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(2021/11/26 追記)

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悪の境界線 犯罪ボーダレス社会の歩き方
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エンタメ
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芸能人のセックスフレンドを斡旋する「会社」とは!?

『悪の境界線 犯罪ボーダレス社会の歩き方』
[著]丸山佑介 [発行]イースト・プレス


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 無名のAV女優が自殺した。

 彼女は、ある芸人のカキタレ、つまりセックスフレンドをしていた。私はその過去を知っている。一時期、芸能記者をしていたときに知り合って、私自身が彼女たちから情報を得て、いくつかスクープと呼べる程度の記事を書いていたからだ。
「彼女たち」と言ったのは、自殺した子以外にも同じような生き方を選んでいた子たちとも接点があったからだ。

 出会ったのはいまから5年以上前になる。最初は、ちょっとした悪ふざけだった。友達の雑誌編集者と昼キャバ(その当時流行っていた日中に営業するキャバクラ)嬢をガチナンパするという、いまから思えばどうしようもない企画に付き合ったときだった。

 友達は、どんなに積極的に挑んでも惨敗続き。それなのに果敢に挑む様を見ているほうが面白くなるぐらいだった。
「お客さん、何しにきたんですか?」

 私についたキャバ嬢は、不思議そうに見てきた。
「いや、別に、ま〜付き合いって感じかな。それで、君って芸能人とセックスしたことあるわけ?」

 完全に口からでまかせ。場をつなぐだけのセクハラトークのつもりだった。
「えっとね、芸人さんなら……あるよ」
「は? マジで!?

 思わず食いついた。そのときになって彼女をよく見てみると、年の頃は20歳を少し越えたぐらい。見た目は、大して美人ではないが、それなりに整った顔をしている。菅野美穂を残念な感じにしたとでも言える。
「名前なんだっけ?」
「ひどいな、聞いてなかったのね。ミカです」
「わかった。ミカちゃん。いまの話、もう少し詳しく教えてくれないかな」
「いいけど、ここじゃあんまり詳しく言えないし……その」

 来た!と思った。彼女は店の中では話せないが外ならいいと言っているわけで、そのあと口ごもるのは、アフターをお願いしたいということだろう。
「じゃあ、アフターでもいいから外で話そう」
「やった! 今日、金欠でちょっとお腹減ってたから助かる」
「え、でもこの店で働いてるんでしょ」
「私、タイニュウなんだよね」
「タイニュウ」とは体験入店のこと。お店で働く以前に1日のヘルプ的に接客することだ。ちなみに、アルバイト感覚で1日こっきりで辞めてしまう子も多い。ミカもそのつもりなのだろう。これは、ますますもって逃がすわけにはいかない。
「ちょっと連絡先教えてくれないかな」

 ミカの連絡先をゲットした私は、友達編集者に「そろそろ出ようか」と退店を促す。しかし、「もう少し粘るから」と言って帰る気配はない。仕方なく私だけ先に帰ることにした(申し訳ないが会計は友人につけておいた)。

 それから、歌舞伎町をウロウロしながらミカの上がりを待った。昼間の歌舞伎町はやや閑散として寂しい雰囲気が漂う。20分ほど待っただろうか。携帯が鳴った。
「おまたせ」

 そう言ってきたミカと待ち合わせる。ミカは、ゴリゴリのギャルファッションに身を包んで現れた。内心、「ギャルって苦手なんだよな」と思いながら彼女を昼間から営業している飲み屋に連れていった。

 そして、世間様には申し訳ないと思いながらも昼酒で乾杯してから彼女にさっきの話を詳しく教えて欲しいと頼んだ。
「えっとね、私がヤッたのはPのHでしょ。AのSとあとはね……」

 どっちも若手芸人としてはトップクラスの知名度を誇っていたが、ほかにも名前を思い出そうとしていた。

 一体何なんだと思った。なにより、なんでこんな小娘が芸能人と次々に知り合えるのだろう。疑問に思わないほうが変だろう。
「ちょっと、待って。なんで、そんなにつながってるわけ。なんか特別な方法でもあるのか?」
「え、それはちょっと言えないかな」
「そこを何とか!」

