『進化するアカデミア 「ユーザー参加型研究」が連れてくる未来』
[著]江渡浩一郎
[著] ニコニコ学会β実行委員会
[発行]イースト・プレス
私は2008年5月28日に、同僚の中野倫靖と共同で、ヤマハの歌声合成技術「VOCALOID」をより自然に歌わせる技術である「ぼかりす」(正式名称「VocaListener」)を学会発表しました(2012年10月19日に製品化)。この発表の際に、いわゆる一般的な、学術成果を出して論文を書いて学会で発表する、という流れに新たな試みを加えました。まずニコニコ動画に研究のデモンストレーション動画として「【初音ミク】PROLOGUE【ぼかりす】」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm3128145)を2008年4月28日に投稿したのです。歌声合成ソフトウェアにはVOCALOIDに基づく「初音ミク」を使用していました。
投稿するとその晩から視聴数が増えて、コメントがつき始めました。ニコニコ動画に本名で投稿する方はほとんどいなかったので、我々もその流儀に従い、「ぼかりす」とだけ書いて本名を出しませんでした。投稿前は我々の動画はほかの動画に埋もれると思っていたのですが、結果的に、いったいどんな技術で誰が投稿したのか、といきなり大きな反響があって驚きました。
当時の「初音ミク」の歌声合成結果と比較したときとの自然さの違いから、賛否両論様々な議論が起きました。そうしたなかで、投稿翌日には早くも、我々が投稿したのではないかという指摘がコメントで出始めました。既に5月28日の学会のプログラム中に我々の発表タイトルが出ていて、「VocaListener(ボーカリスナー)」と書かれていたのに、誰かが気づいたのです。「この楽曲は後藤が代表者として制作した研究用音楽データベースに収録されているし、この『ボーカリスナー』というのは略すと『ぼかりす』になるじゃないか」と気づき、あっさり特定されてしまったようです。ただ、もともと他の研究者に矛先が向いて迷惑をかけないように、最終的には責任を自分たちで取るつもりで関連性がわかる略称を我々はつけていました。とはいえ、そんなに早く気づかれるとは思っていませんでした。
「賛否両論様々な議論」の内容については、特に、
「ミクっぽくない」
「手作業でのパラメータ調整を楽しんでいる文化を邪魔しないでほしい」