『あやしい求人広告、応募したらこうなった。 人気バイトの裏側「実体験」ルポ』
[著]多田文明
[発行]イースト・プレス
警備員は万年人材不足と言われている。未曾有の不況が日本を覆っても、この業種だけは求人誌の誌面を賑わせている。それどころか、この不況こそが人材獲得のチャンスとばかり、積極的に人材確保に乗り出しているところもあると聞く。
警備員と言われて、真っ先に思い浮かぶのが道路工事。赤色灯を持って、車や歩行者を誘導したり、イベントやデパートなどで駐車場案内や人員整理をおこなったりしている人たちである。彼らは雨や雪が降っても、夏の炎天下でも1日中、歩行者を誘導している。はたから見ているだけでも、警備の仕事はなかなか大変そうだ。
警備はきつい仕事の割には給料が安いために、敬遠されていると聞くが、本当のところはどうなのだろうか。逆に言えば、多くの人に敬遠されているような仕事であれば、私のような中高年、特に手に職がないという求職戦線のマイノリティであっても職につけるのでは? とも考えられる。何事もやってみなければわからないと思い、さっそく応募することにした。
求人情報誌や求人サイトで警備員の募集を探すと、実にたくさんの記事が出てくる。そのなかから、私はライター職などの兼務との時間的都合を考えて、週に2日程度の仕事が可能なところを探した。
最初に目をとめたのが「週1日からでOK。時間や曜日はお気軽にご相談ください」と書かれたA社の求人募集である。スケジュール的にも合いそうなので、私は即、求人サイトから応募した。
するとその日のうちに、A社からメールで連絡があった。
「ご応募を受け付けました。お電話ください」
ほとんどの会社は、応募を受け付けたら向こうから電話をかけてきてくれるものである。経済的な理由で職を探している側にとっては、電話代はできるだけかからないほうがありがたい。この会社は、こうした求職者の事情を考えていない印象を受ける。コレクトコールで電話してやろうか、との思いにすら駆られる。
私が電話をかけると、男性が出た。
「今回はご応募ありがとうございます。これまでに警備の経験はありますでしょうか?」
「いいえ、警備は未経験です」
「そうですか。当社では研修がありますので、未経験者も大丈夫ですよ。週にどのくらいの勤務をご希望でしょうか?」
丁寧なものの言い方で、対応は悪くない。
「ほかにも仕事をしているので、週2日くらいを考えています」
「わかりました。少々お待ちください」
保留音も流さずに、男性は私を待たせる。言葉こそはっきり聞こえないが、受話器の横で上司とこそこそ話しているのが窺える。私の面接日でも決めているのだろうか。
ところが、再び男性は電話に出るなり、さっきまでの丁寧な感じが消え、威圧的な態度になっていた。
「お待たせいたしました。残念ながら、今回の応募では週5日できる人を募集していますので、週5日でお願いします」
この言葉を聞いて、私は唖然とした。
「この求人には、週1回から大丈夫と書いてありますが」
「ええ、もうその募集は採用者が決まってしまったんです。だから現在は、週5日希望の方のみ受け付けています」
男性は一歩も引く様子もなく、週5日の勤務を押しつけようとしてくる。私は求人サイトの情報を再度確認した。ここには掲載期間が記載されているが、まだ募集を開始したばかり。それなのに、すでに週5日の応募しか残っていないというのは、おかしい。
警備とは他人の信頼を守る仕事である。それなのに、「求人情報の内容に偽りあり」では、会社の信用が根底から揺らぐ。
私はムッとしながら「今回の応募は辞退します」と一方的に電話を切った。