 私は強引に懇願するときにプライドは捨て去るタイプなので、躊躇なく頭を下げた。しかし、まだミカは渋っている。そこで妙案が閃いた。たしか、ミカは金がないと言っていたはず。
「もし、面白い話だったら、情報料として金払うよ」
「情報料って……丸山さんってなんの仕事してる人?」
「雑誌の記者とかやってる。フリーで」
「そうなんだ。そういう人、初めて知り合った。いいよ。それなら教えてあげる」

 ミカが教えてくれた内容は衝撃的だった。

 まず、彼女はある組織に属していた。それは通称「会社」と呼ばれる合コングループで、トップを務める女性がお笑い芸人のライブで出待ちをしてる女の子からめぼしい子をスカウトしてメンバーに加えていくのだという。出待ちしているような女で「芸人とコンパしない?」と誘われて、乗らない子はいないとミカは言う。

 初期メンバーのなかには10代の少女もいたが、元極楽とんぼの山本の未成年者レイプ事件(2006年に吉本興業に所属していた人気コンビ、極楽とんぼの山本圭一が、当時未成年の女性をレイプしたとして被害届が出された事件。このことがきっかけで山本は芸能界を引退している)があって以来、芸人側が警戒して身分証提示などを求めてくるので、その頃から集めてくるのは成人した女だけになった。かく言うミカもスカウトされたときは10代だったそうだが、事件のときには成人していたので問題なかったそうだ。

 ミカは属している「会社」でのポジションは「枝」と呼ばれている。まるでヤクザ用語のようだ。本家から伸びている分家筋を枝と呼ぶ隠語があるからだ。そのことを伝えるとミカは言った。
「怖い人たちと一緒にしないでよ。私たちの目標は、あくまで芸人との結婚なんだから」
「そうなんだ。でも、芸能人が参加するコンパなんて参加費とか、かなりお金かかるんじゃないの?」
「全然かからないよ。駆け出しの若手芸人ばっかりだと割り勘とかあるけど、年上の芸人が会計してくれるし」
「でもさ、よく芸能人とコンパできるコネがあるよな」
「社長(リーダーの女)が関西の人だからじゃない。関西芸人と仲良くて、遊ぶために上京したっていってたし」
「じゃあ、芸人とのコネは社長がもっているんだ?」
「そうだよ。でも、いまは枝の何人かが独立して子会社みたくなって、結構勝手にやってる。芸人と連絡先を交換したから直で誘われるようになったしね。もう地元の友達みたいな一般人とは遊べないよ」

 芸人相手にコンパしてセックスしただけで、友達を一般人呼ばわり。自分たちを特別な存在であるかのような発言にはイラっとはしたが、彼女たちの組織に興味をもったのも事実だ。

 コンパという建前がなければ、社長を筆頭に芸人を相手に管理売春をしているようにも見えなくはない。金をとったり利益を出そうと思っていないからこそ成立するのだろう。ヤクザが知ったらシノギのネタにしそうだなと思いながらも私にとって「この女はネタになる」と確信したのだった。

 実際彼女はネタを持ってきた。情報料を多いときで1万円程度だったが渡すようになり、加えて何度となく飲みに誘い情報を収集していく関係になった。そのうち、彼女たちの芸人との夜遊びを記事にしていくようになり、ミカのいる子会社でも芸人の秘密を話すと小遣いがもらえると噂になり、ミカ以外の女の子とも会うようになった。

 その中の一人に冒頭のAV女優がいた。名前をマスミといった。少し小太りでうつむきがちな子だった。とりたてて美人でもないが愛嬌のある顔をしていた。

 マスミは、「自分を捨てた芸人とのことを記事にできないか」と言ってきた。彼女は、その芸人に貢ぐために水商売、風俗、AVと職歴を重ねてきた挙げ句に妊娠して「誰の子かわかんねえだろ」と言われて捨てられたそうだ。

 しかし、ミカと一緒にその日の夜のコンパの話をしているなど、どこまで本当かわからない。

 私は「保留するよ」と言って、連絡先だけを交換して別れた。その頃、ミカと出会ってすでに2年が経過しており、芸能記事を書くことに、嫌気がさしていたのだ。

 ちょうど先輩作家に「君も文章を生業としているのなら芸能スキャンダルとエロ記事を書くのは控えたほうがいい。相手も自分も摩耗するよ」と言われたことが引っ掛かっていた。

