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『人間関係、こう考えたらラクになる』
[著]斎藤茂太
[発行]ゴマブックス
私の手元にはたくさんの相談が寄せられている。それは患者さんからばかりではない。一般の人からもたくさんある。悩みのない人間はいない。まして若い人はなおさらだ。まず一例をご紹介しよう。
「27歳のOLです。家族ぐるみで4年の間交際していた恋人を親友にとられました。彼女とは大学時代に知り合い、年齢は同じだけど、何となく私のほうがお姉さんぽくアドバイスしたり手助けするといった間柄でした。
私の恋人と親友の二人は、約1年の間、付き合っていることを秘密にしていて、結局だまっていられなくなったようで、彼が私に告白したのです。その間私はすっかりだまされていたわけで、ひどいショックを受けました。間抜けですよね。ショックは心の傷として残り、今でも思い出すたびに精神的に不安定になります。
考えてみれば親友である彼女は何でも自分がほしいと思ったら、人のことなど構わず手に入れるタイプの人でした。思い当たることがいろいろあります。結果的にそんな相手に私は彼を引き合わせてしまいました。すごく後悔すると同時に、彼女にはいろいろしてあげたつもりだったのでよけいみじめな気持ちがします。
しかも、つい最近、二人が結婚したと知りました。人の幸せを踏みにじった人たちが幸せになってしまったのです。
かつて二人をかけがえのない存在と思っていた私には、もうこの先、恋も友情も信じることができません。所詮は彼女のように、ほしいものは親友から奪ってでもしたたかに生きていくべきものなのでしょうか。セラピーを受けましたが苦しくなる一方です。私はどう考えたらいいのでしょう」
悲しい話である。しかし親友に恋人をとられるという話は決して珍しくない。別の女性のケースでも、やはり突然に、「ほかに好きな女性ができた」と彼氏から切り出され、別れることとなった。
女性は何キロもやせるほど泣き、そこへ親しい女友達がなぐさめにやってきた。女性は切々と失恋の苦しさを訴え、二人して涙を流したのであるが、最後に女友達がいった。
「ごめんなさい。彼氏の相手は私なの」
実は少し前にその女友達が失恋したことがあり、親友を慰めようということで、女性が自分の彼氏たちを誘って四人で遊びに出たことがある。それをキッカケに二人は急接近し、以来ひそかに付き合っていたのだった。
世間ではこういう時、「よりによって恋人の親友とくっつくなんて神経がわからない」「親友の恋人に色目を使うなんてロクでもない人だ」と非難するだろう。確かに親友や恋人としての信頼を裏切ったのだからムリはない。
あるいは、しばしば「どうせそんな人間は浮気者、すぐにまた相手を乗りかえる。結婚する前にわかっただけむしろよかった」といった意見も寄せられたりする。本当に誠実な人は付き合っている相手を裏切ったりしないはずだからだ。
ただ、途中で恋愛の熱が冷め、相手を乗りかえるという話自体は世間にいくらでもあふれている。実際に、初恋の相手とそのまま順調に結婚までいくというケースは極めて少ない。
また、もし自分が親友の立場や恋人の立場だったらどうだろう。イザとなると人間は欲望に弱く、立場が変わったらあんがいコロリと考えが逆転することもある。恋愛というのは理屈ではないのである。妙齢の男女が関わる以上、いつでも道徳や友情を期待するのはムリがある。
だとすればたとえ親友の間柄にせよ、いつどんな状況でも三角関係が生じるという危機感を持っておくべきなのかもしれない。
それではどうすれば親友に恋人をとられたりしないようにできるかというと、恋する相手から見て、いつも素敵な自分であるために努力することだろう。人に堅苦しい道徳や友情を期待するより、まず自分の魅力を磨くことが先決だろう。
だから「私もほしいものを奪い、したたかに生きていこう」などという考えはもってのほか。その人の魅力をそぐだけである。
もちろん「恋愛は大事だが友情も大事にしたい」と考えるなら、自分から決してチョッカイを出さず、誘いにも乗らないこと。あるいは友人と元の彼氏の恋が自然に終わるのを辛抱強く待つ。これならだれも文句はいわないし、傷つかないだろう。