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イスラム潮流と日本
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政治・社会
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欧米から疎外され、欧米を標的にする「イスラム国」のメンバー、シンパ

『イスラム潮流と日本』
[著]宮田律 [発行]イースト・プレス


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 二〇一四年一〇月二三日に発生したカナダ・オタワの連邦議会の議事堂での銃撃事件は、カナダをはじめイラクでの「イスラム国」に対する軍事行動に参加している欧米諸国を震撼させたことは間違いない。イラク戦争に参加したスペインでは二〇〇四年三月一一日にマドリードで、またイギリスでは二〇〇五年七月七日にロンドンで同時多発テロが発生している。「イスラム国」はネットでイラクでの空爆に有志連合として参加して国々へのテロを呼びかけていた。カナダはNATO加盟国として、アフガニスタンの「対テロ戦争」にタリバンの拠点であるカンダハルなどに展開し、一五八人の将兵が犠牲になっている。


 カナダのムスリム人口は、全人口の三余りの一〇〇万人を少し超える数だが、欧米で暮らしているムスリムたちが「イスラム国」のようなイスラム過激派に転ずるのは、欧米での疎外感や社会的上昇性が閉ざされていること、さらには社会的偏見や差別などの要因を背景にしている。彼らは、欧米的な価値観はやはり自分たちの生きていく指針とはならないという思いを強くもち合わせている。


 二〇一三年一月に日本人ビジネスマンたち一〇人も犠牲になったアルジェリアのイナメナス事件にはカナダ・オンタリオ州出身の若者たち二人が実行犯に加わっていた。それに先立つ二〇一二年七月のブルガリア・ブルガスでのバス爆破事件(六人が犠牲)の実行犯もカナダ国籍をもつ者だったし、二〇一三年九月にケニア・ナイロビでショッピングモールが襲撃され、六三人が犠牲になった際にもカナダ人が武装グループの中にいた。




 二〇一四年八月下旬、米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏を殺害する動画の中で現れた覆面の「イスラム国」のメンバーはイギリスでラッパーとして活動していたアブデル・マジェド・アブデル・バリー(二三歳)と見られると、八月二四日、イギリスの「サンデー・タイムズ」紙(電子版)が報じた。父親のエジプト人、アブデル・アブドゥル・バリーは一九九八年のケニア・タンザニアの米国大使館爆破事件に関与していたとして、二〇一二年にイギリスから米国に送還された。ヨーロッパの若者たちが「イスラム国」やアフガニスタン・パキスタンのタリバンのメンバーになるのは、ヨーロッパ内部の事情が要因として強くある。


 特に極右勢力がヨーロッパで一様に台頭し、ムスリム移民の(はい)(せき)が唱えられるようになった。前述のラッパーの出身地であるイギリスでも同様で、同国の極右政党「イギリス国民党(BNP)」は、白人のみによって構成されるような政党だ。この政党はイギリスを「人種的に汚染された地」と形容し、イスラムは邪悪な宗教であると断じ、イギリスのムスリムを「一緒に生活するには最も身の毛のよだつ、我慢のならない連中」と決めつけるなどヘイト・スピーチを繰り返している。


 イギリス国民党は二〇〇八年のリーマンショック後の経済危機で、有権者にEU(欧州連合)統合への疑問符を突き付け、二〇〇九年六月に行われた欧州議会選挙では二議席を獲得した。BNPはイギリスで主要な党になりつつある。イギリス国内で育ったムスリムがロンドンでテロを起こしたことや、グローバル化によってムスリム移民が増えたこともあり、その党員は、一九九九年の一三〇〇人から二〇〇七年には一万五〇〇〇人に増加している。


 BNPの支持者たちは、ムスリム移民問題を切迫したものと捉えている。彼らの子女が、移民によって仕事の機会や住宅を奪われ、権利や文化が脅かされると考えているのである。荒唐無稽に響くBNPの訴えが支持を得られる背景には、イギリスの経済的低迷、失業の増大などの社会・経済問題がある。イギリスの財政赤字は深刻で、イギリス社会の閉塞感を背景にBNPはじわりと成長を続けている。


