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日航機遺体収容 ―123便、事故処理の真相
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政治・社会
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確認作業

『日航機遺体収容 ―123便、事故処理の真相』
[著]河村一男 [発行]イースト・プレス


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初日の確認

 身元確認の眼目は、ひと欠けらでも多くの遺体を遺族の元に返すということに極まる。

 そのためには、時間を十分にかけて、やり残したことがあるという思いにだけはならないようにと指示してあり、確認の確実性を担保するため、決め手は可能な限り複数項目が一致することを基本原則としていた。

 確認を急ぐ遺族の焦りに引きずられることは、その意味から禁物である。

 初日搬出された遺体は、生存者が発見された北斜面底部のスゲの沢、通称索道土場(さくどうどば)から収容されたものが多く、離断も比較的少なかった。よって、確認は順調に進んでいったほうであるが、警察官二二九名、四二組体制、検視床二二面で回転させてもなお時間がかかり、この日搬入された分の検視が完了したのは、翌〇時過ぎであった。

 その日受け入れた一一一体のうちの確認は、当日中に六八体、日付が変わってから五体、計七三体であったから、まずまずであろう。

 全体的に顔面の損傷がひどく、外見上無傷に近いものはわずか数体に過ぎない。確認理由として顔・面接の項が上げられたものは、従理由としたものを含め半数あまりでしかなかった。ほかの確認理由は、まだ着衣の脱落が少なかったので、所持品・装身具によるものが目立っている。

 離断体で最初の確認が出たのは、二日目一五日の夕刻一八時二〇分であった。全体を通じても九六番目の確認である。中年のD男性会社員で、片方しか残っていなかった足のズボンのポケットに手帳が入っており、そこに記入されていたパスポート番号が決め手となった。

 その後、日が経つにつれ、収容されてくる遺体は損傷がひどく、確認作業は簡単にはいかなくなった。

 
対照資料の提供

 身元確認は、

 
◆遺族等関係者からの対照資料の提供
◆警察官の一次的検索
◆医師、鑑識専門員等法医関係者の判定

 

 の三位一体ではじめて可能で、それらの連携がうまくいくかどうかにかかっている。

 なかでも遺族関係者からの対照資料提供の適否が大きく左右した。

 最初は藤岡まで見えている遺族からの聴きとりであり、次は在宅資料の受け取りである。

 離断した遺体の追加確認を求めて連日見える遺族を見かけることが多かったから、遺族は皆そのように熱心な方々ばかりであろうと受け止めていたが、私のこの感覚にはいささかズレがあった。

 中間にいた日航世話役の個人差もあったように思えるが、警察から連絡があるのを待っていたという受け身な遺族が多かったのを、後に知った。

 そのためか、対照資料の提供など遺族の参加度合いに個別差があり、結果に大きく影響したように思う。

 遺族から提供された対照資料の受理状況は、次表のとおりである。

 なお、その大半は、遭難者の住居地、勤務地の都道府県警察に依頼をして採取してもらったものであるが、事故直後は遺族が死亡を受け入れず、なかなか採取させてもらえなかった例もあったと聞く。その他は、ネイルエナメル等である。

 遺族に確認手段について十分な知識がない場合もあり、なにを提供したらよいのかよくわからないまま、あなた任せになっていた方もあったようである。

 例えば、歯型の対照にしても、かかりつけの歯科医の帯同があれば、説明もスムースにいくだけでなく、歯科医同士相互に意見交換ができるメリットも生まれるにちがいなかろう。

 手元に残っている遺体確認検討資料を見ると、家族しか知らない小さいほくろや(あざ)だけが手がかりであった例も相当あるので、もっとうまくこちらから聞き出す工夫をしなければならなかったのかもしれない。
受領対照資料

