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(2021/11/26 追記)

犬耳書店の作品をRenta!に順次移行します。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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不健全な精神だって健全な肉体に宿りたいのだ2
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エンタメ
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今回の修行──◎その一 300円で手軽に「虹彩占い」

『不健全な精神だって健全な肉体に宿りたいのだ2』
[著]菅野彰 [発行]イースト・プレス


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 先月の対談を読み返す。

 師走も押し迫っていたとは言え、なんてぐだぐだでだらだらな私と鈴木……健康になる気持ちが見えない! 我対談ながら!

 つーことで今年の私は、ぱりっと切り替えて、ぱしっと健康を目指して、一直線に駆け出して見せるわよ、てな一回目である。……この開幕ダッシュがいかんことも知ってはいるが、なによ阪神だって優勝したじゃないのさ。三百六十五日走って見せるわよ!(死んでしまう)。

 そんな気負いで、鈴木と待ち合わせの「稲荷町」へ。しかし、鈴木が私に気づいてくれない。何故なら私は、ここ数年、上げたことのない前髪を上げていたから鈴木はわからなかったのだ。

 年明け、ふと、前髪が伸び過ぎていることに気づいたある朝、工作バサミで横にぷっつり前髪を切ってみた(腹に疳の虫がいる)。すると友人のお母さんが私の前髪を見ながら、
「だれだれの子どもの二歳の女の子が、ある日何を思ったのかてっぺんで自分の髪を掴んで、ざっくり切ってしまったのよねえ……」

 その髪を思い出されたようで、呟いた。

 そんな前髪なので、降ろしても置けず上げていたのだが、なんで普段上げないのかというと、私は立派な男額。
「ニューハーフの人が、男と女の額の違いは産毛だと言ってましたよ……」

 鈴木は言うが、確かに私の額に産毛などない。

 (さか)(やき)が似合いそうだと我ながら思う……。

 でも、今日の取材には前髪ない方がいいんじゃない!? と思ったがそれはあんまり関係なかった。

 今日の取材は、「虹彩占い」。

 瞳の、黒い部分が放射状になっているとおもうのだが、そこをスキャンして主に健康状態などを計るのだ。実際、自分の瞳をスキャンして貰えるので、本当に内臓の不具合が発見されたりするらしい。

 稲荷町の開発企画部に伺うと、三月から公開されるその「虹彩占い」の機械が三台置かれていた。プリクラのようなものだろうか。

 開発の佐藤さんにお話を伺いつつ、まずはやらせていただく。


この機械に目を近づけて診断します


 顔を近づけて虹彩をスキャンすると、画面に己の白黒反転された写真がパッと出た。
「うわこわっ」

 目が金色で、とても恐ろしい。
「それは、市場に出るときはなくそうかとも話しているんです」

 やはり社内でも不評らしく、佐藤さんはおっしゃった。
「そのほうが良いと思います……」

 などと話しているうちに、細かく書き込まれたシートが出て来る。

 私の虹彩は金星タイプ。感情の起伏が激しいんだそうな。集中力を高める努力を忘れずに、と書いてある。努力で高まるものと違う……と最近常々思うのよね、と不遜なことを思いつつ、様々当たっているような気がしてくる。

 鈴木は月。胸焼けを起こしやすいタイプ(性格なのか? これ)。年末年始と飲み過ぎ食い過ぎたという鈴木は、随所に「暴飲暴食に注意注意注意」と注意を促されまくっている。

 占い、というだけでなく、実際、瞳の状態で内臓の健康状態がわかると実感。健康チェックにいいかもしれない。
「しかし……」

 だが私は、そのシートの隅に描かれたやたら存在感のある生き物が気になって仕方がなかった。あなたの現在の虹彩の状態、のところに、何かいる……。
「あの……この『チョウチンアンコウ』は一体……」
「私のところには『ホウライエソ』という魚が」

 鈴木の手元にもちょっと怖い感じの魚がいる。
「まあ……立ち話もなんですから」


これが謎な魚


 佐藤さんに会議室に招かれ、お話を伺う。

 虹彩占い、は、近年銀行のキャッシュ・ディスペンサーやセキュリティの為に開発された、虹彩の「先天的に変わらない部分」を使って個人識別をするための技術を使った、ゲーム機ということだった。

