯罪で、微罪だから扱わないなんて言わないが、たとえば、極端な話、重大犯罪の「検挙率」が高ければ、自転車泥棒の検挙率は低くてもいいじゃないかと。

 警察白書には犯罪の種別ごとに検挙率が出ているが、一般の人はそこまで見ていないし、警察内部でもそれらは区別しないで全体の数字だけが言われる。たとえばだが、殺人事件が1件発生、自転車盗難が9件発生、「自転車盗んだ犯人を捕まえた」が9件で「殺人事件は未検挙」で検挙率90%、自転車盗難のことはほっといて全員で殺人事件を追いかけて1件検挙で検挙率10%。どっちがいいかは自ずと明らかだろう。

 こうした数字を「数値治安(指数治安)」と呼んでいるが、ここ近年この数値治安は良くなっているのである。しかし、人々が感覚的・主観的に感じている「体感治安」は決してよくなっているとは言えないのである。

検挙数が「山分け」される奇怪な仕組み

 重大な事件などの場合、たくさんの捜査員を集め、臨時的に組織される「捜査本部」ができる。警察内部では「(ちょう)()」と呼ばれている。所轄単位で組織される場合や、警察本部単位など、事件によって規模は異なるが、犯罪が複数の県にまたがっている場合は、連合捜査本部や、合同捜査本部などができる。泥棒捜査の場合、そうしたことが多いので私も何度か経験している。

 お互いの捜査状況を知っているわけではないので、尾行していたり、張り込んでいたら、かちあったりするのである。

 「おたくどこ?」

 「警視庁だけど」

 「ああ、そう。こっちは神奈川だけど、今日はお互い引き揚げて、上のほうで話してもらおうか」

 ということになって、それで一緒にやるか、となる。

 その場合の帳場はどこに立てるかというと、警察の規模などではなくて、いちばんいいネタ(情報)を持っているところになる。

 「おれんところはもう逮捕状請求するとこまでのネタがありますよ。でも否認ボシらしいので、確実なのをあと2つくらいは欲しいんだよね」

 「うちのほうはヤサを知っているだけ。でも発生はうちがいちばん多いんじゃないかな」

 「そうか。だったらうちが帳場だな」

 という感じである。

 警視庁と組んだら怖いものなしだ。が、ここで変なことになる。

 たとえばその泥棒が神奈川県下で200件の窃盗をしていて、最近、東京にも足を伸ばして100件くらいやっていたとする。捜査もうまくいって逮捕できた、余罪もすべて洗い出せたとする。ところが、それで神奈川県警が200件の検挙、警視庁が100件の検挙、とはならないのである。検挙に関しては「どこで犯罪が発生したか」ではなく、どこの警察が検挙したかによるのである。合同捜査本部でやった場合には、本部とそれ以外や、それぞれの貢献度によって割合は変わるが、基本的に「山分け」になるのである。

 だから、もし先ほどの例に挙げた窃盗犯が、万が一、千葉県にヤマを踏みにいって(犯罪をおかして)、千葉県警に噛まれたら(逮捕されたら)すべてパァになる。余罪の検挙件数はすべて千葉に持っていかれる。つまり、事件発生(認知)は神奈川200、警視庁100でも検挙は0。千葉は発生1でも検挙301となってしまうのである。これもある種、数字の弊害かもしれない。

 もし、千葉にヤマ踏みに行くような動きをつかんだら、千葉県警も合同捜査本部に誘っておいたほうがいい場合がある。ちなみに途中参加のところは「分け前」が少なくなる。

 私が合同捜査本部に行ったなかでいちばん大きかったのは、群馬・新潟・栃木・茨城・埼玉・静岡・東京・神奈川の1都7県の合同捜査本部。群馬県の伊勢崎警察署に帳場があった。ホシ(犯人)のヤサが伊勢崎市内にあったからだが、当時、群馬県警本部には捜査3課がなく、捜査1課のなかに盗犯係があるくらいで、とても手が足りないということで応援要請を受けたかたちだ。この時の被疑者はベトナム人の組織で、バイク専門の窃盗犯だった。被害総額は7億円以上にのぼっていた。

 ちなみに、帳場(捜査本部)が立つと、管轄警察署内に設けられた部屋の入り口に、事件名が書かれた看板を立てられるが、殺人事件の場合はとくにこれを「戒名」と呼んでいる。警察内部では「いい戒名をつけると事件が早く解決する」といわれているが、これはジンクスや迷信の類ではない。

 戒名というのは、基本的に場所と被害者の職業などで構成されるが、たとえば「けん銃使用による〇〇郵便局連続強盗事件」や「医師による交際相手に対する不同意堕胎事件」など事件内容が具体的にわりやすくなっているものもある。これは警察内部を含め広く一般に対しても記憶に残りやすく、このため捜査情報が集まりやすくなり、事件が風化しにくくなるという意味合いがある。

 ただし、マスコミが名付ける事件名とは異なる。間違っても「美人OL3人湯けむり温泉殺人事件」なんていうのはない。

 帳場が立つと相当数の人員が捜査本部員として従事する。殺人事件の捜査本部だと100名以上の捜査員が従事することも少なくはない。発生警察署の刑事課員はもちろん、生活安全課、交通課、地域課、警務課等々各課係から捜査本部要員が選抜される。事件にもよるが隣接警察署等からも捜査員が派遣される。それにくわえ、警察本部の捜査1課、機動捜査隊等からも捜査員が派遣されるのだ。

 しかし、この人員を長期間確保することは困難であり、1か月後には半数となるのが現実である。未検挙の場合でも捜査本部の看板を下ろすことはできないので捜査は継続される。しかし実際は1年後には数名の捜査員が情報等を整理しているだけである。以前なら時効が来ると捜査本部の看板を下ろさざるを得なかったが、現在は時効が撤廃された事件については、事件が解決しなければ捜査本部の看板を下ろすことができないのである。

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