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「イベント実務」がよくわかる本
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[2]計画とは何か

『「イベント実務」がよくわかる本』
[著]平野暁臣 [発行]イースト・プレス


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 こうした特性から、イベント実務が円滑に進むか否かは、初期の段階が極めて重要な役割を果たします。成否の大半は本格的な準備作業がスタートした時点でほぼ決まるといっても過言ではないほどで、当初のボタンの掛け違いはしばしばイベント運営に致命的なダメージを与えます。


 健全なイベント経営は、「目的を達成するための理念とその実現に向けた全体像を構築すること」「それを成立させるための個別の要件とその基本構造を明らかにすること」、そして「実際の準備作業に際しての具体的指針を示すこと」からはじまります。言い換えれば、初期の段階から基本的な考え方と進むべき方向が明示されたいわば準備作業の拠り所となるものが必要だ、ということです。


 こうした役割を果たすものが計画案です。構想案や計画案の作成は、イベント開催に伴う種々の準備プロセスのなかでも最も重要な業務の一つなのです。


 一般に、「計画業務」は3つのフェーズ、すなわち『基本構想』『基本計画』『実施計画』の3段階で構成されます。


 これは、イベントに限らずおよそ計画と名のつくものすべてに共通するプロセスで、物事は概ねこの3段階のステップを経て決まっていく、というのが一般的なプランニングのあり方だと考えていいでしょう。


 このプロセスを「住宅の設計」という作業に当てはめて考えてみると、「基本構想」に当たるのはいわゆる概念設計で、これからつくろうとする家の基本的な理念(=設計思想)や空間構成の基本方向など、設計の土台となる基本原則や考え方を一つの体系に整理する作業を意味します。たとえば、小部屋をたくさんつくるのは止めて広いスペースを多機能で使おうとか安全でプライバシーの守れる中庭を中心にした家をつくろうといったような、家のあり方に関する基本的な考え方を整理する、ということです。そして、それらを矛盾のない一つの形に収斂させたラフスケッチを描きます。


 同じように「基本計画」とは基本設計のことで、概念設計でイメージした考え方を実現させるための基本要件を物理的に決定していきます。具体的には、配置・意匠・構造・材料・仕上げなどを検討したうえで、それらを平面図・立面図・断面図等の基本図面の形に整合させる作業です。この段階で、その家の概要はほとんど決まります。事実、各種の申請に求められるものも、ほとんどがこの基本設計のレベルです。概算工費の積算から家具配置のシミュレーションまで、基本設計ができればすべて可能になります。

「実施計画」に当たるものが実施設計で、基本設計図を工事発注ができるレベルにまで細部にわたって詳細に詰めていく作業をいいます。この段階で描かれる図面が実施設計図で、これをもとに入札や発注を行います。つまり、実施設計とは実際に建物を施工するための作業なのです。


 この3段階の手順を一言でいえば、まずはじめに『コンセプトと目指す方向』を掲げ(=基本構想)、続いて『全体の枠組みと基本システム』を構築し(=基本計画)、最後に『詳細の詰めと執行の段取り』を行う(=実施計画)、ということになります。これが一般的な計画業務の進行プロセスです。


 もちろん、規模や条件によっては、複数のステップが同時並行的に進んだり、あるいはいずれかのステップが省略されたりすることもありますし、逆に各ステップの間に補助的なステップが挿入されることもあります。しかし、基本はあくまでこの3段階のプロセスです。


 このように、3つのステップはそれぞれ固有の役割を担い、独自の機能を果たしていますが、基本的には直線上に連続するものです。基本計画は基本構想を発展させたものであり、実施計画は基本計画の上に築かれます。段階が進むにつれてその対象となる範囲が広がり、精度が高まっていくのです。


