幸せな気分に浸っているときこそ要注意――オハイオ州立大学のラウント博士らが自身の研究から、そんな結論を導きました。心理状態がヒトの判断にどんな影響を与えるかを調べるために五種類の実験を行った結果、「嬉しい気分のときには、表層的な手がかりを頼りに、安易に状況を判断する傾向がある」ことがわかったのです。
たとえば、こんな実験です。参加者にテーマに沿った短い作文をさせて、楽しい雰囲気と、そうでない通常の雰囲気を作りだします。そして、顔写真を見せて、その人が信用できるか否か判断してもらうのです。写真はCGで作成したもので、ふくよか顔に丸い目をした柔和そうな人から、髭を生やした強面の人まで、さまざまなタイプを用意しました。
平常の気分の時には、表面的な印象に流されず慎重な判断をするのに対し、楽しい気分のときには、良さそうな人には信頼感をいだき、悪そうな人には不信感をいだくという、見た目のままの単純な判断をする傾向が強まることがわかりました。
ラウント博士らは「幸せなときには、情報を注意深く分析しようというモチベーションが減るのだろう」と推測しています。さらに「ビジネス現場でも同じだ」として、次のような例を指摘しています――「クライアントとの大切な会議では、相手を良い気分にさせようと高級な弁当を用意しようと思うかもしれない。しかし、もし、あなたがまだ十分な信用を得ていなかったら、この意図は裏目にでるかもしれない」と。そうだとすれば、せっかくのアピールのチャンスを逃してしまうかもしれません。