 マトリックス、などに出てくるあれだ。
「未来が来てるなあ……」

 先日、友達が貸してくれた、子どものころ大好きだった「未来少年コナン」のDVD。冒頭で驚いたのは、地球がわやくちゃになるのが、二〇〇八年と設定されていることだった。最近の温暖化や技術革新、そして牛も鳥もヤバイ何食ったらいいの、という状況を考えれば、四年後というのもあり得ないことではないような気がする。

 そんなSFだった未来の一部が、近々健康ランドやゲームセンターで、数百円で体験出来るようになる。占いというより、細かく健康チェックをしてくれるので、お勧めだ。
「そして……そしてこの『チョウチンアンコウ』は一体」

 虹彩の、先天タイプの特徴、は全部で13に分かれていて、皆、星の名前がついている。そして後天タイプは12に分かれ、チョウチンアンコウ、マトウダイ、マンボウ、ホウライエソ、オニキンメ、ウニ、ヒトデ、シーラカンス、オウム貝、タツノオトシゴ、マズダコ、そして魚とは無関係に突然「イリス」。

 何故魚なのか? そして魚が一部ちょっとマニアックじゃないのか? 謎は深まるばかりで、もう一度お尋ねすると、
「これは推測なのですが……」

 俯きながら佐藤さんは言った。
「多分企画担当の角田さんが、魚が好きなのでは……」

 そんな理由なの!?

 ところで、チョウチンアンコウな私は「血圧が高くなる可能性を持っている」と書かれていた。

 鈴木の「内臓系が弱い」というのは当たっているのだが、私は血圧は、なんとなく低めだ。でもそういう人が、ある日高血圧になるという話も聞くので、健康になる気満々の私たちは、佐藤さんにご挨拶したその足で、
「んじゃ! 血圧計りに行くか!」

 と、やる気満々池袋に向う。

 池袋の健康グッズ売り場に、確か無料で計れる機械があった筈だと、いきあたりばったりなうえに低予算な今回の企画。

 だがふと西武の前に立って、
「ここ、よく献血の呼び込みしてたよねえ」

 などと呟くが、今日は見当たらない、
「A型が何人! O型が何人足りません!」

 という人を、ぼんやり探す。
「献血しないタイプの血液型なんだね。いつも探してるじゃん」

 昔、おバカな私がそう友人に話すと、
「いや……人口の多い血液型だからいつも足りないのでは」

 と、真っ当な答えが返って来た。 

 だが私はO型なので、面倒くさがり。ここ何年も献血はしていない。
「血圧が高いなら、血でも抜いとくか!」
「そうね!」

 いきあたりばったりもこれに極まれり、な成り行きで献血をすることになる。

 それにしても、呼び込みの人がいないので、西武で尋ねると、駅前のビルに献血ルームがあるという。

 鈴木が池袋のビルに案内が良くて、連れてって貰う。

 私は多分、七年くらい前に、免許センターで、書き換え待ちのながーい時間を持て余す人々をキャッチしに来た献血車にまんまと乗ってしまって以来、だと思う。その時は、私より後に来たおじさんが、400抜いたうえに私より早く去って行って、
「どれだけ血圧が高いんだ……」

 と、深く印象に残った。

 その前は、高校時代に冷房とジュース目当てに、大宮の献血ルームで献血したぐらいで、大宮の献血ルームはいつも人がいなかった。

 なので、平日の昼の献血ルームなんか、がら空きだろうと思っていたらこれが、もう、様々カルチャーショックである。

 なんというかまあ、サロンのようにきれいだ。そして鍵付きのロッカーに荷物を預け、七年前よりさらに細かくなった問診表を書く。以前はコンピューターなどなく、高校生はダイエットやジュース目的で、三冊の偽名献血手帳を駆使して献血しまくるやつなどもいたが(こういう人は結構多いと思う)、驚いたことに私の七年前のデータがまだ残っていた。その間二回引っ越しているのだが、名前と誕生日で割れたのだ。

