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(2021/11/26 追記)

犬耳書店の作品をRenta!に順次移行します。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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リピーターが“雪だるま式”に増える集客術! 行列ができるお店がやっている「ニーズ」創出8つの方法!
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ビジネス
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プロローグ

『リピーターが“雪だるま式”に増える集客術! 行列ができるお店がやっている「ニーズ」創出8つの方法!』
[著]藤村正宏 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:9分
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 ん?


 君が本当にぼくの話を聞きたいんだったら、ぼくがどこで生まれたかとか、子供のころどういう環境で育ったかとか、両親が何をやっていたか、なんてくだらない話から聞きたがるかもしれないけどさ、実をいうと、ぼくはそういう話は、しゃべりたくないんだな。


 まず第一に、ぼくには心暖まる少年時代のエピソードもなければ、伝説的な色彩にいろどられた家系があるわけでもない。

 ごく一般的な家庭に生まれ、ごく普通に成長し、ごく普通の大人になっただけだから。

 そして第二に、そういうことはこの話に、まったく関係ないからね。


 君だって本当に聞きたいのは、ぼくがどうやって、あの瀕死の店(本当にひどかったんだよ)の売上を上げたかってことだよね。

 それも、コストのかからない方法で、ほとんどアイデアだけでね。


 もう死にかけていた店を、どんな方法で超優良店にしたか?

 そしてそのヒントを与えてくれた、あの不思議な老人。そう『トミーさん』と、どういうふうに出会って、どういう会話をしたのか?

 そういったことのほうが、面白いと思うよ。

 役立つかどうかは、君しだいだけどね。

 それを話すためには、ぼくがまず、どうしてあのやっかいな店の店長になったか、それから話すよ。


 そもそも、一体全体どうしてぼくが小売店に行かなければならなかったのかは、いまだにわからないんだ。

 だって、ぜんぜん小売業の経験もなかったし、サービス業や客商売だってやったことなかったんだ。

 もともと広告代理店志望だったんだよね。

 だから、大学を卒業して、広告代理店に就職できたときには、すごくうれしかったよ。

 これでぼくもあの華やかな世界の一員になれたって。

 ぼくが就職した会社は、中堅の広告代理店で、ま、そこそこの仕事をしていた。テレビCMや新聞広告、展示会や店頭プロモーション、もちろんインターネット戦略などもね。

 大学では経済学を勉強していたんだ。だからマーケティングの知識もそれなりはあったし、広告学だって勉強したよ。

 それを活かして、カッコイイ広告を創りたいって、胸に希望を燃やしていたってわけ。


 7月。研修も終わり、本来の配属先に出社することになったんだ。

 新規事業本部に配属された新人は、ぼくひとりだった。

 出社すると、すぐに本部長に呼ばれたんだよ。

 「風間君……君ね、北海道に行ってもらうことになった」

 「は? 出張ですか?」

 「いや、転勤だよ」

 「え?」

 ぼくは愕然としたね。

 (!? いきなり転勤?

 「いつからですか?」

 「来週の月曜には、北海道に出社してほしいんだ」

 ぼくは心の中で、日にちを数えていた。

 (今日は木曜日だから……)

 土日を入れても、準備に4日しかないじゃん!


 「向こうで住むアパートや航空券はすでに会社で用意してある。それは後で総務から説明があるよ」

 「はい……」

 「実はこのプロジェクトは、新規事業本部として、どうしてもやらなければならないものなんだよ」

 (おぉぉ……プロジェクトなんて、カッコイイじゃん!

 ぼくは心の中で叫んだ。

 「君は大学でマーケティングを学んでいたよね」

 「はい!」

 「小売りチェーンも大丈夫かな?」

 「一応、勉強しました」

 「そうか、それはよかった」

 部長はぼくの返事を聞くと、急にひとなつっこい笑顔を浮かべ、話しはじめた。


 そして、小一時間……。


 そのわずかな時間で、ぼくは完全に天国から地獄にひきずり落とされてしまったんだ。


 手渡された辞令には「『カメラのアーク(ひがし)北海道事業部』に出向を命ず」って書かれていた。

 「カメラのアーク」というのは、ぼくが入った会社の大きなクライアントなんだ。

 全国に500店舗以上あるカメラ専門店で、広告の経費だけで年間40億円も使っている。

 そのうちの70%以上の広告、たとえば新聞折り込みチラシや、雑誌広告、ダイレクトメールなんかは、ウチが担当しているわけなんだな。

 ま、すごくつながりが深い会社なんだよね。

 「その会社に出向せよ」ってことなんだ。


 (え!? 出向ってなんだ? 違う会社になるのか? それにしても、東北海道?

 ぼくの頭は混乱してしていた。

 北海道っていっても、札幌じゃなかったんだ。札幌は学生時代に一度行ったことあるんだ。

 大都会だよね。なんたって、200万人近い人口なんだから。

 北海道って言われて、ぼくは一瞬札幌かと思ってしまった。

 でも、東北海道……。どこだ?