 計画業務には共通する使命があります。計画業務の果たすべき役割は概ね次のようなものです。

(1)イベントの枠組みを規定し、全体としての構造を明確に示す


 イベントは多種多様な要素の集合体であり、それらを一つの体系に組み上げるべきことは上述の通りです。したがって、イベントの制作は、必要な要件をすべて網羅した「破綻のない全体像」を描くことからはじまります。これが計画案の基本的な役割です。すなわち計画案とは、イベントの成立要件を抽出し体系化したもので、イベントの枠組みを規定してその全体像を指し示すことが期待されています。もちろん、計画のステップが進むにつれて、プロジェクトにおける位置づけは変わっていきます。


 たとえていうなら、「基本構想」は憲法、「基本計画」は法律、「実施計画」は施行令や施行規則に相当します。基本構想で基本的な理念や目的、事業としての枠組みや全体として向かうべき方向などが示され、基本計画では部門ごとの基本的な考え方と方針、ならびにそれらを成立させる具体的な構成要件が明らかにされ、さらに実施計画では各部門別に詳細かつ現実的な実務の執行計画が策定されます。


 このように、ステップごとに精度や検討内容は違ってきますが、プロジェクトの「構造と体系の構築」が目指されるという点では、いずれも変わりがありません。

(2)関係者に共通の理解と認識を醸成する


 上述のように、イベントの実務を担う組織は臨時に編制されるケースが大半で、しかも多くは1回限りの人間関係で成り立っています。


 とくに規模が大きくなると、主催者の実務執行組織自身が、さまざまな組織や団体から派遣された人材や臨時雇用の人員による混成部隊となるだけでなく、立場や専門分野の異なる多数の専門家の関与が避けられなくなります。


 つまり、主催者として実務を執行する組織内部も、委託を受けて実務をサポートする外部の人材も、ともに臨時に編制されたそのとき限りの人間関係のなかで業務を遂行せざるを得ない、ということです。このように、二重の意味で組織も「仮設的」なのです。


 したがって、立場やバックグラウンドの異なる多くの関係者の認識の統一と意志の疎通は、実務を進めていくうえで最も重要な課題となります。これをカバーするもの、すなわち関係者の間にいわば共通の土俵を用意するものが計画案です。もちろん、様々な経歴や立場の人々に誤解なく共通の理解を促すためには、できるだけ明快かつ具体的に記述することが大切です。

(3)実務担当者が進むべき方向を示す


 イベント制作の現場では、主催者組織の担当者は限られた時間のなかで多くの案件を処理しなければなりません。やるべきことを忘れたり順序を間違ったりすると、予算や工程を大きく狂わせることになりかねないため、担当者はいつも緊張を強いられることになります。


 それでも何度かイベントに携わったことのある人ならある程度直観的な判断もできますが、経験の少ない者が担当者として配置された場合にはそうもいきません。企業内に擁する専門セクションが実務をこなす企業イベントのようなケースを別にすれば、イベントの多くは経験の少ない者の手で遂行されているのが現状であり、とくに行政イベントの場合には「イベントなどはじめて」という人が大半です。


 しかも上述のように、イベントには同じ条件の繰り返しがないので、過去の事例をそのままコピーすることができません。マニュアルや教科書もありません。


 すなわち、多くのイベントでは、はじめてイベントに携わる担当者が、いきなりマニュアルなしでデッドエンドの決められた職務に取り組まざるを得ない、ということになります。したがって、実務担当者が安心して前へ進むための拠り所となるものが必要です。この役割を果すものが計画案です。


 言い換えれば、準備作業の指針となり、時間を追うごとに次々と迫られる具体的な決断に際して、一貫した判断基準を提供するものが計画案なのです。

(4)全体構成のシミュレーションの契機となる


 イベントとは、事前に設定された何らかの目的を達成するための手段です。イベントには必ず動機と目的があるはずで、それなしに形式をただ反復するだけのプログラムはもはやイベントとはいえません。


