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日航機遺体収容 ―123便、事故処理の真相
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政治・社会
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一番機が飛び立つまで

『日航機遺体収容 ―123便、事故処理の真相』
[著]河村一男 [発行]イースト・プレス


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八月一四日の夜明け
〇四時三〇分 とろとろとまどろんだだけで、上野村役場の一室で目覚めた。

 墜落の一報以来、二日続きの徹夜でかなり疲れているはずなのに、神経が(たかぶ)っているせいだろう、眠ることができない。

 窓の外がうっすら明るくなり、夜明けは間近い。思いきって起き出す。

 洗面を済ませて対策本部に出ることにした。途中の廊下には、夜を徹した捜索で疲れきった体を、毛布一枚の上に横たえ眠り込んでいる隊員があふれている。目を覚まさせないように、そっと席に着く。
「本部長、無線が通じるようになりました。もう大丈夫です」と、二晩徹夜で無線の調整を続けていた通信班員の報告。苦労のほどがにじんでいる。まずは一安心。

 次は、これも一睡もしていないらしく目を腫らした江原得次(えばらとくじ)部隊運用班長からの訂正報告。
「昨夜の下山確認が不十分でした。埼玉部隊の最後尾が帰ってきたのは、つい先程の四時過ぎでした」

 ついで金井剛(かないたけし)補給班長の補足報告。
「同隊は、昨朝入山のとき携行した握り飯一食分のほかなにも食っていません。昨日の夜食は若干残っていますが、中毒が心配なので、まもなく配送される朝食を一番に支給します」

 本当に済まぬことだが、非常のときなので我慢してもらうほかなかった。

 
〇五時〇〇分 眠っているものはそのままそっとしておいたが、空が白みはじめると、だんだん起き出した幹部が集まってきた。それぞれの部門に責任を持つ立場の者は、皆同じように寝つかれなかったようである。

 遠藤文夫(えんどうふみお)刑事部長、平田金時(ひらたきんとき)捜査第一課長、品川正光(しながわまさみつ)鑑識課長ら捜索・検証担当の幹部が揃ったところで、今日の作業の段取りを打ち合わせる。

 山上の現場では、ヘリが臨時発着できる場所を自衛隊が徹夜で造成してくれているので、午前中早い段階には遺体搬出に着手できる見込みである。

 問題は、発見・収容の場所・状況等の資料と遺体そのものとを正しく整合させた送り出しである。そのことは後々の作業遂行上必須の事柄であり、搬送数の把握と併せ、正確さが要求される。

 昭和六三年に起きた潜水艦なだしおの事故の際、救助者数の発表が担当機関によってまちまちで、報道が混乱した記憶がある。発表した救助者数が一番少なく「おかしい」といわれた神奈川県警のものが結果的に正しかったのを思い出す。慣れないと、ダブルカウントの誤りをつい犯しやすいという教訓の一つである。

 検証そのものは品川に専念させ、搬送の当面の指揮は現場が慣れるまで平田が引き受けることになった。

 パンと牛乳だけの簡単なものであったと記憶しているが、まもなく届いた朝食をとるのもそこそこに、彼らは現場を目指して出かけていった。

 平田らに指示したことは、ただ一つ。「現地のことはすべて任せるが、遺族のいらだちを静めるためにも、一番機だけは可能な限り早く飛ばしてほしい」であった。

 
〇九時〇〇分 平田らが出発してからだいぶ時間がたつ。食料や資材を積んだヘリも何機か飛び立っていったという報告もあった。

 遺体搬送機出発の報告は、まだ来ない。廊下に詰めかけているマスコミの諸君も次第にいらついていくのがよくわかる。

 ヘリに乗りきれず徒歩でのぼっていった検証班員の到着に時間がかかっているのであろうか、露営した隊員の食事配分に手間取っているのであろうかと、思いあぐねながらも、待つ以外に方法はない。

 ヘリでのぼった品川も、食料、水の輸送を優先させたので、最初のヘリには乗れず、何機か待ったと語っていた。

 
一番機出発の無線
〇九時三五分「遺体搬送開始」の無線報告。待ちに待った知らせであった。

 一瞬ではあったが、緊張感が一気に抜ける。人目がなければ、おそらくその場にへたり込んでしまっていたかもしれない。

 なにがしかの安堵を覚えたが、作業はやっと緒についたばかりである。この先、長い長い作業が続くのだと思うと、気を弛めているわけにはいかない。

 まさに、炎熱地獄の門内に足を踏み入れた一瞬であった。

 群馬県警のこの時点までの活動は、どちらかといえば、他動的条件によって動かされ、成り行きの部面が強かった。前日一三日は、とりあえず生存者の救出、現場範囲の確認、遺体収容の段取りと、初期作業で精一杯であった。手立てのついた部面から手当たり次第に着手していっており、あらゆる面が万全というわけにはいかなかったであろう。

 以後は可能な限り、自律的条件を作り出し、目的を完遂するべく新たな悩みがはじまるのであった。
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