 イギリスでは一般にムスリムたちの生活状態はよくない。住宅、教育、医療などの点で劣悪な生活を余儀なくされたり、ムスリム墓地が破壊されるなど、ヘイト・クライムの対象となったりしている。さらにイギリスのムスリムの若者の失業率は、一六歳から二四歳で二八、二五歳以上だと一一だ(二〇一一年二月「ザ・サンデー・テレグラフ」の記事)こうした差別や偏見、さらにムスリムを取り巻く生活環境の劣悪ぶりが先述の「ラッパー」などのようなヨーロッパの若いムスリムを「イスラム国」などの武装集団に参加させることになっている。


 二〇一四年九月中旬に発生した「イスラム国」によるイギリスの援助団体関係者デヴィッド・ヘインズ氏の「処刑」はイギリス政界が「イスラム国」への対応で二分される中で起こった。


 その直前、ハモンド外相は、イギリス軍が「イスラム国」に対して空爆を行うと発言したのに対して、キャメロン首相はそれを打ち消す発言をしている。

「イスラム国」が行うこのような斬首を動画で配信する手法は二〇〇四年からのもので、無抵抗の民間人を殺害することで、圧倒的な軍事力をもってイラクを攻撃した米英などに対してさらなる軍事行動を抑止するメッセージもあった。さらに、()()の市民たちが欧米の軍隊によって殺害されていることを強調し、動画によって組織にメンバーを募るという宣伝の目的もある。


 米国はエジプトのシシ政権に協力を求めたが、しかし米国が後押しを考える「自由シリア軍」はシシ政権が最も嫌うムスリム同胞団によって構成されている。米国の同盟国のサウジアラビアが支援し、二〇一四年八月中旬に拉致された日本人の湯川遥菜氏解放の窓口になっている「イスラム戦線」は厳格なイスラム主義に訴え、米国の価値観とは合わない。


 シリアのアサド政権による民主化要求運動に対する暴力的弾圧は、シリア社会に急速に暴力的発想や非寛容性をもたらすことになった。また、シリアで「アラブの春」が起こった当初、米国やヨーロッパ諸国が穏健な反政府勢力に支持を与えなかったこと、さらに反政府勢力が十分に結束することができなかったことが、外国人の武装勢力をシリアに招き入れることになった。


 たいていの場合、「過激派」のメンバーたちは宗教については無知で、宗教的慣行も遵守していない。人を過激化させる背景には、道徳的な心情からの怒り、政治に対する不満、交流する仲間たちからの圧力、自らの置かれた社会とは異なる新たなアイデンティティを求めることなどがある。また、欧米の場合はムスリムが置かれた環境が、差別や疎外の中にあることや欧米諸国のイスラム諸国への軍事干渉などによって動機を与えられ、特にヨーロッパでは、失業や、家計の要因もあって十分な学歴をもてないことなどの「敗北感」が「イスラム嫌い」の風潮によって助長されているという現実がある。


 二〇一四年七月に、テロを計画した容疑で有罪の求刑を受けたイギリス・バーミンガムのユースフ・サルワールとモハメド・アフメド(ともに二二歳)は、シリアで二〇一三年五月に戦闘経験があった。彼らはシリアに赴く際にアマゾンで『バカにもわかるイスラム(Islam For Dummies)』『バカにもわかるコーラン(The Koran For Dummies)』を購入していた。この事例からも、いわゆる「聖戦士(ジハーディスト)」たちがイスラムについて深い知識をもち合わせていないことがうかがえる。


 米国はイラクで「イスラム国」に対する空爆を繰り返しているが、「イスラム国」の「脅威」を弱めるには、この地域に利害関係をもつ国々、欧米諸国や中東以外の関係国との協議や協調が必要で、イスラム過激派の成長をもたらしている政治的、経済的、社会的要因の改善も求められている。特に後者の分野では日本にも果たせる役割がある。

「イスラム国」が台頭したり、中東イスラム地域でジハーディストが増殖したりする要因、つまり米国が支持する権威主義体制(エジプト、湾岸の諸王国など)、外国の軍事介入(イラクの事例)、イスラエルのパレスチナ占領、またイラクやシリアで見られるように、欧米が(あお)る中東諸国の「代理戦争」の構図などは根強くこの地域で続き、定着している。


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