このところ「クリスタル殺人事件」(80年)に続いて「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(81年)「そして誰もいなくなった」(74年)「大いなる眠り」(78年)などが劇場やテレビで続々登場。そこでこの項は有名探偵作家の映画化作品から代表作を選んでみよう。
クリスティの映画版代表は「情婦」
生前のアガサ・クリスティは自作の映画化を好まなかったそうで、そのせいかあれほど多くの作品を書きながらスクリーンに映されたものはわずかしかない。今後は状況が変って増加してくるかもしれないが、いままでのところ数本にとどまっている。
まず、ルネ・クレールが監督した「そして誰もいなくなった」は一九四五年に発表されてから三十年もたってようやく日本の劇場に登場したが、孤島の邸に集められた十人の男女がレコードに吹きこまれた謎の声で過去の罪をあばかれ、マザー・グースの歌の趣向に従って次々と殺され、その度に広間のマントルピースに並べられた十人のインディアンの人形が一つずつへっていく、というミステリーの典型的な構想をきちんとふまえて演出しているのが面白く、クレール作品としては上位に置けないが結構楽しめた。ジョージ・ポロック監督による「姿なき殺人者」(66年)はその再映画化だがぐんと落ちる。今回公開のピーター・コリンスン監督版は三度目の映画化であるが、舞台をペルセポリスに移して新味を狙っている。
クリスティの作品には「クリスタル殺人事件」でアンジェラ・ランズベリーが演じたミス・マープルのシリーズもあるが、なんといってもエルキュール・ポワロのシリーズには及ばない。そのポワロは「オリエント急行殺人事件」(74年)でアルバート・フィニー、「ナイル殺人事件」(78年)でピーター・ユスティノフが演じたが、それぞれ凝ってはいるものの原作のイメージとはだいぶ違う。