リチャード・ドレイファスとエーミー・アーヴィングがピアノの腕前を競う「コンペティション」(80年)を見てゴキゲンになった。そこでこの項はクラシック音楽ドラマの代表作をさぐることにしたが、ついでに縁の深いバレエ映画にも及びたい。
ピアノの魅力は「愛の調べ」と「コンペティション」
クラシック音楽を扱った映画は、題材からすると二種類に分けられる。作曲家や演奏者の伝記と音楽を中心にした一般ドラマである。が、伝記物のほうが圧倒的に多い。また部門別に見ると、ピアノとオーケストラが非常に多い。スチュワート・グレンジャーがパガニーニに扮した「魔法の楽弓」(47年)などのヴァイオリン部門、カルーソをマリオ・ランザが演じた「歌劇王カルーソ」(51年)などの声楽部門もあることはあるが、あまり多くない。特に声楽部門は、ポピュラー・ミュージックの歌手や楽団の映画が洪水の今日、クラシックの歌手などお呼びでない状態にある。
さて、ピアノといえば最もおなじみ深いのはショパンとリストだろう。ショパンの映画で最も有名なのはゲザ・フォン・ボルファリ監督の「別れの曲」(34年)で、ショパン(ジャン・セルヴェ)が愛する歌手コンスタンツァ(ジャニーヌ・クリスパン)と別れてポーランドからパリへ行き、リスト(ダニエル・ルクルトア)と親交を結んで大いに認められるようになるまでを、男装で名高いジョルジュ・サンド(ルシエンヌ・ルマルシャン)との恋をまじえて華麗に描いている。ショパンのピアノはエミール・フォン・ザウアーが吹替えで弾いているが、リストと「英雄」ポロネーズを連弾する場面など圧巻だった。〈作品十の三、ホ長調のエチュード〉が「別れの曲」と呼ばれ日本で最もポピュラーになったのもこの映画のおかげである。なお一九四四年にアメリカでチャールズ・ヴィドア監督がコーネル・ワイルドのショパンでリメイクし、日本では四九年に「楽聖ショパン」という題名で公開されたが比較にならない凡作にとどまった。