 実際、紙面には書けないような芸人たちのカキタレに対する酷い扱いを芸の肥やしと言い切ることや、無駄にプライドの高いカキタレ女たちを書くことに疲れが出はじめていたのだ。奇しくもメインで書いていた雑誌が方向転換をはかり、芸能スクープの比率を縮小するという話も出ていた。
「このあたりが潮時か」

 ミカやほかの「枝」の子らと距離を置くことにした。半年ぐらい過ぎたある日、ミカから電話があった。
「ねえ、マスミちゃんのこと記事にしてくれないの?」
「ああ、あれな。考えておくよ」

 そっけない返事だったが、これでもう記事にすることはないと察して欲しかった。だが、それから1ヶ月もしないうちに再びミカから連絡が入った。
「マスミちゃん、死んじゃった。自殺だって」
「え? 自殺って……」
「丸山さんが記事書かないとかじゃなくて、あの子が芸人たちの間で二股かけているのがバレたんだ。それで、嫉妬したほかの女の子が2ちゃんねるに書き込んだり、コンパする芸人たちに適当な噂とか流したの。性病だとかメンヘラだとか……まあ、あながち外れてないけどね」
「そうなのか。あの子ってまだ若かったよな。そんなに追い詰められていたのか?」
「うん。でも、最後に行ったコンパはひどかったよ。風俗とAVやってるのが芸人たちみんなに伝わって、カラオケボックスでほかの女の子もいる前でフェラとかさせられたみたい。その場にいる芸人全員。まあ、それは可哀想だけど……」

 可哀想だけど仕方ないとでも言いそうな口ぶりに希薄な人間関係をうかがうことができた。そして、私の考えを見透かしたようなことを言い出した。
「それとして、私もそろそろ芸人卒業しようかなと思って」
「どうするの?」
「就職する。丸山さん、どこか紹介してよ」

 とてもではないが、出版不況が叫ばれる昨今、私程度のコネで紹介できるような仕事はあまりないし、正直、芸人のカキタレを何年もやってきたミカを紹介するのは気が引けた。
「まあ、いいところがあったらな」

 お茶を濁して電話を切った。それからマスミのことをあらためて考えてみた。彼女にとって、芸人とのコンパとは何だったのか。20代の女が青春と人生を費やして、終いにはコンパが引き金で命を絶った。そのことを大して悲しむでもない、かつてのコンパ仲間。希薄な人間関係のなかで遊ぶことが本当に楽しかったのだろうか。

 これでは、「嘘」を共有していただけではないのか。ひとたび事件が起きれば、被害者はハッキリしていても加害者が多すぎて見えない。そもそも「会社」という存在が悪といえるのかもしれない。私はそんなことを考えていた。

 結局、彼女たちのそんな活動でいくらか稼がせてもらった罪の意識からではないが、ミカにアルバイトの口を探してみた。いくつか候補があったので、彼女に電話すると電話口が騒がしい。
「ごめーん。いま、芸人とコンパ中だから」

 そう言って、電話は一方的に切られた。この女たちは、多分、カキタレという生き方に自分で幕を引くことができないのかもしれない。だからといって、私は最後まで付き合う気にもなれず、そのときを最後に芸能記事を書く仕事を断ってしまった。いまでは、それでよかったと思っている。あんな取材を続けていたら本当の「悪」が見えなくなってしまいそうな気がしていたからだ。

 カキタレではない子を「一般人」と呼ぶ彼女たちの根拠のない高飛車な自意識、カキタレを芸の肥やし程度にしか見ていない芸人たちがいる限り、マスミのような悲劇的な結末を迎える娘がこれからも出てくるだろう。だが、芸人を相手にした管理売春組織のような彼女たちの合コン組織が本来目的にしていたのは芸人と出会い結婚することだった。芸人の側も芸の肥やしとばかりに女遊びをできる場だったはずだ。

 そんな男女の駆け引きをするだけで需要と供給のバランスはとれていたはずだ。裏社会であれば管理・斡旋した人物が悪者になるところだが、今回のケースの場合、芸人とカキタレしかいない。色恋がからんでいることもあり単純にどちらか一方が「悪」と言い切れないのが難しい。
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