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心理カウンセラー晴香葉子の解決事件簿
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生き方・教養
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File No.04 ラジオ局殺人事件

『心理カウンセラー晴香葉子の解決事件簿』
[著]泉忠司 [著] 晴香葉子 [発行]青春出版社


読了目安時間:25分
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登場人物

沙羅…晴香葉子の妹
皆実トモエ…モデル・DJ
山岡博道…作曲家・芸能プロダクション社長
葛西ゆりな…山岡のマネージャー・愛人
山岡真知子…山岡の妻
宇佐見…刑事
英嗣…喫茶斉藤のアルバイト

1 生放送中の事件


 視線に気づいた晴香葉子は、目を丸くして泉警部補に目を向ける。
「どうしたの?」
「横顔も素敵だなって…」
「もう〜、からかわないでください!」

 微笑を浮かべてうつむいた泉は、腕時計を見る。
「あっ、沙羅ちゃんの番組、もうすぐじゃない?」
「あ、そうか…」
「葉子さん、妹の番組の時間くらい覚えてなよ〜! 運転手さん、ラジオつけてもらえます? FMで…」

 カーラジオから懐かしいメロディが流れてくる。
「『よろず学級』まだみたいだね。前の番組かな」

 メロディがフェードアウトして女性DJの声に切り替わった。

――Mr. Childrenのナンバーから『CROSSROAD』をお届けしました。『皆実トモエのサタデー・アフタヌーン』、まだまだ続きます。CMの後はあのコーナー。今日も素敵なゲストが登場してくださいます。stay tuned――


 信号が赤に変わり、タクシーがゆっくりと停車した。

 晴香はパワーウインドウのボタンを押して、窓を少しだけ開ける。

 太陽に温められた風を頬で受けながら、目を細め、シートに背中を預けた。
「皆実トモエってモデルだよね。トークも上手だなぁ。会ったことある?」
「沙羅の収録を見に行ったときに、少しだけ。挨拶しただけなんだけど、きれいな人だったよ」

――お待たせしました! 最後は「輝くあの人に生電話」のコーナーです! 今日のゲストは山岡博道さん! 山岡さんは作曲家として活躍しながら、芸能プロダクションの社長もなさっていて…――


 CMが明けると、皆実トモエは流れるようなリズムで電話インタビューに入り、会話を巧みに展開していく。効果的な質問でゲストの魅力を引き出しつつ、時に軽妙なジョークも織り交ぜる。

 このテンポのよさが人気の秘密かもしれない。

 晴香は窓外の景色を眺めながら、漠然とそう考えていた。
「あれ?」

 不意にラジオから声が途切れ、聴き入っていた泉が不思議そうな声を出す。

――山岡さん? 聞こえますか?――
――ううっ…――
――山岡さん? どうしたんですか? 山岡さん!――
――…く……うぅ…――


 どんどん口調を険しくする皆実の呼びかけに返ってくるのは、うめき声だけ。

――誰か、救急車を! 山岡さんの家に! 早く!――


 ラジオの向こうがにわかに騒然となり、CMに切り替わった。

 泉と晴香は息を詰めて、顔を見合わせる。
「どうしたんでしょうね。腹でも壊したのかな」

 タクシーの運転手が呑気に笑う。
「大丈夫かな…。ライブやめて、スタジオに行ってみる?」

 心配そうな泉に晴香が笑顔で言った。
「うん…大丈夫じゃないかな」


 葛西ゆりなはしばらく金縛りにあったように動けなかったが、すぐに我に返って立ち上がり、待機していたリビングから廊下に出た。

 山岡博道が電話をしているはずの書斎の前には、すでに妻の真知子が立っている。
「奥さん、先生は…?」

 ドアは開け放たれていた。

 ゆっくりと振り返った真知子の顔から、血の気が失われている。

 ゆりなは鼓動が速くなるのを感じながら、真知子の近くへと歩み寄り、部屋の中を覗き込む。
「…せん…せ…」

 ゆりなは息を呑んで、呼吸を止めた。

 目に飛び込んできたのは、ソファの足元にうつ伏せになり、痙攣(けいれん)する山岡の姿。

 その脇には携帯電話が転がっている。

 慌てて掛け寄ったものの、手を触れるのはためらわれた。

 口から泡を吹いている。

 次の瞬間、山岡の身体から震えが止まり、ガクンと力が抜ける。
「先生? せんせ…」

 呼吸が完全に止まっていた。

 ゆりなは崩れるように両膝をつき、そのままへたり込んだ。

 真知子はドア口から一歩も動けず、夫の亡骸(なきがら)を呆然と見下ろしていた。

2 差し替えられた薬

「暑いですね〜。地球温暖化はいよいよ深刻さを増していますよ」

 喫茶斉藤のドアを身体で押し開けるようにして入ってきた佐伯巡査部長が、警棒を団扇(うちわ)代わりに、自らを扇ぎながらぼやいた。
「孝憲くん、お水ちょうだい」

 崩れるように向かいの席に座り込む佐伯を見て、晴香は窓外に目を向ける。

 陽射しが容赦なく照りつけていた。
「孝憲く〜ん!」

 椅子の背に身体を預けるようにして、佐伯がウエイターの名前を繰り返したとき、ゴトンと音を立て、水の入ったコップが荒々しくテーブルに置かれた。
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