このところ「悪魔の棲む家」(79年)をはじめ「ザ・フォッグ」(80年)「サンゲリア」(79年)など続々と超自然の怪奇恐怖を扱ったコワい映画が登場しつつある。そこでこの項はSFの系列に属さないこのジャンルの代表作をふりかえってみたい。
最も優雅なクラシック代表は「アッシャー家の末裔」
怪奇恐怖映画といえば一九三〇年代の半ばまでのドイツが最も得意とする種目だった。もちろんハリウッドも負けてはおらず、特にユニヴァーサル社はドラキュラやフランケンシュタイン博士の怪物などを生み出して大いに稼いだ。が、戦前の作品で最も優雅で古典的な香りの高い代表作と言えば、ジャン・エプスタイン監督のフランス映画「アッシャー家の末裔」(26年)を挙げずにはいられない。エドガー・アラン・ポーの小説が土台で、早く埋葬されすぎた女性の怪奇が、非常に幻想的で詩的な映像で描かれていく。戦後、怪奇恐怖映画で名をあげたロジャー・コーマンはポーの作品を片っ端から強烈な色彩と通俗的なアクの強い手法で映画化、その中には「アッシャー家の惨劇」(60年)もあったが、芸術性においてはサイレントの黒白版だったエプスタイン作品に遠く及ばない。大きな窓いっぱいにかけられた白いレースのカーテンが不気味にはためきはじめ、置いてあったギターの弦がひとりで切れる場面はすばらしかった。
というところでプロローグは終り。以下戦後の作品に集中しよう。
悪魔の怪奇は「回転」「ヘルハウス」「悪を呼ぶ少年」
最近の怪奇恐怖映画では人間の悪霊を扱ったお話が多いので、まずそれからはじめたいが、悪霊にもいろいろなタイプがある。「悪魔の棲む家」の場合は一軒の家にとりついている悪霊で、このタイプは非常に多い。呪いの家とか幽霊屋敷とかのお話はほとんどこれである。このジャンルで文学的な香りの高い代表はヘンリー・ジェームズの有名な「ねじの回転」をジャック・クレートン監督が映画化した「回転」(61年)で、ある邸に小さな兄妹の家庭教師として住みこんだデボラ・カーが、死んだ前任の家庭教師とその恋人だった執事の亡霊が兄妹にとりついているのを知る。