 
〈資料名〉指紋
〈対象人数〉408
〈数量(点)〉5740

 
〈資料名〉足紋
〈対象人数〉3
〈数量(点)〉3

 
〈資料名〉毛髪
〈対象人数〉285

 
〈資料名〉歯のカルテ
〈対象人数〉288
〈数量(点)〉848

 
〈資料名〉レントゲン写真・歯
〈対象人数〉143
〈数量(点)〉325

 
〈資料名〉レントゲン写真・歯以外
〈対象人数〉75
〈数量(点)〉480

 
〈資料名〉写真
〈対象人数〉22
〈数量(点)〉1413

 
〈資料名〉共布・その他ネイルエナメル等
〈対象人数〉36
身元確認資料の採取

 検視の過程では当然ながら、遺体等からの身元確認資料を次表のとおり多く採取した。

 そのほかに、マニキュア、ペディキュアのある爪の採取も行った。

 また、着衣についても、ネーム、メーカー、特徴等の調査も綿密に行った(布地鑑定二九件)。

 遺品から付着指紋の採取も行っている。
採取対照資料

 
〈資料名〉指紋
〈数量〉538枚

 
〈資料名〉足紋
〈数量〉80

 
〈資料名〉血液型
〈数量〉880件

 
〈資料名〉毛髪等血液型
〈数量〉50

 
〈資料名〉歯の記録
〈数量〉549体

 
〈資料名〉レントゲン写真・歯
〈数量〉283体・662枚

 
〈資料名〉レントゲン写真・歯以外
〈数量〉554体・1047枚
一次的検索

 警察官の一次的検索は、聴きとった死者の特徴を踏まえたうえで、その警察官の経験がものをいう。確認が進むにつれ難しくなっていったが、逆にわずかな手がかりを捜しだす手際もよくなった。試行錯誤のなかで編み出していった手法で、その熱心さには頭の下がる思いであった。

 医師の場合も、外科、内科のほかに婦人科等複数の科が関係したほか歯科医を含めて幅広い分野の鑑定が必要であった。

 
確認判定

 身元確認に当たって心がけなければならないのは、判定の慎重さである。

 遺族の昂った感情に急き立てられて早計に判断することは禁物であり、感情を抑え、冷徹なプロの目で対応することが望まれた。

 判定に当たっては、可能な限り複数の根拠を確認することを前提としていた。

 次表に示すように五一八人の確認理由は一七四三件であり、そのことがわかってもらえると思う。

 人によってはひと欠けらの部分遺体でしかなかったとしても同意がえられなかったものを含めれば、死者すべてについて身元確認できたということは、航空機事故としては特筆されてよいことであろう。

 遺体への執着がわが国ほど強くないのか、外国の事故例では捜索や確認にかける日数もそう長くなく、適当なところで打ち切られているように見受ける。

 あれほど悲惨な状態にあったこの事故で、なぜ全数の確認に漕ぎつけることができたのかは、一にかかって担当者たちの熱意、いや、それ以上の執念であったとしかいいようがない。

 一度きりの判定でなく、反復継続した作業の賜であるといってよかろう。

 
効果の高い指紋法

 指紋の特性は、終生不変、万人(指)不同と教わった。人定手段として、指紋法ほど、簡便にして正確な手段はない。

 犯罪捜査に使われることで悪いイメージだけが強く誤解をされているが、この事故の遭難者の身元確認で最大有効だったのが指紋法で、主理由二三〇、従理由一七であった。

 次の歯型は、主理由七八、従理由一五五なので、大きな差がある。

 このように指紋法の効果が高かった裏には、在宅潜在指紋の採取に協力してもらった全国都道府県警察の鑑識技能の水準の高さをあげなければならない。言い換えれば世界の警察のなかで、屈指の水準であるということなのである。

 照合には、家元ともいうべき警察庁鑑識課指紋班の全面的応援があった。潜在指紋は欠損や重複が多く読み取りが難しい。そのなかで効果をあげたのは、さすがというほかない。

 海外旅行に出かけるとき事故除けのお(まじな)いになるからと指紋を採って、家族に預けたり、貸し金庫に入れておいたりする人があると聞くが、それほど用心深い人には事故のほうから寄りつかないのかもしれない。

