話を旅に戻そう。新しい音楽に出合うために旅をしていた僕は、チベットの高地ラサに向かっていた。ひどい頭痛で、意識が朦朧とする。『なんで僕はこんなところにいるんだ……』やっとの思いで目を開けると、窓ガラスが蜘蛛の巣状にバリバリにひび割れた車の助手席に座っていた。
「そうだ。中国からチベットの古都ラサに向かっているんだった」。富士山を凌ぐ標高にある山道を車で移動するうちに、僕はすっかり高山病にかかっていた。ゴルムドという街で、ドラゴンと名乗る男から、ラサまで連れて行ってくれる馬さんというドライバーを紹介してもらったのが約一〇時間前。もともと古い車で険しい山道を走り続けてきたけれど、いまでは窓ガラスまでもがボロボロに。さらに、トレーラーの横転で道路が塞がれ通行止めになってから五時間近く、成す術もなく立ち往生。