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悲しき歌姫 藤圭子と宇多田ヒカルの宿痾
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エンタメ
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昭和の歌姫 藤圭子、衝撃の飛び降り自殺

『悲しき歌姫 藤圭子と宇多田ヒカルの宿痾』
[著]大下英治 [発行]イースト・プレス


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 藤圭子が、東京西新宿六丁目にある二十八階建て高層マンションの十三階から飛び降りたのは、今年八月二十二日午前七時頃だった。

 マンション前の路上であおむけに倒れ、頭から血を流しているところを見つかった。

 黒っぽい無地のTシャツに七分の短パン姿。衣服の乱れや争ったような形跡はなかった。

 現場は、JR新宿駅の北西約一キロでオフィスビルなどが立ち並ぶ一角であった。

 救急車の到着時に居合わせた年配の女性はいっている。
「きれいな顔でした。遠目にも藤圭子さんとわかりました」

 心肺停止状態で病院に搬送され、七時二十二分に死亡が確認された。

 新宿署に運ばれた後、知らせを受けた前夫で宇多田ヒカルの父親である音楽プロデューサー()()()(てる)(ざね)が身元を確認した。

 新宿署によると、藤はマンションの十三階にある知人の三十代男性宅に六年前から同居。この部屋のベランダから飛び降りたとみられる。手すりの高さは一一五センチメートルあり、足元にはクーラーボックスがあった。これを踏み台にしたかは不明。手すりの外側に片方のスリッパが引っかかり、もう片方は転落した現場近くにあった。

 午前八時前、新宿署員がこの部屋を訪れたが、応答は無かった。マンションの警備員を呼び、鍵を開けたがチェーンが掛かっていた。この時、その同居している男性が玄関に現れ、「昨夜一緒にいた女性がいない」と驚いた様子だったという。

 男性は、別の部屋で就寝中で、転落に気づかなかったという。

 遺書は見つかっておらず、新宿署に安置されている遺体からアルコールや薬物は検出されていない。

 部屋は約七十四平方メートルの2LDK。男性が七年前に購入している。

 部屋の購入価格は六千万円弱。彼がこの部屋を所有したのと同時期に、共同生活が始まった。藤圭子が居候するという形での同居だったようだ。警察の調べに対し、男性は「藤さんとの男女関係はなかった」と答えている。

 藤の遺体は黒のワンボックスカーに乗せられ、午後〇時十五分に同署を出発、一時六分に都内の斎場に到着した。車の後部座席に座り、遺体に付き添った宇多田照實は白いシャツにグレーのデニムパンツといった普段着姿だった。表情をこわばらせたまま、斎場の中へ入っていった。そこに、宇多田ヒカルの姿はなかった。

 新宿署はこの日、遺体の検死の結果、事件・事故性がないことから、藤圭子の転落死を自殺と断定した。

 係員によると、斎場内には祭壇は設けられていない、といい親族以外の対面も謝絶された。

 藤圭子を売り出した作詞家である亡き石坂まさをの妻・清子は、今でも藤圭子のことを案ずる。
〈純ちゃん(藤圭子の旧姓:阿部純子)、どんな思いでマンションの柵を飛び越えたのかな……。どのくらいの意識をもっていたのかな……〉

 さらに悲しむ。
〈純ちゃん、寂しかったんだろうね。痩せ衰えちゃうほどだったんだから……。あんなに明るい面も見せていた娘が、最期、こんなになっちゃって、なんて寂しい人生だったんでしょう……〉

 清子は、新宿で亡くなった藤圭子の遺体が碑文谷会館に安置され、桐ケ谷斎場で()()に付されたとの報道を知って、一瞬、驚いた。
〈えっ……、石坂と、いっしょの斎場じゃない〉

 石坂まさをは、平成二十五年三月九日に亡くなり、桐ケ谷斎場で荼毘に付されていた。

 藤圭子の訃報に接し、かつて藤の演歌『螢火』をプロデュースした音楽プロデューサーの酒井政利は、「ついにその日が来たのか」と思ったという。藤の自殺を疑うことはなかった。

 日本社会は、常に光を求める。そのいっぽうで、陰にいる人間の心情を歪める。そうした傾向がある。昭和から平成に移り変わり、藤圭子も時代に歪められたひとりであった。

 しかし、その時代の陰に咲いた華だからこそ、あれだけの光彩を放つことができた。藤を含め、芸能界で伝説化する存在には陰影が不可欠だ。影が濃いほど、光も強くなるからである。戦後を代表する国民的歌手・美空ひばりも影が深かった。ちあきなおみも別の影が深かった。だから、あれだけの存在感と光を放ったのだろう。

 だが、実人生における影の部分の比重が光を凌駕してしまったがために、藤は、()しくもデビュー作『新宿の女』の舞台である新宿で、真夏の朝、自らの手で伝説の幕を閉じたのだろう。酒井にはそのように思えてならなかった。
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