前項に続いて列車篇。この項はミステリーやサスペンスが中心ですが、別れの点景として絶対の価値を持つSLも登場します。
ヒッチコック映画の列車は「バルカン超特急」が代表
去る四月下旬、アルフレッド・ヒッチコックの「疑惑の影」(43年)がテレビ放映された。殺人鬼ジョゼフ・コットンが姪のテレサ・ライトを進行中の列車のデッキから突き落とそうとするクライマクスにハラハラドキドキした人も多いと思う。
列車のミステリーやサスペンスはヒッチコック先生を除外して語ることは出来ない。彼はいろいろな乗物の中でも特に列車が好きで、多くの作品に登場させているが、その使い方も抜群のうまさである。部分的に使っている作品を幾つか並べてみると、まずイギリス時代に作った「三十九夜」(35年)では主人公ロバート・ドーナットが殺人の容疑で追われ、進行中のスコットランド行き急行の客車の外側を伝って逃げる場面がすばらしかった。渡米してからの作品では「疑惑の影」のクライマクスに続いて「白い恐怖」(45年)。縞のようなものを見ると錯乱状態になり殺意を起すグレゴリー・ペックが彼を愛し治療にあたる女医イングリッド・バーグマンと列車に乗っていると、窓から線路が見えたためヘンになってくる。
テニス選手のファーリー・グレンジャーが列車で知り合ったロバート・ウォーカーからキミの奥さんを殺してやるからボクの親父を殺してくれと交換殺人を申込まれるのが発端の「見知らぬ乗客」(51年)ではクライマクスにさしかかるところでも列車が大きな効果を上げる。グレンジャーの妻を殺したウォーカーが罪をグレンジャーに着せる工作をするため遊園地へ行く。テニスの試合を終えたグレンジャーが列車でそのあとを追うのだが、車窓から見える夕陽がいらだたしい時間経過を表現する。