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悲しき歌姫 藤圭子と宇多田ヒカルの宿痾
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エンタメ
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石坂の狂気

『悲しき歌姫 藤圭子と宇多田ヒカルの宿痾』
[著]大下英治 [発行]イースト・プレス


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 藤圭子人気は、ついにピークに達した。石坂は、その人気の異常過熱が恐ろしくなった。

 地方について行くと顕著だった。藤圭子の乗った車を追っかけて、ファンがオートバイで追う。二十台ものオートバイが、車に追いつき、横につけて並走する。運転手は、オートバイに車をぶつけ、オートバイを蹴散らそうとする。まるで、人間扱いではない。犬か猫のように扱うのだ。石坂は、恐ろしくなった。
〈これは、尋常ではない。こんな状態では、いまに危険なことがおきる……〉

 藤圭子は、演歌の歌手なのに、ポスターを盗まれた。こうなると、社会現象である。

 次第に、藤圭子一家や、まわりの人間も、精神の歯車に変調をきたした。

 藤のマネージャーの成田は、石坂と行動をともにしていくうちに、石坂が藤を売り出すために突拍子もないアイディアを出してはそれを次々と実現させていく姿に憧れを抱いたのかもしれない。

 このころの澤ノ井事務所は、芸能界の中でも、狂気的事務所として恐れられるほど異常な日常が続いていた。

 成田が藤のスケジュールを担当するようになってからのことである。

 分刻みで仕事が入っているスケジュール表を見て、仕事のオファーへ対応することはさすがに無理だと、成田が断りの電話をしていたときのことである。

 その瞬間、電話している成田の頭を、石坂がパカーンと叩いた。
「夜中の二時なら、空いているだろうが!

 そういって、成田を怒鳴るのだ。

 あるときは、石坂が事務所に入ってきた途端、突然、ポスターを破りだす。
「先生、どうしたの? 社長、どうしたの?
「成田くん、壊すことから始まるんだよ」
「壊すことから始まるのはいいけど、朝から壊してもらったら……」

 相変わらずの石坂である。

 今度は、ミーティングをすると、社員がいる前で、石坂が成田をペンで刺す。
「これが説得力なんだよ」

 それを見ている社員たちは、一体、何事だ……と訝しむ。

 それでも、石坂は訴える。
「説得力は、暴力か、雄弁しかないんだよ」

 ときには、夜中の一時からミーティングを始めるときもあった。スタッフが夜十時、十一時になって帰社し、事務所で石坂を待っていると、飲み屋で出会った人を連れてきて、講演会を始めてしまうのだ。スタッフにしてみれば、有難迷惑である。

 あるときは、石坂が高速道路上から電話を掛けてきて、そんな石坂を探すために、成田が高速道路を走ったこともある。

 そんな尋常でない毎日が続くのである。

 成田はそれが面白く、いつも違った角度から石坂を見ては楽しんでいた。

 しかし、石坂が事務所を立ち上げて五年の間に、六十人ものスタッフが入れ替わった。それも納得できる話である。

 考えてみれば、藤圭子も、そんな石坂によく耐えた。細く小さな体を懸命に稼働させた。
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