読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1056032
0
進化するアカデミア 「ユーザー参加型研究」が連れてくる未来
2
0
0
0
0
0
0
ビジネス
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
はじめに

『進化するアカデミア 「ユーザー参加型研究」が連れてくる未来』
[著]江渡浩一郎 [著] ニコニコ学会β実行委員会 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:7分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ





 新しい何かを発明・発見し、その原理を誰もが使えるような形で公表し、それによって社会全体を大きく発展させる。それが研究であり、そのような仕事に従事するのが研究者だ。現在、特にIT(インフォメーション・テクノロジー、情報技術)の分野では、そういった研究成果が、目に見える形で社会を動かしている。インターネットやWebの発展は日々目覚ましく、加えてコンピューターやスマートフォンといったハードウェアのコストが下がったことで、誰でもソフトウェアをつくって世に出せる時代が来た。そのように「知を生み出し共有する仕組み」が普及したことで、さらにイノベーションが起こりやすくなっている。イノベーションのスパイラルが起こっているのだ。


 もともとコンピューターもインターネットもWebも、つくったのは研究者だった。IT分野の研究成果が産業へと移転し、ビジネスの現場で使われるようになっていった。コンピューターは企業で使われるようになり、次にパーソナルコンピューターが登場し、一般の人々も道具としてコンピューターを使うようになった。そして、Webの登場と普及により、企業だけでなく個人がWebサイトやソフトウェアをつくって、自由に公開できる時代となった。Facebookのように、最初は個人が趣味でつくりはじめたWebサイトが、インターネットを通じて多くのユーザーに広まり、世界を席巻する。そんな例も珍しくない。知を共有する仕組みが発展し、一般に広まることによって、さらに共有されたものから新しいものが生み出される。プロだけでなく一般の人が、能動的に最先端の技術を使うようになったことで、全体としてのクオリティが飛躍的に上がった。コンピューターもインターネットもWebも、「みんなが使う」ようになったことで爆発的にイノベーションが進展したのだ。



 同じようなイノベーションの爆発が、様々な分野で起こっている。たとえば音楽では、コンピューターによって音楽制作の敷居が下がり、さらに初音ミクの登場によって誰でも簡単に曲にボーカルが付けられるようになった。そこに動画コミュニケーションサイトである「ニコニコ動画」で多くの人に直接楽曲を見てもらい、反応を受け取れる仕組みが加わったことで、多くの優れた楽曲が生まれてきている。



 僕はもともと、こうした「創造性を加速させる仕組み」を研究対象にしている研究者だ。特に、多くの人がつながり、つくる人だけでなく使う人が反応することで創造性を進化させるような仕組み、いわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)やCGM(消費者生成メディア)を研究対象にしている。どういった技術を開発すればいままでにできなかった表現が可能になるのか。また、おもしろい創作物が集まる環境はいかに形成されるのか。そんなことをいつも考えている。


 もともと、アカデミアの世界には「学会」というものがある。学会という言葉を聞くと、古めかしい、堅苦しいといった印象を抱く人が多いかもしれない。インターネット全盛の時代に、そんなところから新しい何かが生まれるのだろうか、と。しかし、実際のところ、学会こそが「創造性を加速させる仕組み」として考案されたものなのだ。おのおのの研究者による発明・発見を研究者間で効率的に共有するために「論文」という形式が考えられ、それを学会という研究者コミュニティで共有し、論文誌によって拡散させる。そのような学会によってこれまでの研究が進められてきた。前述のようにコンピューターもインターネットもWebも、そのような研究の世界から出てきたものであり、つまりは学会という研究者コミュニティが孵卵器の役割を果たしてきたのだといえる。


