『アジア 反日と親日の正体』
[著]酒井亨
[発行]イースト・プレス
漢字で書けるベトナム
日本人はしばしば忘れがちだが、ベトナムはまぎれもなく中華文化圏である。現在はローマ字を使っているから、一見するとそうは見えないが、街を歩けば道教信仰は根付いているし、廟には漢字も残っているし、広東語などの漢字音規則を知っていればベトナム語の語彙が漢語系であることがわかってしまう。実際、ベトナムは漢字で書けば「越南」だ。現在の国名「ベトナム社会主義共和国」も国を訓読みしている以外は、「共和・社会主義・越南」と漢語である。
首都ハノイは漢字で河内、北部の港湾都市ハイフォンは海防、中越国境に近いランソンは諒山、国境の町ドンダンは同登である。県レベルの地方の名称は中国と同じ「省」、国の省庁も中国と同じく「部」である。
現在の国家主席(大統領)チュオン・タン・サンは張晋創、首相グエン・タン・ズンは阮晋勇である。国父である初代主席ホー・チ・ミンは漢字では胡志明で、北京語、広東語、漢文にも精通していた。南北統一の立役者の軍人ヴォー・グエン・ザップは武元甲だ。一九五〇年代までは、ハノイの知識人層は中国語の新聞も読めた。
また、中国の地名や人名などの固有名詞は、ベトナム漢字音で読むのが普通で、毛沢東は「マオ・チャッ・ドン」、鄧小平は「ダン・ティエウ・ビン」などと読む。