ロバート・レッドフォード初監督の「普通の人々」(80年)の試写があったとき、終りのほうでワッと声をあげて泣き出した女性がいたという。そこでこの項は肉親の愛情を描いた映画の代表作を選ぶことにして、まず父と子から――。
父とチビッコ息子の感動は「クレイマー、クレイマー」
父と子の愛情といっても子の年齢によっていろいろな場合がある。少年少女の場合、一番多いのは難病死病の子供につくす親心を描いた作品で、ウィリアム・ホールデンが放射能を浴びて余命いくばくもない十歳の息子ブルック・フラーを楽しませようと必死に努力する「クリスマス・ツリー」(69年)をはじめゲップが出るほど、代表作に選べるほどの佳作も見当らないが、あえて選ぶならなんでも屋のドン・テーラー監督にはめずらしい優秀な出来ばえの「別れのこだま」(76年)あたりである。不治の病に冒されたジョディ・フォスターと父親リチャード・ハリスの深く理解し合った愛情の姿を描いて文学的な香りを出しており、ありふれた難病死病お涙頂戴映画とはだいぶ違う。
死期が迫った子供で泣かせるなんて卑怯な手を使わないオーソドクスな親子愛情映画のスタンダード・ナンバーと言えば「チャンプ」(79年)である。これは一九三一年にキング・ヴィドアが監督したウォーレス・ビアリー、ジャッキー・クーパー共演の名作よりいささか劣る再映画化で、父親ジョン・ヴォイトは知性が感じられて感心出来ないが、息子リッキー・シュローダーの好演が感動を呼んだ。
しかしこのフランコ・ゼフィレッリ作品はスタンダード・ナンバーであっても戦後全般を通じての代表作と言うには首をひねらざるを得ない。子供に対する父親の愛情を描いた代表作には「クレイマー、クレイマー」(79年)を挙げるべきである。