 待合室には、きっちり揃った漫画が沢山置いてあった。ジュースももちろん飲み放題。曜日によっては、指圧や手相のサービスがある。そして一人一人に一台の小さなデジタルテレビ。成分献血は一時間半掛かるので、DVDが貸し出される。
「なんじゃこりゃ……」

 私の前に受付した、ここでは顔なじみらしき男性は、
「まだ二カ月に三日足りませんよ××さん。三日待ってね」

 と、帰され、私の後に来た男性は、
「やっと二カ月経ったのですぐ来ました!」

 と、嬉しそうだ……どちらも大変な常連らしい。
「そら……こんな献血ルームなら、学生は時間潰しに来たくなるよな……」

 頭を抱えつつ問診表を書くと、問診する医師は、昔とかわらずもーろくしたじーさんだった。
「手術したことは?」

 じーさんに聞かれる。

 一年以内に、と、書いてあった気がしたので「ない」に丸したのだが、
「生まれてから一度もないのか?」

 と、念を押されて、
「随分前に軽くポリープを取りましたが」

 と、答えると、
「手術の大きい小さいはこっちが判断するんじゃ!」

 と、叱られる。

 その後血圧を計り、体重計に乗せられ、採血される。

 ここに来て私と鈴木はちょっと、勢いで献血に来たことを後悔していた。鈴木は初めてだし、私は針が怖い……。
「なんで献血しようなんてそんなことを……」

 献血の針は太いのだ。

 鈴木は「水を飲んで来てください」と言われて、水を飲みに行った。

 多分ものすごーくめんどくさいことなのだとは思うのだが、自己血輸血のためのストックも献血センターが管理してくれるのなら、献血者は格段に増えると思う。昨今、輸血のリスクは高い。

 壁を見ると、「RHマイナスAB型、なんとかさん何月何日」みたいな予定表があった。こういった希少な血液型の方は、ご自分のため、また同じ血液型の方のために定期的に足を運ばれるのだろう。友人の同級生に、やはりこの血液型の方がいたそうなのだが、友人と同じことをするにもいちいちハイリスクなので、スキー等もしなかったという。
「献血って大事ね……」

 なんてことをしみじみ思いながら血を抜いて貰う。
「いつもこんなに人が多いんですか?」

 それにしても多い、と思いつつ看護婦さんに尋ねる。
「今日は、お正月に成分献血なさった方が、二週間経ったのでまたいらっしゃるタイミングで。リピーターが沢山いらっしゃるんですよ」

 ……二週間ごとに抜くのか? すごいなそれは。

 終わると、手首にサポーターのようなものを巻かれた。血圧と脈を計る機械だ。
「私が高校時代に行ってた献血ルームなんて……まだまだ戦後のどさくさみたいなものだったのね……」

 思い知る。まだHIVや肝炎のことが、問題視される前の時代だ。

 私は七十年生まれだが、そのころまだ日本は、本当に戦後のどさくさだったのではないかという気が最近している。私の記憶の中で、インフルエンザの予防接種を、一本の針で五人に打ったというのがあるのだが、ちょっと年下の人に話すとあり得ないと言われる。だがこの間、私よりさらに年上の方が、他に感染源があり得ないという理由で、北海道を相手どって「インフルエンザの予防接種によるB型肝炎の感染」について勝訴していた。

 肝炎は潜伏期間が長い。戦後のどさくさに小学生だった私たちは、これからどんどんそれを実感するのではないだろうか……。農薬なども、もっとも食ったのは私たちだと思う。以前新聞に、「七十年代前半に粉ミルクで育った人は四十まで生きない」と書いてあったことがある。なんか入ってたらしい。
「そう考えると健康なんてさ……」

 と、何故か献血ルームで厭世的になりながらも、
「いや! 血と肉となるものを食うわよあたしは!」

 その足で西荻のとてもおいしい焼き肉屋さんに向かう。友達四人で、その日格安だった「特上ハラミ」のみを八人前くらい食べる。ユッケも食う、レバーも食った。
「あ……」

 血を抜いた理由を思い出したのは、そうして散々肉を食い尽くしてしまった後のことであった……。

協力:虹彩占い公式サイト http://www.eyefortune.tv


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