 その週の金曜日、ぼくは新人歓迎会と送別会を同時に開いてもらったんだ。

 その時の同僚や先輩が同情の目をしていたと感じたのは、ぼくの錯覚なんかじゃなかったと思うよ。

 なんだかいきなり社会の波というか、きびしさというか、そんなものに巻き込まれたって感じ……。


 北海道の東側って行ったことなかったんだけど、その空港に着いた時には、驚いたね。すごい霧だったんだ。

 その地方は、霧が名物で、1年のうちの100日以上が霧なんだって。

 しかもほとんどそれが、春から夏に集中しているんだよね。

 よくこんな霧深い滑走路に降りられるなぁって感心していたんだけど、後から聞くと、その空港の管制システムはカテゴリースリーとかいう、優秀なのを使ってるんだな。


 ま、そんなことは関係ないね。

 ともかく言いたいことは、夏という季節がないところだっていうこと。

 7月だっていうのに、寒いんだ。

 とんでもないところに来ちゃったなって、それがその街の第一印象だった。

 その街は人口が20万人弱の、地方都市で、昔は水産業や炭鉱でにぎわった街なんだよね。

 今はというと……。

 水産業はダメ。

 炭鉱は閉山。

 人口がじりじりと減少している。

 経済的には、まったく恵まれていない街だったわけだ。


 それですぐさま『カメラのアーク』東北海道事業部に出社したんだ。

 事業部っていっても、ちっちゃな事務所でさ、「おいおい、こんなところで働くのかよ」って感じだった。

 ところがさ、事業部長が出てきて、

 「ああ、風間浩二君ね、ちょっと待ってね」

 というと、抽出(ひきだ)しから書類を出して、ぼくに渡すんだ。

 それは「辞令」だった。


 『カメラのアーク駅前店 店長を命ずる』って書いてあったんだ。


 またもやぼくは、混乱してしまった。

 「店長? なんだ???

 いきなり小売店の店長だよ。それも、「引き継ぎ」も何もない状態でだよ。

 前の店長はノイローゼで入院中なんだってさ。

 ま、『カメラのアーク』555店舗の中で、一番成績が悪い店舗だと聞いたのは、それから1週間後のことだけどね。


 「いきなり店舗に行って、その日から店長なんてできるんですか?」

 ぼくは事業本部長に聞いたんだ。そしたらA4サイズのファイルが、どーんと出てきたんだ。それはマニュアルだった。それも、たくさん……。

 「商品発注マニュアル」

 「経理マニュアル」

 「接客マニュアル」

 「プロモーション・マニュアル」

 「店舗運営マニュアル」

 ……などなど、合計21

  5センチくらいの厚さのファイルが21冊だよ!


 「このとおりやれば、大丈夫。君は今日から店に行って、1週間で、このマニュアルを読むこと。売上はひと月ごとに報告してもらう。駅前店の売上を上げることが、君の役目だ。店員は全員アルバイトだからね。正社員は君だけ。今日から新しい店長が来るってことは、スタッフに伝えてある。じゃ、がんばって」


 「ありえない」って、口に出して言っちゃったよ。


 『カメラのアークは、写真のある暮らしを応援しています』


 駅前店の看板の下には、そういうキャッチフレーズが書いてあった。

 店に入っていくと、茶髪の若い女性店員が、ニコニコして、「いらっしゃいませ」と挨拶をした。

 売場面積の小さい店だった。(実際は40坪くらいの、アークの中では平均的な店なんだけどね)。

 よく整理してあり、すっきりとしている。BGMにサザンオールスターズの曲がかかっていた。

 でも客はひとりもいなかった。

 ぼくはその若い女性店員に声をかけた。

 「こんにちは。今日から配属になった、風間といいますが」

 「は?」

 「あの、風間といいますが」

 「あ、ああ、もしかして新しい店長?」

 「はあ、一応……」

 こんな具合に、ぼくの店長生活が始まったんだよね。


 この街の駅前は、昔はずいぶんにぎやかな繁華街だったそうだ。

 でも、他の地方都市と同じように、ドーナツ化現象が起きていたんだ。

 郊外に街の中心が移行してしまい、それまでの中心地の集客力が減少してしまう。

 人が来なくなって、今はシャッターを下ろした店も目立つ、そういう商店街だよ。

 北大通商店街。

 「きた大通り」っていうんだ、「ほくだい通り」じゃないからね、念のため。

 ま、そういう寂れた商店街の一角にあったわけだ、ぼくが店長をやる店は。


 それからというもの、ぼくは必死だったよ。

 マニュアルを読んで、アルバイトの店員とコミュニケーションをとり、商品の仕入れをして、接客して、本部から提案があるチラシの発注をして……。

 あっという間に2カ月がたった。

 そのあいだ中、ほとんど休みがなかった。休んだのは2カ月で3回くらいだったと思う。


 でも、店のほうはなかなかうまくいかなかった。一所懸命やっているのに、売上は一向に上がらないんだ。上がるどころか、じりじりと下がっていった。

 前の店長から、ぼくに代わって、さらに売上は落ちていったんだ。

 これはショックだったね。

 「おれって、能力ないのかな……?

 本気でそう思った。

 アルバイトやパートの人たちも、マニュアルどおりの接客をしていたし、商品の仕入れも、ディスプレイも、POPも、チラシを入れた週末に売り出しのハッピを着るというのも、マニュアルに従ってやっていた。

 でもやっぱり売上は上がらなかった。

 ぼくが売上を上げようと必死になっている間に、短い夏は気づかぬうちに過ぎていってしまった。

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