 もちろん、ある目的に対して、それを実現する方法(イベントの展開や構成の考え方)は無数にあります。イベントの計画とは、そうした数多くの選択肢のなかから最も効果の高い方法を選択する作業なのです。


 最も合理的・効果的な方法を誤りなく選ぶためには、選択肢それぞれのメリットとデメリットを見据えてシミュレーションを重ねる、すなわち、種々の組み合わせや可能性をシミュレートしながら、徐々に最適な構成に絞り込んでいく、というプロセスが不可欠です。


 初期の段階で、最良のプログラムを固めるためのシミュレーションの契機となるものが計画案です。実は、こうした検討が許されるのは計画段階だけであって、制作・運営段階に入ると、すでに枠組みそのものの変更や修正の余地は残されていない、ということを忘れてはなりません。

(5)条件の変化に対処するための基礎資料となる


 イベントを取り巻く環境や条件は常に変化を続けます。外部要因による状況の変化によってイベントの内容や準備過程が変更を迫られることは決して珍しくありません。当然ながら、準備を進める側もそうした変化に追随して柔軟に対応しなければならないのですが、そうするためには一つの条件を満足することが必要です。


 それは、当初から「整合性を保った全体像」が描かれている、ということです。繰り返し強調しているように、所要要件を網羅した破綻のない全体像が目に見えていれば、仮に内容の一部に修正や調整が必要になった場合でも、それに関連する要因をすべて調整することで、変更後も依然として整合性を保った全体像を把握し続けることができるからです。このような条件変化に対処するための基礎資料となるものが計画案です。


 逆に、当初計画をなおざりにしたまま準備を進めていくと、一つの要因の変化がどこにどのように波及し、全体がどのような姿に変わっていくのかを当事者も把握できず、その場しのぎの対応しかできなくなってしまいます。イベントの経営にとって最も避けなければならない事態とは、全貌が掴めぬままズルズルと流されていくことなのです。


 このように、計画案にはそのイベントの全体像を明らかにするとともに、向かうべき方向をできる限り具体的に示すことが期待されています。むろん計画段階では多くの条件が未確定であって、すベてを動かぬものとして確定することはできません。


 しかし、だからといって計画案を「形式的なダミー」と軽視することは厳に慎まなければなりません。上述のように、それ以降の進行過程のなかで修正が行われることを前提としながらも、その基本的な考え方や枠組みは確固として確立されていなければならないからです。


 イベント制作のプロセスのなかでとくに計画業務が重要なのは、冒頭で述べた構造的な特性をイベントが本来的にもっているからです。繰り返し記せば、


 ●業務の守備範囲が広く、それらは相互に絡み合っている。


 ●状況が常に動き、内容の修正を余儀なくされる。


 ●「前例の反復」がない。ゆえに手探りで進まざるを得ない。


 ●本番しかない。「テスト販売」ができない。


 ●多くは組織も「仮設」。はじめて経験する者も少なくない。


 ということです。


 こうした条件下にあって、イベントという難物を当初の目的通りに完遂させるためには、いうまでもなく、「事前にどれだけリスクの芽を摘み取ることができるか」が大きなポイントになります。


 一方、イベントに期待されているのは「前例のトレース」ではなく、常に「新しい何か」であって、この意味では、イベントのプランニングに最も望まれることは、「斬新なアイデアに挑戦する」姿勢だといえるでしょう。


 この両者は、一見すると正反対のことのように見えますが、実はその成立要件は共通しています。それは、「事前に十分な検討と裏付けのあるデータの集積を行い、緻密なプランを準備すること」です。


 計画案は、まさにこうした使命を負っています。計画立案に対する姿勢と技術水準(計画の「質」と「精度」)がイベントの成否を分けるのはこのためです。計画段階で綿密な検討が重ねられていれば状況の変化にも冷静に対応できますが、逆に形だけのいいかげんな内容で走りはじめるとその歪みが日増しに大きくなり、事態をさらに悪化させることになる、ということを忘れてはなりません。

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