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第1夜 ゾンビ看護婦
『怖すぎる都市伝説』
[著]松山ひろし
[発行]イースト・プレス
読了目安時間:3分
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仲のよい三人の子どもたちが、真夜中の学校に潜り込んで肝だめしをすることになった。
深夜の学校はさすがに不気味であったが、三人もいるとさすがに心強い。彼らは難なく学校を一回りした。
さて、そろそろ帰ろうかと思い、下駄箱に向かって廊下を歩きだしたときのことだ。
ガラガラ……、ガラガラ……、というなにかを転がすような音が、廊下の奥から聞こえてきた。
やがて暗闇の奥から三人のまえに現れたのは、メスなどの手術用の器具が置かれた台車を押す、ぼろぼろの白衣を着た看護婦だった。
顔はうつむいているのでよくわからないが、先生か誰かが扮装しているわけでもなさそうだ。
なぜこんなところに看護婦が?
不審に思い立ちすくむ三人。すると、その看護婦は不意に顔をあげ、三人のことを睨みつけてきた。
その顔はまるで鬼のような形相であった。
驚いた三人は学校の裏口へと向かい全力で駆けだした。しかし、看護婦も台車を押しながらものすごい速さで三人を追いかけてくる。
彼らのうち、二人までは無事に逃げ出すことができた。ところが、一人は途中で仲間とはぐれてしまい、廊下の奥へ奥へと看護婦に追い詰められてしまったのだ。
逃げ場を失った彼は、あわてて廊下の奥にあるトイレの中に逃げ込むと、いちばん奥の個室に入って中から鍵をかけ、息を殺した。
しばらくすると、廊下を台車の音が近づいてくる。そして、トイレのドアが開く音。
トイレの中に入ってきた看護婦は、一番目の個室の扉を開けると低い声で「ここにはいない……」とつぶやいた。
そして二番目の個室の扉を開ける。
「ここにもいない……」
いよいよ少年が隠れている個室の番だ。台車を押す音が近づき、最初はゆっくりと扉が押される。そして鍵がかかっていることがわかると、次は激しく扉がゆすぶられる。
少年はあまりの恐怖で気が遠くなり、やがて意識を失ってしまった。
……どれくらいの時間がたったのであろうか。ふと少年が目を覚ますと、あたりは明るくなっていた。どうやらもう夜が明けてしまったようだ。
まだあの看護婦はいるのだろうか?
しかしいくら耳を澄ましてみても、トイレの中からは物音一つしない。おそらく、あきらめていってしまったのだろう。安心した少年はトイレの個室から出ようと鍵を開けて扉をひいた。
しかし、扉はなぜか開かない。不思議に思った少年がふと上を見上げると……。
そこに見えたのは、外から扉を押さえつけ、彼を見下ろす昨夜の看護婦の、鬼のような形相であった。
この少年のその後については、誰も知らない。
【解説】
この話の類話には、丑の刻参りをしている女を目撃してしまった男が、公衆便所に逃げ込み、そこで一晩中上から女にのぞかれていたというものもあります。
また、看護婦だけあって深夜の病院に登場する類話もあるのですが、圧倒的に多いのはこの話のように深夜の学校に現れるというものです。学校になぜ看護婦がと、不思議な気もしますが、これはおそらく、こういった話を好む子どもたちにとっていちばん身近な舞台が学校だからなのでしょう。
明治時代の怪談にも、これとよく似た話があります。それは、神社に行く途中で天狗に会ってしまった男が、驚いて神社の便所に逃げ込み、ふと上を見上げると天狗が見下ろしていたというものです。
現在では天狗はあまり信じられていないため、謎の看護婦や丑の刻参りの女がその役割を受け継ぐようになったのかもしれません。
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