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日本経済はどこで間違えたか
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経済・金融
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赤字国債発行に悩んだ大平正芳氏

『日本経済はどこで間違えたか』
[著]菊池哲郎 [発行]イースト・プレス


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 戦後初めて建設国債を発行したのは、福田赳夫大蔵大臣だ。私はまだ学生時代で見ていたわけではないが、たいへん悩んだとうかがっている。

 そして、戦後初めて赤字国債(特例国債)を発行したのがその最大の政敵の大平正芳大蔵大臣だ。その時私は大蔵省担当記者の末端にいて、記者会見や懇談の席で、大平大臣が悩む姿を間近で見ていた。そのまじめさというか、真剣さに感銘を受けた。

 テレビなどに出てきた大平大臣は「あー、うー」と考えながら、話す言葉を厳選してゆっくりものを言う。ことの正確さを必要とした事象では特にそうだった。だから世間的には「あー、うー」ばかりが言いつのられて、まるで話が上手でなく、はっきりしない政治家のような言われ方をされていた。しかし、実態は全然違う。いざ大平大臣が話し始めた言葉を書きとると、それはそのまま記事になる文章になっていた。そのように理論だてて話をする政治家は珍しい。

 さらに、そのまま記事にはしない懇談の席になると、とてもユーモアある面白いおじさんだった。あるときサマータイムの話になった。すると大臣は「あれはいいけどね、実際にやると非常に疲れるんだよ」と、実感あふれる話をしてくれたことがある。実は昭和二三年、日本でもサマータイムを実施したことがあった。大平青年は大蔵省に入ったばかりで、元気一杯だった頃だ。午後五時か六時で終わるのだが、まだ日は高く、みんなで湘南の海まで出かけていって十分に海を楽しめたのだそうだ。そのまま飲んで大騒ぎ。結局朝早く湘南から大蔵省に駆け付けたという。

 若いから毎日それを繰り返したが、サマータイムだから朝は早く来るわけで、寝不足は恒常化して結局とても疲れたという。分かっていても、明るいうちは明るいなりの行動をするもので、なかなか理屈通りには人は動かないもんだよと、細い目をなくなるぐらい細くして、とても楽しそうに事細かに海岸での思い出話をするのを聞いた。

 それが赤字国債の発行の話となると、その時はまるで今ほどではないにしても、いったん発行するとやめられなくなり、破綻まで突っ込んでいった戦前の国債を思い出して、その引き金を引く身になった運命をとても憂えているのがひしひしと伝わってきた。それがあったから、のちに首相となって大型間接税(当初は付加価値税)導入に精力を傾けた。福田氏との激しい政争、チトー・ユーゴスラビア大統領の死去に伴う葬儀出席で結果的に世界一周を余儀なくされたりなど、いろんな無理が重なってだが、首相在任中に死亡するという残念なことになった。

 その必死の原罪意識に近い思いの原点を大蔵大臣の記者会見や懇談で連日うかがっていたのは、とても印象的な思い出だ。死ぬほど悩んで(結果的にその悩みの解決のために亡くなってしまったわけで、本当に)政治生命をかけて大型間接税に挑んでいた。

 それからいろんなことを経て、後継の大蔵大臣及び歴代首相たちは結局一〇〇〇兆円の発行残高まで来てしまった。大平大蔵大臣が発行した特例国債は、今から見れば補正予算でのわずか三兆円だ。しかし、それを発行してしまったことの悔いは続いた。現実に建設国債は、以来今日まで四七年間ずっと、特例国債(赤字国債)は昭和最後の年まで一四年間抜け出せなかった。平成元年にいったん赤字国債から脱出したが、細川非自民内閣が再び発行し始めて以降、驚くべき勢いで赤字国債は定着し、まるで大平大臣の発行時の罪悪感など全く失せた感じで、二〇年間毎年数十兆円が恒常的に発行されてきた。

 本当に歯止めはなくなるもので、麻生首相の時に建設国債と合わせて予算の半分以上を借金で賄うようになってからは、四五兆円の新規発行が当たり前の前提になった感がある。毒を食らわば皿までも、とさえ感じてしまう恐ろしい慣れの世界だ。
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