『新宿の女』のレッスンをつづけながら、藤圭子の心は暗くなるのだった。曲ができても果たして、いつレコードを出せるのかわからない、という不安が先にきてしまうのだった。
だが、それはまったくの杞憂に終わった。
ある日、駆け込むように帰ってきた石坂が藤の肩を乱暴に叩いた。
「お、い、純ちゃん! いよいよ潮が流れてきたぞ!」
藤にはなんのことかわからないので、まごまごしていると、石坂はニッコリと白い歯を見せて言った。
「あのね……、『新宿の女』がレコードになるんだよ!」
藤は思わず心の中で叫んでいた。
〈バンザイ!〉
RCAレコード・ディレクターの榎本襄は、慎重であった。