 さらにいえば、Webそのものが、研究者コミュニティにおける情報共有をモデルとしてつくられたものだった。Webの発明者ティム・バーナーズ=リーは研究者で、世界中のさまざまな地域から研究者が集まるCERNという研究所で、研究者同士の情報共有がスムーズに行えるようWebをつくった。このとき、Webページを記述するためにつくられたのがHTMLで、これこそが「論文」を参考にしてつくられた形式だった。このように、研究者コミュニティの情報共有のあり方をモデルにして生まれたWebだが、誰ももうそんなことは覚えていないだろう。現在のインターネットは、Webの誕生から大きく先へと進んでいる。


 そこで僕は考えた。そろそろ逆転してもいい頃なんじゃないだろうか。つまり、研究者コミュニティを参考に生まれたWebは、世界中を覆うくらいに巨大に発展した。そのWeb上では、一般のユーザーを交えて、新しい創造物を生み出すということが日夜起こっている。もしかしたら、そのような現状のインターネットのあり方を、研究者コミュニティに逆輸入する形で取り入れることができるのではないだろうか。つまり、学会という研究者コミュニティを、現在のWebのように「誰でも発表でき、誰でも意見をいえる」仕組みへと発展させ、それによっていままでになかったような新しい形の学会をつくることができるのではないか。研究者以外の一般の人もその輪の中に取り込んだ、地球規模の研究者コミュニティへと発展させる。そんな構想を考えたのだった。


 この構想を実現に移すには、ふたつの選択肢があると考えた。ひとつには、すでにある既存の学会を発展させ、一般の人を取り込み、広げていくという方向性だ。つまり、いまのインターネットのような「創造性を成り立たせる仕組み」を既存の学会へと融合させるのだ。もうひとつは、まったくのゼロから新しい形の学会をつくり上げるという方向性だ。僕たちは、後者を選んだ。インターネットの普及によって世界は大きく変わってしまった。変化した新しい常識に対応する何かをつくるには、既存の組織を変化させるだけでは到底追いつけないのではと考えたのだった。そこで、僕たちが2011年11月に発足させた研究者コミュニティが、本書のテーマである「ニコニコ学会β」なのである。



 本書には複数の話者が登場する。この「ニコニコ学会β」自体が、複数の人間の知見によって運営され、ひとりではできないことを成し遂げる仕組みなのだ。大学で教鞭を執る学者や研究機関に在籍する研究員から、チームラボ株式会社や株式会社ドワンゴといったIT企業、コンテンツ配信・インフラ提供会社に勤める者やデザイナーやアーティストなど、全員がさまざまな本業を持ちながら、年に2回のシンポジウムと合間に開かれる研究会の運営に、それぞれの労働力と知見を提供してくれている。せっかくなので本書ではそういうニコニコ学会βを支える人たちに「解説者」のような形で登場してもらった。


 あらためて読むと、それぞれがそれぞれの立場でニコニコ学会βについて日々考え、掴んだ実感や発見をベースに活動をしていることがわかり、興味深い。同時に、このニコニコ学会β自体がまだまだ完成形とはとてもいえないものながら、お互いが影響しあって創造性を加速させる装置になっていることの喜びを感じた。



 発足以来、ここには実にたくさんのユニークで聡明で、そして熱き心を持った人たちが集まってくれた。これまでに3回のシンポジウムを実施し、そのすべてをニコニコ生放送で無料で中継した。これまでのオンライン視聴者は総計25万人以上(録画での視聴を含まない、すべて生放送での視聴数)、コメントは14万件を超えている。そして現在は、第4回ニコニコ学会βシンポジウムの準備の真っ最中である。これらすべてが進化をもたらすエネルギーであると考えている。そのエネルギーが研究を多様な形で発展させ、僕たちの未来を明るい方向へと牽引してくれることを、心の底から願っている。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:0文字/本文:3171文字
      この記事を収録している本
      レビューを書くレビューを書く

      今レビューすると30ポイントプレゼント! 今レビューすると15ポイントプレゼント! 犬耳書店で初めてのレビューはさらに30ポイント! ポイント詳細はこちら

      この本の目次