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中国のマスゴミ ジャーナリズムの挫折と目覚め
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政治・社会
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鶴と空椅子の1面写真――南方都市報

『中国のマスゴミ ジャーナリズムの挫折と目覚め』
[著]福島香織 [発行]扶桑社


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 2010年1212日、その日の南方都市報の1面は実に奇妙だった。1面写真は広州で行われていたアジア大会パラリンピックの開幕式のリハーサル風景を写した写真だった。仮設舞台の上で演出に使われる鶴5羽に向かって、調教師が手のひらをかざして訓練している背後に、人の座っていない空の椅子3脚が写っている。見出しは「アジア大会パラリンピック今夜開幕 3・9万の花火が羊城(広州)を照らす」。


 しかし、これを見たある広州市民は、これは絶対何かある、と少し考えた。「南方都市報はいつも、1面写真はものすごくこだわっている。こんなつまらない、美しくもない写真を一面に載せるわけがない」。そして、あっと気付いた。


 鶴は中国語で「フー」、和(フー)と同じ発音。仮設舞台は平台(ピンタイ)、手のひらは掌(ジャン)で賞(奨=ジャン)と同じ発音だ。続けて読むと和平奨(フーピンジャン=平和賞)。空の椅子は、10日の夜にノルウェー・オスロで行われたノーベル平和賞授賞式で、海外メディアが撮影し配信した・無人の椅子に置かれた賞状とメダルの写真・を連想させた。




 この1面写真は、中国人民として初めてノーベル賞を受賞した民主化活動家、劉暁波が国家政権転覆扇動罪で中国・遼寧省の監獄に服役中で、その妻の劉霞ら家族らも当局から出国許可を得られず、授賞式に受賞者・代理人とも参加できなかったため、「空の椅子が平和賞を受賞した」その暗喩であると思われた。鶴には「賀」(フー)の意味もある。


 南方都市報はこの写真を掲載することで、劉暁波のノーベル平和賞受賞を祝賀し、劉暁波関連のニュースについて、報道統制している党中央宣伝部に、面と向かってではなく、一見しただけではわからないように、ひそやかに刃向かってみせたのだ。「さすが、南方都市報、やってくれる」と、その広州市民はうなった。



 党中央宣伝部は「劉暁波のノーベル平和賞受賞については新華社配信の通稿以外使ってはならない」と各メディア編集部に通達していた。しかし、南方都市報の1面写真はノーベル平和賞についての記事ではなく、アジア大会パラリンピックの記事であり、党中央宣伝部の通達を無視したわけではない。しかも第二章で触れているように、南方都市報、南方週末の2紙に対しては宣伝部から直接「閲評グループ」が派遣され、出稿前の原稿をチェックするシステムがとられているので、この写真原稿もふくめて南方都市報の原稿はすべて宣伝部がゴーサインを出したものであるはずだ。だからこの写真を問題視することは、宣伝部自身の目の節穴ぶりを指摘することにもなる。


「してやった」と胸を張った南方都市報



 後で人を介して南方都市報内部の人に確認してもらうと、確かに、この写真は意図して組まれたものだった。当然、最終紙面をチェックする総編集長らも、その意図をわかっていたはずだ。そして、そういう紙面づくりをする前提に「南方都市報の読者なら、この程度の謎解きは解いてくれるはず」という読者への信頼もあっただろう。紙面掲載後の反響も含めて、南方都市報関係者は「してやった」と胸を張っていたそうだ。


 この数年、南方都市報と南方週末に対する圧力と原稿審査の目は厳しくなっており、内部のストレスは言いようのないレベルに達しているが、やはり節目節目に新聞人の矜持を見せつけてくれるのは、この広東省党委機関紙・南方報業メディア集団傘下の両南紙(南方都市報と南方週末)と言える。



 劉暁波については、今さら説明する必要はないかもしれないが、1989年の天安門事件以来、国内に留まり、戦い続けている言論の闘士である。2008年12月の世界人権宣言60周年を機にインターネット上で発表された中国の大幅な民主化を求める「零八憲章」の主な起草者で、これを理由に中国当局に逮捕され、2010年2月に国家政権転覆扇動罪による懲役11年の判決を言い渡されて現在服役中だ。


 彼について、その人柄や人格に対して不満を漏らし、個人的に好きではないと言う知識人はいないこともないが、彼の言論による逮捕・投獄を不当なものとして反対しない知識人には私はまだ出会ったことがない。劉暁波がノーベル平和賞を受賞したことは国内の体制内にいる知識人にとっても喜びであり誇りであり、中国の言論の自由を願う人たちの希望の光であることは間違いない。その言論の自由の象徴である劉暁波に関する報道統制に従うことは、心ある新聞人たちにとって本当に辛い情けないことだった。この南方都市報の抵抗は、同業者たちの評価も高かった。



 気になるのは、その後の関係者に対する処分である。この件に関してすぐに処分は発表されていない。汪洋・広東省党委書記は、アジア大会が成功裏に終えられたという自らの政治的功績に傷をつけたくないという思いから、この件を「省内の問題」として処理する決定をし、党中央には報告しなかったという。ただ、しばらく時間をおいた後、担当記者や編集長の更迭はあるかもしれない。


 最近はこの種の記者や編集長の報道統制への抵抗に対して、目立つ処分を下すと、それ自体が国際ニュースになってしまうので、当局側もひそやかに、一見してはわからないように編集長や記者を処分するらしい。しかし、それを恐れていては、中国で新聞記者などやっていられないのである。



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