 川北宇夫(かわきたたかお)著『墜落事故のあと』(文藝春秋)五二ページが例としてあげている一九七九年一一月南極に墜落したエア・ニュージランドDC10事故では、「一位が指輪など身につけていたもの、二位が歯で、指紋はそれよりずっと下位であった」とのことである。お国柄のちがいであろうか、資料の収集のしかたや、遺体の離断、着衣の脱落の程度によっても、差異があるのであろう。
確認理由

 
〈区分〉顔・面
〈主たる理由〉60
〈従たる理由〉39
〈計〉99

 
〈区分〉身体特徴
〈主たる理由〉30
〈従たる理由〉254
〈計〉284

 
〈区分〉着衣
〈主たる理由〉64
〈従たる理由〉347
〈計〉411

 
〈区分〉指紋
〈主たる理由〉230
〈従たる理由〉17
〈計〉247

 
〈区分〉歯型
〈主たる理由〉78
〈従たる理由〉155
〈計〉233

 
〈区分〉所持品
〈主たる理由〉52
〈従たる理由〉214
〈計〉266

 
〈区分〉血液型その他
〈主たる理由〉4
〈従たる理由〉199
〈計〉203

 
〈区分〉合計
〈主たる理由〉518
〈従たる理由〉1225
〈計〉1743
法歯学の領域

 この事故の遺体身元確認で大きくクローズアップされたのが、法歯学つまり歯型鑑定である。

 歯科医療の現場でレントゲン写真、それもパノラマ写真が撮られていることが多い。対照資料として活用できることが、この領域を広げた大きな要因となっている。

 学問分野としては新しい。指紋分類法に比べ、まだ研究途上にある部分があるように見受けられ、ほかの確認理由と併せての判定が望ましい。

 治療痕があるものは特徴がはっきりしているから確認しやすいが、治療歴のない正常歯の場合は酷似性で判断しなければならないこともある。

 酷似性という点では、写真や似顔絵だけの判定を過信すると往々にして誤認逮捕の可能性があるのと共通する問題点をはらんでいるが、対照案件が絞られた場合には効果が高い。

 あの事故の何年か後、高名な法歯学者が外国で起きた航空事故の身元確認に加わって、誤確認をしたという記事を読んだことがあるから、難しいケースもあるのだろう。

 いずれにしても、歯型は指紋のように不特定多数のなかから選別できるというものではなく、ある程度判定対象が絞り込まれて有効な方法のように考える。

 だが、確認主理由七八、従理由一五五というのは、指紋に続いて第二位で高い効果をあげていることはまちがいない。過大評価をしてはいけないが、過小評価をしてもいけないというのが、実感であった。

 
課題のDNA鑑定

 この事故の時点では実用化の面で行き渡っていなかったので、検討爼上(そじょう)にのぼらなかったが、今後活用しなければならないのはDNA鑑定であろう。

 警察でも、事故数年後にはまず警視庁、大阪府警の二都府警にその鑑定器が導入され、逐次他の府県警にも配置されるようになって、今日では群馬県警にも鑑定器が備えられたと聞く。

 飛躍的にその活用度は伸びているが、このような事故でDNA鑑定を利用しようとすれば、次のような点に配意しなければなるまい。

 
◆離断部分のある確認遺体からは、対照資料、例えば心臓血等の新鮮な体液を採取しておくこと(この点については、法的整備がされることが望ましい)。
◆多量の鑑定案件となるので、警察だけでは処理しきれないと思える。どこで処理するのか検討しておく必要がある。

 この場合、多額が見込まれる費用の負担区分についても、検討の要があろう。

 

 DNA鑑定の全面的実施ができるようになれば、昭和六〇年一二月二〇日の第二回合同火葬の四八五体の大部分、一〇月五日の第一回合同火葬の八九三体のある程度は、確認できたのではなかったろうかと思う。

 川北氏が「全ての遺体を保管して、確認作業を続けるべきだ」と前掲書のなかで提案されているが、その必要性はなくなるであろう。
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