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あやしい求人広告、応募したらこうなった。 人気バイトの裏側「実体験」ルポ
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ルポ・エッセイ
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採用前に作業用具を買わされた

『あやしい求人広告、応募したらこうなった。 人気バイトの裏側「実体験」ルポ』
[著]多田文明 [発行]イースト・プレス


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 求人情報によくある“軽作業”の募集。ひと口に“軽作業”と言っても、倉庫内での荷物の仕分けから、イベントにおける機材搬入まで様々な作業がある。


 そのなかでも求人数が多く、広告も目立つのは、荷物仕分けの軽作業だ。時給は1000円以上で、募集要項には「誰にでも簡単にできる仕事」と書かれている。誰にでも仕事ができて、時給が1000円を超えるアルバイトはそうそうない。ライターの仕事も持つ私にとって、限定された時間で、しかも短期でのアルバイトというのは、非常にありがたい条件である。


 さっそく、問い合わせ先の番号に電話をして、応募を申し出た。電話に出た男性は「求人に書いてあるように、まず面接会に履歴書と筆記用具持参でお越しください。特に面接には、予約の必要はありませんから」とだけ答えて、忙しそうに電話を切った。今回は、大人数のアルバイト募集ということもあり、応募が殺到しているのだろうか。その素っ気なさに不安な気持ちに駆られた。


 私が面接会場に着くと、すでに15人ほどが集まっていた。男女の比率は半々くらいか。まず面接会では、熟年男性社員から今回募集する“軽作業”の内容が説明された。

「今回の作業を簡単に言えば、宅配される荷物がトラックで倉庫に届けられます。それをみなさんアルバイトが配達される地域別に仕分けて、それぞれのコンテナに積み込むというものです。内容的には、難しい仕事ではありません」


 確かに難しそうな仕事ではないな……私のホッとした表情を戒めるように、男性は声を大きく張り上げた。

「いいですか! 今回の面接を受けた全員が受かるわけではありませんよ。後日、電話が行かなかった人は不合格ということになります」


 厳しい表情をして話す男性社員の姿に、私の顔も引き締まる。

「また、この作業をするにあたって、作業靴や手袋、ヘルメットはご自分で用意してもらうことになります。お持ちでない方には、購入してもらいます」


 しめて3000円ほどである。買わなければ仕事ができないとは……。3000円と言えば、2日は暮らせる金額なのに。

「ですが、前に作業をして、やめていった人が置いていったものがあるので、作業靴とヘルメットはレンタルすることも可能です。レンタル希望の方はいらっしゃいますか?」


 求職者らはお金がない上に物品まで買わされるのではたまらないという顔をして、次々に手を挙げる。だが、私は手を挙げなかった。というのも、私の頭皮は生来デリケートにできていて、人が一度でも使ったヘルメットを借りると、かゆくなったりする。まして、誰かが履いた靴を借りると、水虫になってもう最悪である。ここは2日間の生活費を棒に振ってでも、買わざるをえない。


 私のような思いを持つ人が3人ほどいた。その人たちに向かって、男性社員は続ける。

「それでは、レンタル希望者以外は、購入申込書を記入してください」


 私は購入の申込書を記入し始めたが、書きながら疑問を覚えた。面接に受かると決まったわけではないのに、何で、もう申込書を書くのだろうか? もしかすると、この面接では全員が合格になるのではないか? それに、物品を購入しなければ仕事ができないなんて、半強制ではないか。この場で質問したいことが頭に浮かんだが、余計なことを言って、面接に落ちたら最悪である。私は購入申込書を渋々、提出した。

「それではこれから面接を始めます。4~5人の集団面接になります」


 私の面接グループには、男性4人が集まった。白髪交じりのメガネをかけた男性社員は、私たちの顔を見ながら、「当社を受けた動機は何でしょうか」と尋ねる。受けのよさそうな志望動機を何にしようか。私は考えた。幸いなことにはじめに指をさされたのは、50代と(おぼ)しきスーツ姿の男性である。私はまず彼の答えを参考にしようと思った。


 彼はまじめそうな口調で答える。

「現在、私は離職中で仕事を探していますが、なかなか仕事が見つかりません。それで、何とか仕事がしたいと思って、応募しました」


 白髪交じりの男性社員は、「仕事がない」という言葉を聞いて、一瞬、同情するような視線を男性に向け、深く(うなず)いた。


 次に、身長が180センチはあろうかという体格のよい30代の男性が指をさされた。

「私は普段、建設現場で働いているのですが、ここのところ景気が悪くて、まったく仕事がない状況です。それで応募しました」


 彼もまた「仕事がない」ことを志望動機にしている。


 3番目に答えたのは、20代後半の男性。

「私の家はお店をやっていまして、普段は手伝っているのですが、この不況であまり商品が売れなくなりまして……」


 それを聞いた男性社員も、それは大変だという感じで頷いている。最後に答えるのは私だ。ここはやはりこの流れに乗り「仕事がない」「不況」で締めくくるしかないだろう。

「あなたは?」


 男性社員の鋭い眼光が私に向けられた。

「私もほかにもアルバイトをかけもちしていますが、ここのところの不景気で仕事が少なく、稼ぎが減ってしまいました。こちらで頑張って働いて、稼げればと思っています」

「不況ねえ……」


 男性社員はため息をつくように頷いた。この雰囲気なら、みんな採用ではないか。この種の大人数のアルバイト募集では周りと同じ無難な答えをすることが大切だという気がした。


 次に、私たちの希望勤務日や時間帯を確認された。私はライターの仕事とのからみから、週2回を希望したが。そのほかの求職者たちはやる気満々で「夜勤を連続で、1週間続けて入りたいと思います」などと言って、男性社員から「社内規定により、連続で働けるのは4~5日までになっています。途中で休みの日を入れてください」と制止されていた。


 とにかく、1日でも多く仕事にありつこうとする求職者たち。それだけこの不況がこの社会に住む一人一人を直撃しているということだろう。私とてライター職だけでは充分な収入を得られないわけだから、抱える事情は変わらないのである。


 こうして面接会は終了した。


 翌日、ドキドキしながら電話を待っていると、お昼すぎにかかってきた。

「おめでとうございます! 合格です! ぜひとも多田さんにはお仕事をお願いしたいと思っております」


 合格の知らせに私はホッと胸をなで下ろした、ここのところ、いろいろな面接で次々に落ち続けていただけに、この一報は何より嬉しかった。

「はい、ありがとうございます!」

「それでは、勤務は来週の土曜日からになります」


 そんなやりとりに自然と顔がほころぶ私だったが、実は喜ぶなんてとんだお門違いだったということに、このあと、気づかされる。


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